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【書籍版】錬成七剣神(セブンスソード)  作者: 奏 せいや
第五章 果たされる約束
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第三の管理人

 加わる激痛に膝を突く。なんで!? 完全に防げていたはず! くそ! 駄目だ、冷静になれ。管理人がただ矢を撃つだけ、そんなのあり得ないんだ。ならなにかある。


 俺の体に当たるようにこの女も矢を遠隔操作した? 違う。あれは遠隔操作でどうにかなるものじゃない。矢は回転するシンクロスに真っすぐ突き進んできたんだ。

 理屈じゃない。どうあっても俺に命中する。


 まさか!


「絶対に命中する能力……因果の逆転か?」


 先に当たるという結果が決まっていて後から原因である矢を放つ。そんなことをされれば逃げることも防ぐことも出来ない。めちゃくちゃだ。


「流石に気づくわね。でも馬鹿じゃないのは褒めてあげる」


 意外にも女はすんなりと認めた。


「認めるんだな」

「バレたところでどうしようもないもの」


 確かに。この能力の厄介な点は回避も防御も出来ない点。知っていようがそれは変わらない。


 そんな能力持ちが遠距離戦に徹すれば厄介どころじゃない。最強じゃないのか? 

 どうする? どうすればこの敵から逃げ切れる?


「特に収穫のない時間だったけれど暇を潰す慰みにはなったわ。それじゃ」


 管理人が矢を作り、指を鳴らすため片手を持ち上げる。

 駄目だ。ここでは死ねない。ここで死んだら全部無駄になる。未来が決まる。

 俺は、なんのためにここに来たんだ。


「さようなら、坊や」


 指が鳴る。世界が終わった気がした。


「え」


 その時だった。白い服が舞い降りる。外套の裾を夜に靡かせて、紫の刀身が矢を打ち落としていた。


「貴様」


 突然の乱入者に管理人が忌々しくつぶやく。その登場に俺も唖然となった。

 なぜならば、そこにいたのは。


「魔来名……」


 俺が倒すべき敵、魔堂魔来名だったからだ。


「どうして」


 俺の前には魔来名の後ろ姿がある。見間違えることはない。白いロングコートに金色の髪。なにより黒い鞘と紫の刀身を持つ日本刀。ロストスパーダ、天黒魔。

 最後のスパーダが、目の前にいた。


「どういうつもりかしら。なぜ私の邪魔をする?」

「邪魔か」


 管理人の追求に魔来名がつぶやく。俺もどういうことか分からない。

 助けた? 魔来名は俺を助けてくれたのか? でもどうして? そんなことする理由はないはず。


「お前の行動はセブンスソードと矛盾している。まさか目的を忘れたわけではないでしょうね」


 管理人から鋭い視線を感じる。もし虚偽でもつこうものなら一瞬で矢を放つような気迫だ。


「ふん。安心しろ、目的なら忘れていない。そのための行動だ」

「なに?」


 平然としている。これほどの威圧の中そよ風になでられているくらいにしか感じていない。


「俺の目的はただ一つ。そのためにお前も食らう。死ぬがいい、エルター」


 そう言われると管理人の女性はフードを脱いだ。

 紫色の髪が現れる。年齢は三十代ほどで大人っぽさがある。エルターは外套に収まっていた髪を外に出し長髪が広がって背中に落ちた。


「どういうこと? スパーダだけでは足りぬと?」

「なんだ、人にはやれせておいて自分が食われるのは怖いのか?」

「ずいぶん思い上がってるようね。私を食らう? お前がどれだけ特別だろうがしょせんはスパーダ。それも一本しか持ち得ない赤ん坊。それではどれだけすごんでも虚仮威しにしかならないわ」


 口では笑っているが苛立っているのが分かる。対して魔来名に動じている様子はない。それどころか鼻で笑う。


「思い上がるだと? 滑稽だな。団長として君臨していた剣聖グレゴリウス・レウス・ギルバート。その座を継ぐどころか足下にも及ばない分際で他人を見下す余裕があることだけがお前の取り柄だ」

「貴様ぁ……」


 挑発に挑発で返す余裕。なんなんだこいつは。


 魔来名は強い。それは戦ったから分かる。俺たちは三人がかりでもこの男を倒すどころか返り討ちにされたんだ。この男の強さはスパーダでもトップクラスだ。


 だが、相手はあの管理人だぞ。エルターの言った通り一本の状態で倒せるような相手じゃない。それではセブンスソードが成立しない。


 それはこの男だって分かっているはずなのに、なぜそこまで強気で出れるんだ?

