新たな始まり
みんなから託された願いと使命。これは俺だけの戦いじゃない。みんなの戦いなんだ。
成功させてみせる。未来にいたみんなの思いを無駄にはしない。
そう決意して、俺は目を覚ましていた。
「ここは」
視界に入るのは星がまばらに見える夜の星。全身から伝わる違和感は固い感触だ。俺はうつ伏せに倒れておりすぐに上体を起こし周りを見た。
「なんだよ、これ」
想像とはまったく違う場所に慌てて起き上がる。
俺が目を覚ました場所。それは知らないところだった。どうも道路の真ん中で眠っていたらしく周りには古い建物が並んでいる。ビルが並ぶようなそんな都会の街じゃない、打ち捨てられたような廃墟がいくつもあって夜の街に俺はぽつんと立っていた。夜だとしても静か過ぎる。街灯すらなく月明かりの光だけが街を照らしていた。
「まさか、失敗したのか!?」
未来のホムンクルスは星都たちが作ったものだと言っていた。性能が良くないとも言っていたが、まさかここはまだ2036年で悪魔に滅ぼされた後!?
目の前が真っ暗になる。だがある看板が目に入った。
『水戸漁港ここを直進』
水戸というのは俺たちが暮らしていた町の名前だ。
「水戸漁港って」
たしか水戸市を代表する産業の一つだった場所だ。都市開発の影響もあってかなり漁業人口が減ったためゴーストタウンになったと聞いたが。そういえば周りにも昔の民家が目立つ。
俺は歩き出し視界が開けた場所に出る。そこから街を見渡せば遠くに水戸市の中心部が見えた。街の光だ、人がいる!
「ふぅ」
焦った、始まって早々ゲームオーバーなんて洒落にならない。というかスマホはどうなんだ?
ポケットに手を入れ引っ張り出す。画面を見れば〇△月一五日。セブンスソードのあの日だ。年代も確認するが大丈夫。よかった。とりあえず成功のようだ。スマホに額を当てみんなに感謝する。
ありがとう、無事に戻ってこれたよ。
だがいつまでも安心していられない。戻って来れたのは嬉しいが目的を達成できたわけじゃない。スマホでみんなと連絡を取ろうにもここは圏外だし。
それに、なぜそもそも俺はここにいる? タイムリープ以前の俺がここに来た理由が分からない。
くそ、とりあえず街に向かおう。まずはみんなと合流しないと!
まさか、もうセブンスソードが始まっていて早まったことになっていないだろうな。それか魔来名がすでにッ。
建物に挟まれた道を走る。いつ到着できる? 道が分からん。とりあえず道なりに走るか。
この時間だと一週目の時なら学生寮、二週目なら此方たちのマンションか。
「これは驚いたわ」
その時、どこからか女の声が聞こえてきた。
「まさかこんなところまで逃げてきた者がいるなんて」
立ち止まり辺りを見渡す。声は上から聞こえてきた。危機感が一気に走る。
廃墟となった三階建ての屋上、満月が見える空に一人の影が立っていた。外套の端を夜風に揺らし黒いフード服が目に入る。
「管理人!?」
三人目だと!
「あら、知っているの。ならあいつらちゃんと仕事はしているようね」
そう言うと彼女は屋上の柵を軽々飛び越え正面に着地した。ずどんという重い音を立てるが平然としている。
「けれど逃亡を見逃すなんて勤勉とは言えないわね。ロハネスあたりかしら。まったく」
彼女はやれやれと顔を振っている。
やはり魔卿騎士団、それも俺の知らない相手だ。声からして二十代か三十代ほどでロハネスたちと比べるとシルエットが細い。くびれもあるし服の上からでも胸の膨らみが分かる。
「逃亡すれば処刑される。分かっていたはずでしょう?」
まずい!
この時代の俺はシンクロスを一本しか持っていない。戦うなんて論外だ。それにシンクロスの能力はタイムリープ。ということはここで俺が殺されるとどうなる? シンクロスは使われず管理人の手持ちになる可能性が高い。タイムリープは発動しない、ここで全てが終わるんだ!
「くそ!」
そんなことあってたまるか、ここに来るためにみんなが犠牲を払って繋いでくれたんだ。
急いで背を向け反対側へと走る。絶対に生きないと!
「あらあら。かくれんぼ? それともうさぎ狩りかしら」
俺は道路を走っていくが管理人からすぐに攻撃はこない。振り返ってみれば管理人の周囲に光が集まり一本の矢になっていく。管理人は指を鳴らすと矢が向かってきた!
「ぬあ!」
体をねじりなんとか躱す。前のめりになった体をなんとか正して走っていく。
なんだ今の、あれがこいつの能力か?
再び振り返ってみれば今度は三本の矢が浮かんでいた。それらが発射されていく。
「く、そおお!」
走る方向を左右に揺らし二本をかわす。だが最後の一本までは躱せない。
「シンクロス!」
俺はスパーダを取り出し最後の一本をたたき落とした。
「頑張るわね、無駄だけど」
女は平然と話しながら歩いてくる。
遠距離攻撃タイプか、剣士とは相性が悪い。逆に言えば間合いを詰めることが出来れば勝機はあるが。
いやそんな甘い考えは捨てろ。相手は管理人、スパーダ一本で勝てる相手じゃない。
シンクロスを消し再び走る。
「そう、まだ抗う気」
女の冷笑する声が聞こえてくるがあんなの挑発だ。相手は油断している。やろうと思えば一撃で倒せるはず。それをしないのは楽しんでいるんだ。
振り返れば女がまたも矢を空間に浮かべ、今度は四本もある。俺の限界を測っているのか? くそ、本当に性格悪いぞ!
さすがに四本は避けきれない。
俺は立ち止まりシンクロスを回転させる。空中で回るスパーダは盾のようであり飛んでくる矢をすべて切り刻み、矢は光となって霧散し夜の闇に消えていった。
「へえ、やるじゃない」
スパーダの遠隔操作。これを見ても余裕の態度は崩れない。
なんとか行けるか? シンクロスの遠隔操作で矢を防ぎこのまま町に行けばみんなと合流できる。 管理人からまたも四つの矢が浮かぶ。女は指を鳴らしていきそれを合図に矢が放たれた、さらには曲線を描いてくる。上方や左右から挟む込むように光矢が迫ってきた。
「はああ!」
上方から来たのは躱しシンクロスを右、矢を破壊するとすぐに移動させ間一髪のところで左の矢も防ぐ。最後の正面から矢が来るのをシンクロスで受けた。
「な」
そのはずだった。しかし最後の矢は回転するシンクロスをすり抜け俺の左腕に突き刺さる。
「がああ!」
「あらあら、刺さっちゃったわね、大丈夫?」
矢は霧消し管理人は白々しいセリフを吐きながらゆっくりとした歩みで近づいてくる。
どういうことだ? なんで最後の矢は防げなかった? たまたま回転が追いつかなかったのか?
「あなたがどうやって街からここまで逃げてきたのか、それは分からない。もしかしたらなにかあるのかもと思ってみたけれど」
管理人は矢を一本作ると射出する。それを防ぐため片手を突き出しシンクロスを回転させる。
しかしまたも矢はすり抜け右足に命中していった。
「ぐうう!」
「それもなさそうね」




