浦島太郎
「なあ星都。お前は、俺の知ってる星都なんだよな?」
「そうだよ、お前が知ってる皆森星都君だ。文武両道、女子にモテモテ、クラスのみんなの人気者のな」
「いや、そんな過去はない」
「カモーン!」
星都はおどけてみせる。こんな世紀末みたいな世界なのにこういうところはブレないんだな。
「星都、気遣ってくれてるのは分かるが真面目な話をだな」
「わーった、わーってるよ。ま、そりゃそうだよな」
星都は表情を引き締めると真剣な雰囲気になる。
「聞きたいことはあるだろうがまずは後だ。とりあえず俺からざっくり説明する」
「頼む」
俺も真剣だ。星都の顔をまっすぐと見つめる。
この世界になにがあったのか。俺の状況を知りたいんだ。
「最初から話そう。セブンスソードからみんなで逃げ出した夜、俺たちを逃がすためにお前は管理人と戦った。それは覚えているか?」
「ああ」
それはよく覚えている。香織が殺されて俺は殿を務めた。忘れるはずがない。
「単刀直入に言うが、あの日お前と沙城は死んだんだ」
死んだ。
なんとなくそれは分かっていた。そうだろうと。しかしずばり言われると胸にくるものがある。
だがそれでも分からない。なぜ起きたのが未来なんだ? シンクロスの能力は死に戻りだ。なら俺は自分の部屋で目が覚めるはずなのに。
「聖治、お前のスパーダ、その能力は死に戻りだと言ってたよな」
「ああ。だからこんなのおかしい。戻るどころか進んでるぞ」
「そう。おかしい。これが死に戻りの力ならな」
「どういうことだよ」
星都の顔を見る。
「シンクロスの能力は死に戻りじゃなかったってことさ。二本の段階で使えるその能力は『タイムリープ』。記憶を引き継いで過去をやり直す異能さ」
シンクロスが、タイムリープ?
タイムリープというのは今星都が言ったように記憶を引き継いで過去をやり直すことだ。要は記憶だけのタイムスリップみたいなもの。記憶を持って過去で目覚めるという点では死に戻りと似ている。
「だから死んだだけでは発動しない。シンクロスは発動してないからお前は過去に戻ることなくここにいるってわけだ」
徐々にだが状況が飲み込めてきた。固まった疑問が氷塊していくが新たな疑問が生まれる。
「なにがあったか話そう」
星都はその答えを教えてくれた。
「お前が管理人と戦ってから、実は俺だけ戻ったんだよ。そしたら白い服の男がいてな、管理人とお前たちがやられていたんだ。いきなり話がずれて悪いが、なあ、あの白いやつはなんなんだ? 管理人まで倒すなんて半端じゃねえぞ」
「それは俺にも分からない」
俺に未来を訪ね拷問してきたやつ。奴の狙いも正体も分からない。
ただ分かるのは、めちゃくちゃ強いということだけだ。
「突然現れて管理人を倒した後、俺に質問してきた。拷問しながらな」
「そうか。予想通りひでえやつだってのは分かったよ。俺はなんとかシンクロスだけ回収して逃げ帰ったってわけだ」
「ほんとか? よく出来たな」
「無傷とはいかなかったがな。俺も必死に食いついた。ま、見捨てられなかった。お前らだけ残してさ。ほんとは天志も取り返したかったんだが」
「仕方がないさ。十分すげえよ」
あいつから奪い取るなんて相当なことだ。言葉からじゃ伝わらないけど相当頑張ったはずだ。かなり危険な行為ではあるけれど。
だけど、嬉しかった。
「ありがとな」
「アホ。俺のセリフなんだよ」
そう言って俺たちは小さく笑い合う。けれど星都の顔つきは険しい。
「それからなんとか逃げ続けていたんだが、2030年。突如として悪魔と呼ばれる怪物たちが人類を襲い始めた。奇襲もあって当初は混乱して国もうまく対処できずにいた。国家間でもかなり揉めてちゃんとした連携を取れるようになったのはけっこう後のことだよ。そんな中俺たちは戦った。スパーダがあったからな。スパーダとして生まれたことに感謝したのはあの時が初めてだよ」
セブンスソードの生贄。与えられたのは一本の剣と殺し合えという使命のみ。それに恐怖していた星都がそう思ったんだ、悪魔の襲来はそれほどの出来事だったんだ。
「悪いな、聖治。お前と沙城が未来のこと言ってたけど見るまで信じられなかったんだ」
「いいさ、仕方がない」
無理もない。セブンスソードから解放されてこれ以上暗いことなんて考えたくもなかっただろう。生きることに精一杯だったはずだ。それになんの証拠もなかったしな。
「俺たちは出来る範囲で頑張った。死に物狂いでな。だけど結果は見ての通り。俺たちの世界も悪魔どもにやられちまった。機能してる軍隊はない。停戦も交渉もなし。皆殺しだ、ふざけた話だよ」
「……まったくだ」
星都が拳を握り込む。見れば眉間にしわが寄っている。悔しいだろう。それと同じ気持ちを知っている。だからこそ掛ける言葉が見つからない。
「それでも俺たちは戦い続けていた。レジスタンスを結成し仲間を集めて。俺たちにはスパーダがあるからな、でもそれで勝てるわけじゃないのが戦争だ。人類は頑張ったさ。協力して、努力して、励まして、恐怖に打ち勝った。でも負けた。……負けちまったよ」
星都は背中を反り天井を見つめる。敗北宣言を言うその顔は悲しそうだ。
そんな星都に俺はなにを言ってやれる? よくやった。お前はすごいよ。よく頑張った。言葉は浮かぶがそんなの全部どうでもいい。そんなのどれも安っぽい戯れ言だ。
星都は救いたかったんだ、仲間を。人類を。それを叶えられなかった人にそんなことを言ってもなんの慰めにもならない。
「残念だが、いずれ俺たちは負けるだろう。どんなに頑張っても悪足掻きにしかならない。最後の抵抗さ」
「そんな。まだ手はないのか? 俺にできることならなんだって」
「希望はある」
「なんだ?」
この絶望と言ってもいい状況で希望と呼べるもの。いったいどうすればこの状況を変えられる?
