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【書籍版】錬成七剣神(セブンスソード)  作者: 奏 せいや
第五章 果たされる約束
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第一の管理人

 半蔵は両手を突き出しナイフを交える。魔来名も天黒魔を納刀すると居合いの構えを取った。


 魔来名には絶対命中による完全迎撃がある。それを破るなら絶対命中が発動する前に倒すしかない。魔来名がエルターにしたことを半蔵もしようとしている。

 相手が抜くよりも速く倒す。ここにきて無数の手数はいらない。いるのは最速の一撃のみ。それを放つために二人とも準備を整えていく。


「瞬、光、烈、斬」


 半蔵の背後に文字が浮かんでいく。魔来名も天黒魔に魔力が充填していき黒い瘴気が鯉口から噴出している。


 加速の術式は組み上がり、必殺を放つ用意が整った。

 両者は踏み出し、奇しくも同じ技がぶつかった。


「「刹那斬り!」」


 濃密な時間は瞬きの間になくなり、二人の立ち位置が入れ替わる。互いに背中を向けて武器を振るった姿勢を保っていた。

 静まり返った時間が重苦しい。そんな中、先に膝を付いたのは半蔵だった。


「ぐ」


 胴体が大きく切り裂かれている。ただでさえ致命傷だが天黒魔に斬られたとあっては助からない。

 魔来名は天黒魔を納刀し姿勢を整えた。


「俺たちの決着が結局のところ得物の長さで決まるとは間抜けな結末だったな」

「いや、そうとは限らん」


 膝立ちし俯きながら、それでも半蔵は気丈にしていた。大怪我を負ってなお管理人、その威厳を保っている。


「お前はいずれ団長となる器。この勝負もまたその糧となるならば、この結果も必然と言える」

「お前はそれでいいのか」

「構わん」


 魔来名が振り向く。半蔵の後ろ姿を見つめた。


「あの人の代わりなど、誰にも務まらん。それでもなお手を伸ばした。願ってしまった。己の不甲斐なさを悔やむことはあれど、死を厭うことなどない。誠実ではないだろう」

「そうだな」


 セブンスソードという他人に死を押しつけておいて自分は死にたくないというのは公平ではない。その点半蔵は己の死すら覚悟の上だ。

 半蔵が夜空を見上げる。よく見える星の輝きを仰ぎつつ、静かに言葉をもらす。


「その顔を、最後に見れてよかった」


 その瞳がまぶたによって塞がれる。これから死ぬ男の顔にしてはその表情は穏やかだ。


「魔卿騎士団に、栄光を」


 それが、半蔵の最後の言葉だった。

 体が前屈みに傾き地面に倒れる。動く気配はなく息を引き取っていた。


「ふん。死に際まで組織を案ずるか、殊勝な男だ」


 それは魔来名なりの賛辞だったのか、死闘を演じた男へ静かに言葉を贈っていた。


「ん」


 が、その顔が歪む。さらに膝を付き傷口に手を当てる。


「魔来名!」


 すぐに駆け寄り体を支えた。


 その体はひどい有様だ。背中や腹部、肩から血を流し袖口からも血が滴っている。

 こんな重体で今まで戦っていたのか。立っているだけでも辛かったはず。それでも半蔵に意識があるうちは立ち続けていた。きっと散りゆく半蔵に強者として安心させたかったのかもしれない。


 なにより、その傷は俺を庇って負った傷なんだ。自分を傷つけてまで。


「服を脱がすぞ、すぐに止血しないと」

「いい、構うな」

「うるさい!」


 強引に魔来名のコートを脱がしその下の服も剝いでいく。最初は嫌そうに抵抗をみせたがそのたびに怒鳴りつけ無理矢理にでも脱がしていった。


 俺は自分の服を脱ぐと引き裂き傷口の腕で縛っていく。もっとまともなものがあればよかったんだがあいにくこれしかない。


「なんでこんな無茶したんだよ」


 こんなことをして、治す当てもないのに。こんなことをしたら自分が死ぬんだぞ。


「…………」


 魔来名は俺から顔を逸らし会話すら拒絶する。


「どうして俺を庇ったんだ?」

「…………」

「教えてくれよ、なんで俺を守った? こんな、自分が傷を負ってまで助ける理由なんてないだろ」

「いちいち言うか」

「言えよ!」


 俺が何度聞いてもそればっかりだ。そんなの聞いてみないと分からないだろ。


「言っても分からん」

「そんなの分からないだろ! なんで決めるんだ」

「昔のことだ」

「昔?」


 魔来名が立ち上がる。背の高い立ち姿を見上げた。


 今魔来名が言った台詞。昔ってなんだ? 俺と魔来名は過去になにかあったのか? いや、そんなのあるわけがない。


「それって」


 昔がいったいなんのことなのか、俺が聞こうとした時だった。


「伏せろ!」


 起き上がった魔来名に肩を掴まれ地面に押しつけられる。その直後、俺の頭上をなにかが通り過ぎていった!


 すぐに背後を振り向くと地面には槍が突き刺さっている。これは、


「これは驚きだな」


 この槍、それに聞き覚えのある声までも聞こえてくる。


「みなが期待していた本命が反旗を翻しぼろぼろとは。やはり他人は信用ならない、か」

「ロハネス……」


 正面を向けば、そこにいたのはロハネスだった。フードはすでに脱いであり白い髪が伸びている。


「どうした魔来名、らしくもないな。その子供に情でも沸いたか?」

「教える義理はないな」

「冷たいな。とはいえ親しくされても迷惑だが」


 魔来名はロハネスと対峙する。その手にはすでに天黒魔が握られていた。

 まさか、戦う気か? 


「無理だ魔来名! そんな傷だらけの体で、しかも連戦だぞ!」


 ただでさえ相手は管理人だっていうのに手負いで戦うなんて無茶だ!


「戦いしか道がないなら進むだけだ」

「そんな」


 なのに、魔来名は戦う気だ。自分がどれだけ怪我をしているのか、それは自分が一番知っているはずなのに。


 それか、俺のせいなのか? 逃げようにも俺を連れて逃げることが出来ないなら戦うしかない。魔来名はまたしても俺を守るために戦おうとしている。


「それでいい」


 魔来名の言葉にロハネスは不敵な笑みで答える。その手には槍が握られ戦意を隠しもしない。


「魔卿騎士団幹部、ロハネス、ガンブルクだ。楽しい時間にしよう」

「そうだな」


 戦意を引き締めたまま魔来名も同意する。


「待てよ、魔来名は傷だらけなんだぞ。そんなのフェアじゃないだろ。こんなのって!」

「来い、お前の力も取り込んでやる」

「そう簡単にいくかな」


 言っても二人は止まらない。それを俺は見ているだけだ。悔しさに拳を作る。二人を止めるだけの力が、俺にはない!


 管理人との三戦目。強がってはいるが魔来名が負っている怪我は深い。そんな状態で戦うなんて無茶だ。

 それでも魔来名は戦っている。きっと、俺のために。


「は!」


 さきに仕掛けたのはロハネスだ。魔来名の足下にいくつもの波紋が起こり、そこから槍が突き出してくる。すぐさま横に転がり込み回避する魔来名だったがその隙をすぐさに突いてきた。


「ち」


 一の突き、それを抜刀してなんとか防ぐ。好きな空間から攻撃してくるため気が抜けない。


「よく躱した、それか知ってたりしたか?」

「さて、どうだろうな」


 天黒魔で槍を払う。そのまま刃を返し攻撃する。ロハネスは槍を回し魔来名の刃を弾くと姿が消え離れた場所に現れた。

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