襲撃
すると足下にいる小人がやれやれと顔を振った。小人というよりも小学生くらいの男の子で全体的に緑色の服と大きなとんがり帽子を被っている。さらに明らかに丈の合っていない長めのマントを羽織っていた。
「それが宣戦布告ズラ~? 品がないにもほどがあるズラ」
「黙れコロポックル、こういうのは最初が肝心なんだからガツンといかなきゃいけないのよ。小心者のあんたには分からないでしょうけど」
「なにを~!? オイラがお前よりも小心者なんて聞き捨てならないズラ!」
「ああ~!? コロポックルのくせに生意気な!」
「ピクシーのくせに威張るなズラ!」
なにやら二体の間で火花が散っている。
そんな様子を仮面の男や三頭の犬は気にせず星都たちの出方を伺っていた。男は人型のワニのような容姿をしており背は二メートル近い。さらに鎧を着けておりその手には槍が握られている。顔は白い仮面をかぶっているので見えないがその奥から声が響いた。
「これから決戦だというのに緊張感がないな。いつものことと言えばそれまでだが」
それに対し三頭の内真ん中の頭がしゃべる。犬の形をしているがその体は象よりも大きい。灰色の毛並みはきれいだがその顔つきは厳格だ。番犬。そういう印象がしっくりくる。
「しょせん下級悪魔だ。足りていないおつむではこの舞台道化にしかならんわ」
「ちょっとー。ケロちゃんそういう言い方傷つくんですけど!」
「ケロちゃん言うな!」
ピクシーの反抗に犬の方も応戦している。仲が良さそうには見えないが仲間ではあるんだろう。
そこで星都が前に出た。
「愉快な連中だな。奇抜な仮装して興業中か? おまけにワンちゃんショーもセットかよ」
「人間風情が愚弄するか!」
「この俺を誰だと思っている!?」
「貴様のような人間が前に立つことすら不遜であるぞ」
三頭それぞれが叫ぶ。
「知ったことかよ、そもそもてめえの方から来たんだろうが」
「ぷぷ、言えてる」
「あ?」
「ひいい!」
「……なぜオイラの背に隠れるズラ」
「うるさい! 庇えコロポックル」
「そしてなぜ偉そうなんだズラ」
あのピクシーとコロポックルと呼ばれている悪魔はなんだかコミカルだ。俺が知っている悪魔とはずいぶん雰囲気が違うが人類の本拠地を潰すためにきたんだ、油断はできない。
特に、あの仮面と犬は要注意だと分かる。さきほどから戦意が高いというか気が引き締まっている。
「全うに戦えそうな者が一人はいるな。安心した。虐殺は望むところではないからな」
「ふん。弱者も強者も等しく殺すだけ。そこに優劣もないだろうに」
「気持ちの問題だ、気に掛けるな」
「お前もつくづくくだらんものだ」
「好きに思え」
互いに価値観は違うようだが戦闘の心構えっていうのがちゃんとできている。どちらかというと仮面の方が正々堂々を好むタイプなんだろうか。
「さっきからおしゃべりが好きな連中だな。ここは休憩所じゃないんだぜ? 用がないなら帰りな。お出口は後ろだぜ?」
「そうだそうだ! 私たちは人間を殺すために来てんのに仲間威嚇してどうすんのよ! その三つの頭はファッキンサタンにお祈り中か! ちゃんとしてよね」
「「「あ?」」」
「ひいい!」
「だからなんでオイラに隠れるズラ」
「いいでしょ! あんたと私の仲なんだから」
「仕方がないズラねー」
なんなんだこいつら。
そこで最初に現れた女性の悪魔が拳を挙げた。それに気づいた他の悪魔が一斉に黙り出す。
最初から思っていたが、やはりリーダーはあの女か。一挙動だけで黙らせるなんて。
他の悪魔たちも全員が真剣な顔つきになる。始めるつもりだ。相手の空気を読み取り星都や他の隊員も銃を構える。
女の悪魔は手を挙げたまま。拳を開きそのままの状態でにらみ合う。
緊張が走る。女の動きに集中する。
「…………」