「お前だよ」
「俺?」
なんで、どうして俺なんだ?
「この世界はどうやっても手遅れだ。どうにかするならやり直すしかない」
「やり直す、シンクロスかッ」
「正解だ、分かってきたな」
シンクロスのタイムリープ。それを使えば過去に戻れる、この未来を変えられる。こんな悲惨な結末にしないために。
「シンクロスは回収していたからな。それを使えば世界がこんな状態になる前に変えることができる。それで俺たちは必死にシンクロスを調べた。それでいろいろ調べていくと問題があることに気づいたんだ」
「問題?」
「シンクロスのタイムリープ。それには限度があってな、どれだけ頑張ってもやり直せるのは三日前か四日前までなんだ」
知らなかった。俺が経験したのは一度だけだったからな。
「仮にここで俺がシンクロスを使って四日前に戻っても人類が敗北した歴史は変わらない。さらにもう一度使いたくても充填期間が必要ですぐには使えない。連続で使用して過去に戻ることもできないってことだ」
「そんな」
それじゃあ、シンクロスを使っても意味がないじゃないか。
「シンクロスのタイムリープは使用者の四日前が限度。だからこの時代の人間が使っても四日前にしか戻れない。でもだ。聖治、お前は違う」
言われてハッとする。
シンクロスの四日前は使用者にとっての四日前であり現実の時間軸とは違うってことだ。
「今目が覚めたばかりのお前ならあの日に戻れるんだ。西暦2019年、〇△月一五日。俺たちがセブンスソードで戦っていたあの日に」
星都の目に熱が戻る。その視線に並々ならぬ思いがあった。
「俺たちはそのためにお前を蘇らせることにした。スパーダは俺たちの魂と一体化したものだからな。あとはその器となるホムンクルスの肉体を用意しスパーダを移してやれば元通り。そうなるはずだったんだが、ここでも問題が起きた」
「多難だったわけだな。でも俺はこうして生きている。解決できたんだろ?」
星都は答えない。その代わりにフッと小さく笑ってみせた。
「俺たちはなんとか器となるホムンクルスを作ることに成功したんだがなにせ初めてだったからな、容量が足りなくてスパーダが入らなかったんだ。ホムンクルスっていうのがもともとそういうものらしくてな、セブンスソードだって俺たちを殺し合わせていたのは一つのホムンクルスに七本を入れることが出来なかったからで、殺し合わせ相手から奪うという手段が必要だったからみたいだ。俺たちが作ったホムンクルスはその一本すら入らない低スペックだったわけだな。だから仕方がなく俺たちはシンクロスとお前の魂を引き剥がした」
「それでシンクロスが出せなかったのか」
出せないというよりもそもそもないという方が正確か。ないのなら出しようがない。
「シンクロスがなくなったことで容量は下がりホムンクルスに入れることが可能になった。それでいざ実行に移したんだがお前はなかなか目覚めなくてな。だから俺たちは待つことにしたんだ。それからお前が目覚めたのは反応から分かっていたんだが駆けつける前に人狩りに見つけられちまってな。どこからか情報が漏れてたみたいだ。悪かったな」
「仕方がないさ。それにもう済んだ話だ。こうして無事合流できたんだからいいって」
「細かいことをいちいち気にしないで助かるよ」
とりあえず俺はこうして目を覚ました。それで十分だ。
「ただ問題はまだあってな、シンクロスのタイムリープだがその体だと不安定だ。本来二本あれば可能なんだが出力を上げるためスパーダをなるべく多く持った方がいい。だから俺たちのスパーダをお前に譲る。それでシンクロスを発動してくれ」
「分かった。シンクロスはどこにあるんだ?」
「別の場所に保管してあるよ。いざここが襲われた時のためにな。回収には現在日向が向かってる」
「日向ちゃんが!?」
そうか、この時代でも彼女は生きているのか!
「会ったらきっと驚くぞ」
「ぜひ驚きたいな」
十七年後の彼女か。いったいどうなっているんだろうな。
「そういえば他のみんなはどうしてるんだ? ここにはいないのか?」
星都は司令官という立場だから分かるのだが力也たちはここにいないのだろうか。力也の一七年後の姿とかちょっと想像つかないな。
「ここにいるよ」
「そうか!」
そう言うと星都は片手を前に出した。そこから緑色の光と共にグランが現れる。興奮が一気に醒めていく。
「……それって」
「ああ。あいつは死んだ。よくやってくれたよ」
グランを見上げる。緑の大剣。それを持って戦っていた力也を思い出す。
だけど、彼はもういない。
「くそッ」
優しいいいやつだった。殺される理由なんてない。それを……。




