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【書籍版】錬成七剣神(セブンスソード)  作者: 奏 せいや
第六章 未来に架かる七つの光
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ついに決着

 兄さんも。香織には目もくれずその視線はずっと俺を見つめている。


「でも、聖治君!」


 心配そうな香織の声を聞くとそんな思いをさせて申し訳ないと思うけど、でもこれは引けないんだ。


「沙城、気持ちは分かるが見守ってやれ」

「でも皆森君! こんなのおかしいよ、なんの意味があるっていうのよ」

「男の意地だ、分からなくていい。ただ見てろ」

「そんな……」

「負けんなよ、相棒」

「もう!」


 背後からみんなの信頼を感じる。この勝負、邪魔は入らない。そのことに感謝しつつ俺は兄さんを見た。


「あんたを止める」

「なぜそこまでする? お前はなぜ戦う? なぜ諦めない?」


 兄さんから聞かれそれにゆっくりと答える。


「あんたが、命がけで繋いでくれた絆だからだ」


 スパーダを肩に乗せる。血が流れこれだけでかなりの重労働だが止めたりしない。


「俺はもう諦めない。誰も見捨てない」


 疲労が全身に圧しかかるけれど、俺の意志は折れていない。


「それが、この旅で見つけた答えだからだ!」


 どんなに辛くても、どんなに苦しくても、未来を諦めないと誓った。

 体が悲鳴を上げている。その内側で心が叫ぶ。

 この人を、絶対に取り戻すんだと!


「その怪我で動けば死ぬぞ、怖くはないのか?」

「……ふ」


 険のある顔だが、その問いに笑ってしまった。

 だってそうだろう?


「あんたは俺を、死んでも守ってくれたじゃないか」


 この人は守ってくれた。ボロボロになって、死ぬその時まで。


「だから俺もする。いつまでも、あんたに守ってもらう俺じゃ駄目なんだ!」


 互いにスパーダを構える。屋上にはみんなが俺と兄さんの一騎打ちを見守っていた。


 長かった戦いもこれで終わる。これまでの戦いで体力も魔力も尽き果てて、最後に残ったのは体を動かす思いだけ。


 どちらの思いが強いか。これは自分との戦いだ。この思いが本物かどうか。

 俺たちは走り出した。俺はシンクロスを抱えながら、兄さんは鞘を捨て刃を露わにして走る。


「うおおおお!」


 この一撃にすべてを込めて、スパーダを振るう。これで終わりだ!


「!?」


 その直前、俺はシンクロスを止めていた。


「…………」


 シンクロスが兄さんの前で止まっている。対して兄さんは振り上げたまま、俺に攻撃していなかった。


「なんで、下ろさないんだよ」

「お前こそ、そのままやればよかったものを」


 兄さんの腕がゆっくりと下りていく。その表情はとても静かで、俺を見つめていた。

 それで分かった。


 この人は、俺に殺されるつもりだったんだ。


 けれどそんなの俺は望んでいない。あんたも生きていないと意味なんてないんだ。

 だから、俺はシンクロスを止めていた。


「強くなったな」

「え」


 そこで、兄さんはつぶやいた。

 兄さんは踵を返し離れていく。多少ふらつきながらだが鞘を出現させて納刀していた。


 それは戦闘終了の合図、で、いいんだよな?