 魔来名の挑発におもしろくなさそうにエルターが鼻を鳴らす。その表情にはさきほどの笑みはなくなり浮かべているのは殺気とともに放たれる強烈な視線だ。今にも戦いが始まりそうだだがこの敵は危険だ。


「待て魔来名、そいつの能力は」

「黙ってろ」


 なのだが、魔来名は背中越しにそう言ってきた。


「お前の手など借りずとも十分だ」


 なんだその自信。魔来名は知らないが相手は絶対命中の使い手だぞ。剣と弓じゃ相性が悪すぎる。エルターが矢を使うのは見てて知っているはず。それでも魔来名に臆す様子はない。


「そう、残念ね魔来名。あなたはどうやら我々を過小評価しているらしい。その認識を訂正する必要があるわ。それかそのまま間引きしてしまうかもね」

「御託はいい。合図がなければ殺し合いもできんのか?」


 瞬間だった。


 エルターは矢を発射した。一切の予備動作のない早業。どんな武器でも撃つには構えがいる。それを省略した攻撃。俺に使っていたお遊びのような射出じゃない、本気の攻撃だ。


 だが魔来名をそれに応じていた。天黒魔を鞘から抜き矢を打ち落とす。完全に見切っていた。


 いや、それにしても早すぎる。魔来名は間違いなくエルターが矢を出すよりも先に動いていた。


 察知したのか? エルターの気配や目線から発射するタイミングと照準を推測し、先に迎撃行動に移っていたって? そんな馬鹿な!


 だが安心するのは早い、エルターには絶対命中がある。


 二本目が発射する。それも神業染みた洞察力で察し魔来名はスパーダを振るうがそれはすり抜けた。魔来名はなんとか体をずらし躱そうとするも直前矢も方向を変え魔来名に突き刺さる。肩に矢を受けた魔来名から小さく声が漏れた。


「ッ」


 刺さった矢を睨む。矢は光の粒子へと還り消えていくが傷跡はそのまま刻まれる。魔来名は傷跡をしばらく見つめてからエルターを見た。


「なるほど、どうやらお前の攻撃は防ごうがかわそうが意味がないらしい」

「察しがいいのね」


 魔来名も気づいた。緊張が張りつめる。いつ戦況が動き出してもおかしくない雰囲気だ。


「その洞察力に関してはさすがだと言いたいけれど、その力をもっと前に発揮すべきだったわね。因果律を操作することによる絶対命中。防御も回避も叶わず、撃てば必中、死あるのみ」


 相手の防御を無視した一方的な攻撃。対策もあったものじゃない。こんなのどう勝てばいいんだ。


「ふ、はっはっはっは!」


 そんな圧倒的に不利な状況で、なぜかこの男は笑っていた。


「死あるのみ、だと? 笑わせるなエルター。今のが一番利いたぞ」


 どこにそんな余裕があるんだ。正気か?


「お前の能力は確かに有用だが勘違いしているな。お前は自分が思っているよりも遙かに弱い」

「血を流しておいてよくほざく」

「事実だ。お前は弱者だ、根底からな。いいかエルター、戦闘とはすなわち殺し合い。相手の命を先に取ってこそ勝利へ繋がる。だというのに、お前は動く的に当てただけ。それで満足するような小心者だ。必中ではなく必殺であるべきだったな。確かなことが二つある。お前の矢が俺に当たったこと、そして未だに俺が生きていることだ。ついでに未来についても語ってやる」


 魔来名は抜き身の天黒魔を納刀し居合いの構えを取る。


「お前の敗北、俺の勝利だ」

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