直後、女が手を前に倒した。
「いぇーい! 始まりだ!」
「オイラも頑張るズラ!」
「尋常に!」
「滅びの時だ、人間」
「来るぞ!」
手を倒したのを合図に悪魔たちが動き出す。
一番先に動いたのは仮面の男だった。槍を構え星都に真っ先に迫る。まさに一番槍だ。
次に三頭の犬が隊員たちに迫る。迎え撃ついくつもの銃弾が命中するがびくともしていない。
「そのようなもので傷つくか!」
犬の前足が隊員を払い壁に激突する。
その中で星都は仮面の男の速攻を受け止めていた。突かれる槍の先端をエンデュラスで逸らしている。相手の先手を防ぐがそれだけじゃない。星都は片手を放した。
「こい、グラン!」
現れる鉄塊王グラン。緑の大剣を片手で振るい仮面の男を返り討ちにする。男は槍で防ぐものの大きく後退した。
「ぬう!」
二本目のスパーダに仮面の男が声を漏らす。
そこから星都の猛攻が始まった。星都は方向を三頭の犬に変え襲われていた隊員の前に立つとカウンターのグランを振るう。それにより巨大な体が地面を転がっていった。
すごい。やはり星都は強い。特にエンデュラスとグランの組み合わせは最高だ。速度と力。複雑な能力なんていらない、これだけで敵を倒すには十分だ。
「ちょっと! 押されてるんだから早くしなさいよ!」
「分かってるズラ、これは配合が難しいんだズラ!」
仮面の男や三頭の犬が前線で戦っている中後方ではピクシーとコロポックルがなにやらやり取りをしている。
コロポックルは両手をかざすとマジックショーみたいに煙とともにフラスコや試験管、アルコールランプなどの科学セットを出現させていた。そこによく分からない液体やらなにやらを混ぜ合わせていく。緑と黄色の液体は一つになり赤色へと変色した。
「できたズラ!」
赤い液体の入ったフラスコを持ち上げそれを仮面の男に投げつける。仮面の男は振り返ることなく背後のフラスコを槍で突き中身が全身に掛かっていく。それはすぐに揮発し赤いオーラとなって仮面の男を包んでいた。
「は!」
仮面の男が駆ける。仮面の男も巨体だがその大きさに似合わず俊敏だ。すぐに星都の前に現れ槍を振り下ろす。
グランと槍がぶつかった。重量の大剣が当たるが槍はそれに拮抗している。
「ちい!」
力は互角。二人は離れ一端距離が開ける。
バフ担当か! さきほどの赤い液体をかけられて明らかに力が上がっている。揮発しているから長い間は続かないだろうがそれでも厄介だ。
それは見ていた他の隊員も思ったんだろう。銃の標的がコロポックルに向かう。
「うわああ! 撃たれるズラ!」
「じゃ、私はこれで!」
「助けてくれズラァー」
「ちょっと、足掴むな。飛べないでしょうが!」
「オイラとお前の仲じゃなかったのかズラ!?」
「知るかバーカ! 死ぬなら一人で死ね!」
コロポックルとピクシーめがけ一斉に発射された。
「「ひいいい!」」
だが、それらは当たる前に黒い空間へと消えていく。
「助かったズラ~」
「さすがイッチー、頼りになる~」
「…………」
女の悪魔、あれが守ったのか。別空間を出現させ移動や防御を可能とするあの能力をどうにかしなければやつらは倒せない。
星都はスパーダを構え直し女の悪魔を見る。倒す気だ。そうしなければ誰も倒せない。星都が踏み込もうとしたその瞬間だった。
「デューク!」
ピクシーが唱える。それで星都の動きが止まった。
「なに?」
星都の両目が黒い霧に覆われ手で払っている。
あのピクシーはデバフ担当か。星都は目が見えるようになったが攻める前に仮面の男に攻撃され防戦だ。
厄介だ。バランスが取れている。
オフェンス二人にディフェンス、バフとデバフが一人ずつ。ディフェンスを崩したいがバフとデバフが邪魔をしてくる。互いの能力がシナジーしている。