 胴体の傷にあった違和感が消えていく。天黒魔の呪いを解いたんだ。

 背中を見せる兄さんに戦意はない。ピリついた雰囲気も霧消して俺からも緊張が抜けていく。


「あ」


 直後、力まで抜けてしまい体が後ろに倒れる。やばい、疲労で腕が動かないッ。

 俺は倒れるが、それを支えてくれた。


「聖治君!」

「か、おり」

「待ってて、すぐに治すから!」


 自分の天志では治すための魔力も気力もない。香織は優しく地面に下ろすと桃色の光で傷を治していく。


「無茶し過ぎだよ、本当に死ぬかと思ったんだからね!」

「ごめん。無茶したよな、二度としないよ」

「絶対だよ! あのねえ、本気で怒ってるんだからね!」


 怒られる。それで俺は香織の顔を見上げるが、その目には涙が浮かび、流れていた。


「聖治君が死んだら、わたしはぁ!」

「分かった。ほんと、ほんとごめん」


 本当に申し訳ない。心配させてごめん。


 それで胴体の傷は完治してくれた。ただ疲労や魔力切れはそのままで香織に手伝ってもらいながら立ち上がる。


「えーと、それでどうなったの?」


 日向ちゃんが周りの顔を伺いながら聞いている。そりゃそうだよな、分かりづらいよな。でも俺には分かっている。


『強くなったな』


 あの一言は俺を認めてくれたんだ。自分や仲間たちが犠牲になる必要がないくらいに。だから。


「大丈夫だ、終わったよ」

「ほんとに!?」


 日向ちゃんが興奮した様子で駆け寄ってくる。


「ああ、ほんとだ。セブンスソードは終わったんだ」

「よかった~。ナイスファイト聖治さん!」

「おう」


 日向ちゃんの心底安心した顔を見ると俺も表情が緩くなる。もう俺たちで殺し合うことはない。

 後から此方も歩いてくる。日向の肩に手を置き微笑んだ顔を見せた。


「やったわね」

「ああ、なんとかな」


 此方のほっとした表情に俺も同じ表情で答える。


「終わった。よかったんだな~」

「おう、まだまだやることはあるがなんとか最初の難関突破ってとこだな」


 力也と星都も嬉しそうだ。


「やったね、聖治君」

「ああ」


 彼女が浮かべる嬉しそうな顔。それを見て俺の胸の中にあった喜びがさらに大きくなっていく。

 彼女を守る。そう決意した日から始まった。

 そして今、彼女は俺の目の前にいる。無事な姿、笑顔のままで。

 良かった、本当に。


「みんなありがとな、俺が勝つって信じてくれたんだろ?」

「それはそうだけど~、でも私は心配だったよ! てかみんなは本当に心配してなかったの?」

「俺は信じてた」

「わったしも~! 聖治さんならやるって思ってたしね」

「はは」


 星都や日向ちゃんの素直な感想に嬉しい反面照れる。


「織田君や此方ちゃんは?」


 それで香織が聞くが二人はどうなんだろうか。


「私は……」


 此方はそう言うと目つきを変えていた。


「もし聖治が負けたらどう倒そうか考えてた」

「僕も。聖治君の仇は僕が討つ」

「お、おう」


 二人の目つきが細められ攻撃的になっている。武闘派かよ。てか力也もそっち側か。


 みんなとの会話が盛り上がるが、俺はふと気になって兄さんに顔を向けてみた。

 ビルの屋上の端、フェンスの前に立って夜景を見つめている。もしかして居心地悪いかな?


 すると兄さんは歩き始めてしまった。


「ちょっと待ってくれよ!」


 慌てて駆け寄る。なにも言わずどこかに行く気かよ。


「どこに行くんだ?」


 兄さんは足を止めてくれたが振り返らない。


「これからは一緒にいられるんだろ? ほら、こうして出会えたんだ。な?」


 以前みたいな状況ならともかく今は違う。スパーダとしての仲間になったんだ。一緒に戦える!


「聖治」


 そう思う。だけど。


「俺は一緒にはいられない」

「え」


 一緒にはいられないと、そう言った。


「なんで!?」

「お前にはしなければならないことがある」

「俺が?」

「そして、俺にもな」


 俺のやるべきこと。兄さんのやるべきこと。その言葉が具体的になにを指しているのか、今の俺には分からない。

 それでも、俺は兄さんにそばにいて欲しかった。


「でも」


 不安が胸を締め付ける。せっかく出会えたのに別れるなんて。

 そんな俺に兄さんは振り返った。


「安心しろ。お前ならやれる」

「え」


 正面から言われる。そう言われるのが意外でなんというか、驚くと同時に照れる。


「もう、約束がなくてもな」


 でも、なにより嬉しかった。そう言ってくれて。この人に認められたことが、嬉しかった。


「それに」


 言葉を止めて俺の背後に目をやる。追いかければそこにはこちらを見ているみんながいた。

 兄さんが俺を見る。その目は戦っている時の目とは違うけどそれと同じくらい真剣なものだった。


「お前は一人じゃない。俺に守られる必要もなくなった」


 その目をじっと見る。俺を認めてくれた男の目。それを胸に刻んで俺は頷く。


「分かった」


 この人の思いを否定なんて出来ない。せっかく認めてくれたのに俺が認めないでどうするんだ。


 むしろ、認めてくれたことを誇りに思うべきだ。


 認めてくれたこと、守ってくれたこと。様々あったことは一言なんかじゃ表せないけれど。


「ありがとう」


 そう言った。命の恩人であり、尊敬する人に向かって。


 兄さんは俺の感謝を聞くとふっと笑い踵を返し歩き出していった。白いコートの端が揺れ遠ざかっていく。

 もう少しで兄さんは行ってしまう。


「待ってくれ!」


 次、いつ会えるか分からない。今度はいつ話せるか。そんな不安に気づけば言っていた。


「ずっと、言いたいことがあったんだ」


 兄さんの足が止まる。

 言うなら、今しかない。


「あの時、嫌いだなんて言って、悪かった。それがずっと心残りだったんだ。ずっと後悔していた。あんたの気も知らないで」


 家から出て行った日。どんなに止めてもこの人は聞かなくて、俺を置いて出て行った。その時言ってしまった言葉を俺はずっと後悔していた。なんで言ってしまったんだろう。家族のためだって分かっていたはずなのに。その時の俺は感情のまま勢いで言っていた。


 俺のために家を離れる人に、ひどいことを言ってしまったんだ。


「聖治」


 俺の名前がビルの屋上に響く。なにを言われるだろう。少しだけ不安になる。

 そんな心配の中、兄さんは振り向いた。


「分かってるさ」

「――――」


 家族を守るために戦って、感謝もされず、それでも自分の意志を貫く。


 それが魔堂魔来名、剣島正和という男だ。


 兄さんはそう言うと向き直り歩いていく。そして空間転移によって消えていった。

 彼が消えた場所をしばらく見つめる。名残り惜しい気持ちが縛り付けその場から動けない。


「行っちまったな」


 隣に星都が来る。星都も兄さんが消えていった場所を見つめていた。


「よかったのか?」

「まあ。でも、また会えるさ」


 星都が俺を見る。

 また会える。それがいつかは分からない。でも、きっとまた会えるさ。だって。


「なんだって、俺たちは時間も生死も越えて再会したからな」


 そんな再会を果たした俺たちだ、生きているならまた会えるさ。


「ハッ、そうだな」

「ああ」


 だからこれが最後だなんて思わない。不安なんてない。

 俺は振り向いた。そこにいるみんなと合流する。


「これは」


 町の景色が変わり出す。壊れた建物は元通りになり視線を外に向ければ走る車のライトが見える。


「戻ってきたみたいだな」


 セブンスソードは終わった。結界は消え管理人もいない今、セブンスソードは終わったんだ。


 長かった旅が、ようやく終わった。俺が目指したゴールがここにある。


「帰ろうか、俺たちの居場所に」


 苦しいこと、辛いこと、たくさんあったけど。ようやくここまで来られた。

 ここからは、俺たちの未来だ。

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