人間の敵、人類の敗北
だけど、戦わなくちゃならない。昔とは違い俺は無力じゃない。悪魔と戦う力がある。
「来い」
大切な人を守る。そう誓った力を。
「スパーダ、シンクロス!」
片手を前に出す。
が、シンクロスは出なかった。
「え?」
出ない?
「シンクロス!」
もう一度叫ぶ。だが出ない。胸の奥にもスパーダを感じることなく空っぽだ。
「どうして!?」
分からない。分からないことばっかりだ。でも出ない以上逃げないと!
「キシャア!」
早く逃げないと本当に殺される! 俺が逃げ出すのを見て悪魔も走り出した。
足場の悪いコンクリートの道を死にものぐるいで走る。スリッパが脱げるが気にしない。車と車の隙間、人一人が通れる隙間を抜け悪魔は車に飛び乗るとボンネットを押しつぶし飛び降りて俺を追いかける。
「が!」
しかし、道に落ちていた石を踏みつけてしまい倒れてしまった。
「キシャア!」
「あ」
急いで立ち上がろうとしたけれど、駄目だ。
後ろを振り返る。悪魔はすぐ近くにいて鋭利な尻尾を持ち上げていた。先端が俺を向きいつでも振り下ろせる。
まずい。起き上がって逃げ出すよりも貫く方が早い。どうやってもこの状況は変えられない。
俺はただ、唖然と悪魔を見上げることしかできなかった。
その時、この場を銃声が覆った。悪魔の体から血が噴き出しその場に倒れていく。
「大丈夫ですか?」
唖然とその光景を見ていた俺のもとに男の人たちが駆け寄ってくる。五人とも迷彩色をした戦闘服を着ており両腕には今し方使ったアサルトライフルを持っていた。
「え、あ」
気が抜けてまともに返事すらできない。
「立てますか?」
その中の一人が手を伸ばしてくれる。その手を掴むと引っ張ってくれて俺は立ち上がった。
「危ないところでしたね、怪我はないですか?」
「あ、あの、ありがとうございました」
どうなっているのか、状況がよく分からない。ただ助けてくれたのは分かる。お礼を伝えようやく助かったのだと実感した。
よかった。本当によかった。この時代にもこんな人たちがいたなんて。
「いいですよ。無事でなによりです。君が剣島聖治君かな?」
「え?」
どうして俺の名前を? この人たちはいったい。
「実は君を保護するように指示があってここに来ていたんだよ。間に合ってなによりだ」
「俺を保護する?」
なんで? いったい誰が。
「どうして俺を? 保護するってなんの理由で」
「聖治君。目が覚めたばかりで困惑していると思うがこの時代を救うには君が必要だと司令からは聞いている」
「俺が? 司令って誰です?」
目の前の人が言っていることは突飛かもしれない。でもその顔は至って真面目だ。
「皆森星都司令さ」
「星都!?」
星都が司令? 俺の知ってる未来とは違う。なによりあいつが司令ってどういうことだよ!
「あの、星都が司令ってどういうことですか? あいつは今なにを? この時代の人類はどうなったんですか? 悪魔はどこまで侵攻を」
「待ってください。とりあえずここから離れましょう。詳しい話は司令に直接聞いてください。私たちが基地まで案内します。基地といっても小さいですがね。こっちです」
「分かりました」
「これ、近くに落ちてましたよ」
「ありがとうございます」
俺はスリッパを受け取り足を入れる。
聞きたいことはたくさんあった。疑問なんて数え切れないほど頭の中に溜まっている。でもそれを解消するのは後だ。
俺は男の人たちに囲まれる形で進み出した。まだ辺りに悪魔がいるかもしれない。男の人たちは警戒しながら小走りで進んでいく。俺も辺りに目を光らせるがどうしてもさっきのことが気になってしまう。
「あの、あなたたちは」
小さな声で隣を走る人に聞いてみる。男の人は振り向かず話してくれた。
「俺たちは自衛隊だよ。さっき見た悪魔、あれと戦っているんだ」
自衛隊?
「ほかに俺みたいな人は?」
「いや。少なくともここ数日はないな。もうここは悪魔たちの手に落ちたも同然だ。君だけでも見つけられてよかった」
「そうですか」
その時前を走る男の人がグーをした片手を上げた。それでみんなも足を止める。
「こっちに」
隊員に引っ張られ物陰に隠れる。なすがまま一緒に車の陰に隠れた。俺は見なかったがきっと悪魔がいたんだ。
気づかれたか? 緊張感に包まれる。この人たちが守ってくれているという安心感はあるが無事だなんて思えない。悪魔は数も多いし人間よりしぶとい。五人なんてやられる時はあっという間だ。
隊員の顔を覗いてみる。男の人は険しい顔で上空を見つめていた。俺も顔を少しだけ出して視線を追いかけてみる。
そこには暗い空に悪魔の隊列があった。十体以上の悪魔が我が物顔で空を横切っていく。もし見つかれば俺たちはお仕舞いだ。
俺たちはなんとかやり過ごし悪魔の群はどこかへと消えていった。
「やけに落ち着いてるな」
「え?」
と、隣の隊員に言われた。
「いや、昔の人間だって聞いてたからさ。あれを見るのは二度目だろ? その割には平気そうだ」
「いや。なんだか現実味がなくて」
とりあえずそう言っておく。実はこの時代の人間なんですと言っても混乱させるだけだろう。
「それもそうか。騒がれるよりはマシだ。基地まではそれで頼むよ少年」
隊員の人はそう言うと袖で額の汗を拭く。その時手首になにかが見えた。
「…………」
悪魔はいなくなった。前にいる隊員が振り返る。
「行くぞ。日が暮れる前に連れていく」
再び走り出す。相変わらず緊張感が張りつめ会話もないため空気がどんどん重くなっていく。その中でずっと考えていた。言いにくいが言うしかない。
「あの、すみません。実はトイレに行きたいんですが」
この状況で言うことではないが仕方がない。
「我慢してください」
「いや、それがお腹が痛くて。もう我慢できそうにないっていうか」
「なら走りながらしてください」
「無理でしょ!」
できるかそんなこと。
「おい、素人だぞ」
プロならできるの!?
「仕方がない。私たちが見張ってますからここでしてください」
「いや、見られてる中するのはちょっと」
隊員の目がかなり痛い。
「すぐに済ませますんで」
俺は建物の裏路地に入り込んだ。小走りで奥へと入っていく。
「早くしてくださいよ」
「はい!」
奥は結構暗いが見えないほどじゃない。たぶん外からは見えないだろう。
落ち着け。落ち着け俺。そっと後ろを確認するが隊員の姿は見えない。
「…………」
次に辺りを見渡す。そこには建物の窓があり急いでその窓から建物の中へと入った。廊下に着地し急いで走る。
やばい、やばい、やばい!
胸がどくどくいっている。少しでも隊員から離れるために走らないと。
違和感はあった。まず自衛隊だって? この時代に自衛隊はいない。いるのは日本軍だ。悪魔の侵攻をきっかけに自衛隊は軍に再編された。でもこれはもしかしたら昔の時代の俺に気を使ってそう言ってくれただけかもしれない。
確信したのは隊員の手首を見た時。忘れもしない。そこには五つの丸で星を作った模様。
殺戮王のマークが彫られていた。あいつらは自衛隊でもなければ俺を保護するつもりもない。
あいつらは、人狩りだッ。




