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目覚めた場所は?

 君を救うと誓った。今回が駄目なら次で。それでも駄目ならその次で。何度繰り返すことになったとしても。その最後で必ず笑顔にしてみせる。


『……くん』


 守れなかった後悔が、俺を強く責め立てる。


『せ……くん』


 だから戦うよ。次こそ君を幸せにしてみせる。


『せい……くん』


 そのためなら何度だってやり直す。


『聖治君!』

「!?」


 闇に亀裂が入り光が一瞬で世界を染める。

 途端体を包んでいた浮遊感が消えていった。俺は闇から文字通り放り出され階段を転がっていく。


「がは! ごほ、ごほ!」


 息を肺いっぱいに吸う。今まで息を止めていたかのように荒い呼吸を繰り返した。


「はあ……はあ……、なんだよ、いったい」


 なんとか呼吸は収まっていくが、今はどういう状況なんだ? そもそもここはいったい。


「え?」


 それは、見たこともない場所だった。

 部屋は薄暗く非常用の赤いライトのような淡い光が点灯している。俺は固い床の上で横になり転んだ時に打ち付けた膝をさすった。


 振り返り背後を見てみる。そこには巨大なカプセルがあった。透明なガラス、もしくは強化プラスチックでできた容器は人一人なら余裕で入れる大きさをしている。階段の上にあるそれは入り口が開いており中はまだ薄い色のついた溶液で濡れていた。俺の全身もその液体で濡れている。全身は上下一体型の白いボディスーツだ。


「なんだよ、これ」


 初めはぼんやりとしていた意識もだんだんとはっきりしてくる。寝ぼけていたのが晴れた感じだ。

まだ痛む体を抑えながら立ち上がる。


「ここどこだよ」


 この場所はいったい。それになぜ俺はここにいる? こんな場所見たことがない。


 俺は目に付いた扉の前に立った。自動扉だったそれは横にスッと移動し外の廊下も薄暗い。赤いライトが申し訳ない程度に照らしているが不気味さを演出しているようにしか思えないぞ。


 ここには誰もいないのだろうか? 誰かいないか呼んでみるか? 


 いや、慌てるな。ていうか焦るな。ここがまだどういう場所か知らないんだ。俺の立場も分からないのに誰かを呼ぶなんて危険過ぎる。もしかしたら敵陣かもしれないんだ。明らかにおかしい場所なんだから用心してし過ぎることもない。まずは出口を探そう。


 歩き出す。裸足で踏みしめる廊下は冷たく固い感触が伝わってくる。薄暗さと無音の空間、一人きりという状況が不安をあおり立ててくる。


 ここはどういう場所なんだろうか。なんとなくだが無人の病院ていう感じがする。それか研究所?


 歩き進めていくと階段を見つけた。上に続く階段を上っていく。

 行き着いた先、そこには立ちはだかるように鉄扉が締められていた。丸い取っ手に手を伸ばし両手に力を入れる。


 固いが開けられないほどじゃない。ぎぎぎと擦る音を立てながら回していき扉を開く。薄暗いこの場所に光が差し込み、扉を開き、外に出る。


「これは」


 そこは、思った通り病院か研究施設のロビーのようだ。待ち受けの窓口や長いす、ソファがいくつも集まってる場所もある。


 ただし普通じゃない。廃墟のように荒れている。窓ガラスはそのほとんどが割れており破片が床に散乱している。ソファも破れていたり床には外から入ってきた落ち葉や砂埃で汚れていた。


「なんだよ、いったい」


 ここには誰もいない。いるのは俺だけだ。外は? 


 出口へ向かって走り出す。見ればここの扉も割れている。入り口付近にスリッパ置き場がありそこから一組を拝借して外へ出た。

 空は厚い曇に蓋をされ世界を暗くしている。敷地内にある中庭では花壇が崩れ土がこぼれていた。


 走って走って、門を通り、外へ出る。大通りの町並み、ビルや店舗が並ぶ道路の真ん中に立つ。


 そこで、俺は世界を見た。

 車は打ち捨てられフロントガラスには蜘蛛の巣のようなひびが走っている。道路のアスファルトはえぐれているかひび割れ隙間から雑草が生えている。ビルや店舗のガラスは割れ建物が崩れている場所さえあった。


 俺は立ち尽くす。そこへ風に運ばれた新聞が足に引っかかる。それをゆっくりと持ち上げた。


『悪魔の侵攻止まらず。九州陥落か』


 見出しには、大きな文字でそう書かれていた。


 日付は2036年。12月14日。


 それを見て、新聞を持っていた手ががっくりと下がる。力が抜けて、新聞は吹かれた風に乗りどこかへと飛んでいく。

 目の前に広がる光景。これは間違いない。


「なんで……」


 俺たちが来た未来、人類が敗北した世界だ。


「どういう」


 わけがわからない。どうして俺がここにいる? いや、どうしてこの時代にいる!?


 分からない。知らない国に置き去りにされた気分だ。でも俺はたしかにこの場所を知っていて生きていたんだ。


 とりあえず情報を集めよう。なにをするにしても俺は知らな過ぎる。

 歩みを再開する。先ほどよりも慎重に。壊れた町並みには人どころか鳥や猫などの動物すらいない。時折吹く風の音だけが聞こえる。静かで、物寂しく、不気味だ。


 人の気配がない。前の世界まで人でごったがえしていた駅前やクラスの話し声が聞こえる学校とは全然違う。なにか、なにかないか。祈る気持ちで周りを見渡す。誰でもいい。一人っきりの寂しさから解放されたい。


 そう思っていると物音が聞こえた。路地裏からだ。俺はビルの角に近づきそっと中を覗いてみる。

 中は暗くてよく見えない。でもごそごそと音がする。目を凝らしもっと奥を見てみる。


 瞬間、暗闇の中からなにかが一気に走ってきた。


「うわ!」


 それは猫だった。足の下を通り過ぎどこかへと行ってしまう。


「脅かすなよな」


 一瞬襲われるのかと思った。やれやれだ。なにも突然こっちに走ってこなくてもいいのに。

 まるでなにかから逃げ出すような勢いだったな。


「…………」


 瞬間、体が固まった。その後路地裏から足音が聞こえてくる。

 どん、どん。明らかに大きな音が路地裏から響き、不安と鼓動が高鳴る。

 音は近づき、それはついに正体を明かした。


「キシャアア!」


 二メートル近い巨体。黒い体表をしたカマキリに似た異形。鎌のような前腕に鋭い尻尾まである。


 悪魔。甲高い鳴き声と涎を飛ばし俺を見つめてきた。人類の殲滅者。俺たちはこれにやられた。それが今目の前にいるんだ。

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