刹那斬り
「なぜお前がここにいる!?」
俺を殺し、未来でも殺しに来た。あの時は黒衣の男が守ってくれたがそれはもう期待できない。
タイムリープの能力でこいつと出会うのは三度目になるが勝てたことは一度もない。
間違いなく、今までで最強の敵だ。
「お前は何者なんだ!? なぜ俺たちを狙う?」
「…………」
「黙りか」
こいつの正体も目的も分からない。分かっているのは俺たちの命を執拗に狙いセブンスソードの完成を阻もうとしていること。
俺じゃ勝てない。こいつは強すぎる。
「スパーダ。その存在はやつの復活を意味する。君たちはいずれ私たちの計画を乱す恐れがある。君たちが人類の救済を阻む前に」
ハードライトの両手に光が現れる。鍔のない棒状の刃。光の剣がやつの両手に握られる。
「君たちには死んでもらう」
「くっ」
シンクロスを出現させる。負けたくない。負けられない。俺にはやらなくてはならないことがある。
気持ちだけが高まっていく。やつに勝ちたいと思うのに今の俺はまるで無力だ。シンクロス一本じゃなにもできない。
自分の無力が悔しい。なんで俺は、いつもッ。
「ん」
そこで、魔来名が立ち上がった。
「魔来名?」
ゆっくりと長身が起き上がる。けれどその体はふらふらで、立ち上がっただけでさらに顔がひきつっていた。
「俺がやる」
「無理だ!」
魔来名は重体なんだ、いくつも切り傷があり出血がひどい。疲労もあるし相手はあのハードライトだぞ。
「その状態でなにができる? 立ってるのがやっとだろ!?」
「ほざけ、スパーダを一回振るうくらいならできる」
「一回だけじゃねえか!」
めちゃくちゃだ。
「それにそいつはダメだ、今まで戦ってきた管理人たちよりも強い。あんたでも無理だ!」
ハードライトの強さは俺がよく知ってる。残念だけど魔来名でも勝てるとは思えない。
すでにこんなにも傷だらけなのに、さらに血を流すことになる。
「魔来名、止めてくれ。もうあんたの苦しむ姿は見たくないんだよ」
「ならどうする、お前にやつが倒せるのか」
「それは」
そう聞かれたら、はいとは言えないけど、でも!
「あんたはハードライトの強さを知らないからそんな風に言えるんだよ。戦ったらあんただって殺される!」
ハードライトという絶望的な状況。勝ち目のない戦いをし魔来名がこれ以上傷ついて死ぬところなんて見たくない。
なのに。
「大丈夫だ」
「なんで」
魔来名は、そう言った。俺を安心させるように。
「お前は下がっていろ」
魔来名が前に進んでいく。俺の前に立ちハードライトと対峙する。
俺を守るように立つ魔来名の背中が見える。何度も見た後ろ姿がそこにはある。
俺は、この体に何度助けられただろう。
俺を守るために、魔来名は何回でも前に立つ。
大きな背中が、そこにあった。
「聖治」
傷だらけなのに真っ直ぐと立つ。魔来名は天黒魔を取り出した。
「安心しろ」
そのまま居合いの構えを取る。
「お前が忘れていても、俺は覚えている。思い出したからな」
どれだけ傷ついて、どれだけ苦しんでも。
「お前は守る」
それがどれだけ過酷な旅だとしても。
決して諦めない。
この人は、本当に強い人だった。
「約束だからな」
「約束……」
今更だけど、俺はこの人になにができるだろう。なにを返せるだろう。何度も守ってもらったのに俺は感謝しかできていない。
魔来名の持つ天黒魔に力が溜まっていく。黒いオーラを飲み込み天黒魔が振動する。周囲の空気も震え魔来名を中心に風が渦巻いていた。
魔来名は諦めていない。
その姿に俺はいつしか惹かれていた。彼の後ろ姿に自分の無力さを痛感するとともに魔来名の強さに羨望している。
誰かを守るという強い意思、そのために力を振るおうとする魔来名は、俺の憧れそのものだったから。
「魔来名……」
胸が熱くなる。その熱が喉元までせり上がったあたりで我慢なんてできなかった。
「魔来名ぁああ!」
名前を叫ぶ。呼ぶことに意味なんてない。でも、叫ばずにはいられなかったんだ。
俺を守るために命を賭けて戦う、その人の名前を。
風が止んだ。天黒魔には十分な魔力が溜まり魔来名はいつでも抜けるように構えを保っている。
けれどそれも終わり、ハードライトの剣先が動く。
くる。音さえも届かない光速の一撃が。一瞬でこの勝負を終わらせるために。
「その前に、お前に一つ教えてやる。ハードライト」
「私に?」
なんだろうか。この期に及んでなにを言うつもりだろう。
「お前の敗因は、相手を見くびったことだ」
「負けるだと?」
それはなんら特別なものじゃない。
いつもと変わらない、自信満々の挑発だ。
「消えろ」
ハードライトが苛立ちを露わに吐き捨てる。
そして、戦いは始まった。
互いに技を繰り出す。両者の一閃が交差する。
きっとこれが最初で最後の一撃。これですべてが決まる。俺たちの命運、そして世界の運命も。
その一瞬は、しかし俺が認識できる外での出来事だ。音速を超えたさらにその先、光の世界。そのためそれは見ることも聞くこともできない。
その中で、俺は確かに聞こえていた。一瞬すら届かない狭間の中で。
その声を――
『刹那斬り』
――そもそも、刹那とは仏教における時間の概念でありまた数の単位でもある。現在ではほとんど見かけることはない。そもそも日常生活において用いることはない。
では、刹那とはどれくらいの時間を指しているのか。
指を弾く間に六五刹那あると言われ、小数で表せば百京分の一となる。刹那斬りはこの百京分の一秒で相手を斬ることになる。
刀を鞘から引き抜き振り抜くまでの距離を仮に一メートルだとすると、刹那斬りとは秒速に置き換えると百京メートルに他ならない。
光速が一秒に移動するのは地球の七周半に当たる三十万キロメートル。
よって。
――刹那斬りは、光速の三千億倍速い。
「ぐううう!」
ハードライトの悲鳴が上がる。




