力の差
その直前、ロハネスは姿を消し地上に着地していた。
「なッ」
シンクロスは空振り、虚空を走り俺は手元に呼び戻す。落胆が、顔を歪める。
「スパーダの遠隔操作、練度が明らかに違うな」
槍を回しながらロハネスが振り返る。
「君は他とは違うということか」
ロハネスからの賛美とも取れかねない言葉。だがそんなの聞き入れる余裕なんてない。
空間転移による回避。槍だけでなく一瞬で自分も移動できたのか。
待てよ、じゃあどうやって攻撃を当てればいい!?
それだけじゃない。空間転移によってどこにでも現れるってことは――
ロハネスの背後からいくつもの槍が空間から顔を出す。それは一週目の時よりも数が多く十本もの刃が俺たちに狙っている。まずい!
槍が飛び出す。俺はなんとかシンクロスを回転させ防ぐが他のみんなが危ない。
俺以外の槍、その隙間を星都が縫いながら切り落としていった。圧倒的なスピードが数の暴力を迎え撃つ。
「星都」
さすが。速いっていうのは攻防において優秀だ。
だがその背後にロハネスが現れる。空間転移はなにも躱すだけじゃない、いつでも攻撃出来るということ。ロハネスの奇襲に星都は躱そうとするも間に合わず腹を切り裂かれてしまった。
「星都ぉおお!」
「ぐう!」
腹を抑えるも血が流れ出す。
「香織!」
「分かってる!」
傷を治すのは香織の役目だ。その間今度は俺たちが星都を守らなくてはいけない。
「くらえ!」
日向ちゃんがミリオットを放つ。光線が狙うもロハネスは空間転移で場所を次々に変えていく。くそ、これじゃ当たらない。
次の瞬間には日向ちゃんの前に現れ槍を振るってきた。それをミリオットで受けるも吹き飛ばされてしまう。
「きゃ!」
「日向ちゃん!」
「止めろぉ!」
背後から力也が攻める。その一撃はまたも空間に現れた槍によって防がれロハネスは振り返るなり無防備な胴体に槍を叩きつけた。
「うう!」
「力也!」
次々とやられていく。香織も必死に怪我を治していくが天志は一人しか治せず間に合っていない。
「よくもぉおお!」
シンクロスを回転させながら斬りかかる。遠隔操作で牽制し両手に持ち換え攻撃していく。だがロハネスが振り回す槍に防がれ当たらない。まるで二つの竜巻を相手にしているようだ。
次の瞬間腕を、足を、最後に腹を叩かれ吹き飛ばされた。
「くッ」
地面に倒れる。痛い。骨が折れたと思えるほどの激痛だ。
だけど、ここで立たないでどうするんだ。このままだとあの時と同じ。魔来名にみんなやられ、ここでもやられるのか?
星都や力也、香織が斬られ倒れていく場面がフラッシュバックする。流れる鮮血が見せしめのように訴える。
そんなの、絶対に駄目だ!
痛みを堪え立ち上がる。シンクロスを浮かばせ正面でゆっくりと回していく。
諦めてたまるか。絶望するものか。本来なかったはずの二度目のチャンスなんだ。
ここで勝たなきゃ、未来なんてないんだよ!
ロハネスを睨む。なにがあってもこいつは倒さなければならない。
「セブンスソードは失敗か、ロハネス」
「え」
その時、心が絶望に染まっていった。
ロハネスの背後から別のフードを被った黒衣の人物が現れた。ロハネスよりは背が低い、俺と同じくらいだろうか。しかしその存在感はロハネスにも負けていない。
「半蔵か。見ての通りだ」
「では仕方がないな」
「管理人が、二人……?」
そんな。一人じゃなかったのか?
ただでさえ強い管理人が二人なんて完全に予想外だ。どうする、どうすればいい? なんとかしないと。このままじゃまた――
新たに現れた管理人の手にナイフが現れる。それを即座に投げつけてきた。速すぎてノーモーションに見える。それをなんとかシンクロスで受け止める。
「ぐう!」
瞬間背中に激痛が走った。振り返ればナイフが突き刺さっている。
「馬鹿な」
どうして? 正面から投げられたのは防いだのに。背後からも攻撃されたのか?
「聖治君!」
片膝を付く。そこへ香織が駆けつけてきた。
「大丈夫!? 今治すから」
「駄目だ香織、逃げないと」
ロハネスだけでも苦戦してたんだ、そこにもう一人なんて勝てない。逃げないと駄目だ。
「香織!」
「駄目だよ、聖治君を置いていくなんて出来ない!」
なのに香織は聞いてくれない。怪我を必死に治している。それは嬉しいけど、でも。
「ぐ!」
そこで香織から声が上がる。表情は痛みに歪み、けれど治療は止めない。
「香織!」
「あ、ぐう!」
さらに声が上がる。
「もういい! このままじゃ香織まで!」
大声で説得しようとするのだが香織は続けていた。おかげで俺の傷は完全に治り、香織はホッとしたように力を抜いていく。
「よかっ、た」
そう言うと体がもたれかかってきた。
「香織?」
抱き留める。それで彼女の背中に手を回すが、そこには何本ものナイフが突き刺さっていた。血だらけで流血が服を真っ赤に染めている。
「駄目だ、駄目だ香織! 早く傷を!」
こんなにも傷だらけになりながらも、香織は俺のために治療してくれたんだ。
「ごめんね……約束、守れなくて」
苦しそうな表情で、それでも申し訳なく言う。
「聖治君の、そばに……」
俺を助けるために命懸けで頑張っていた彼女が、腕の中で息を引き取っていく。
「香織ぃいいいいい!」
ぐったりと顔が横を向く。その体を抱きしめた、強く、強く。壊れるほど抱きしめる。涙が溢れ頬を伝っていく。
ああ。約束だ。必ず幸せにする。君を! 何度挑戦することになっても!
俺は香織をゆっくりと地面に置き立ち上がった。
「来い。桃源刀、天志」
左手に香織のスパーダを握る。右手はシンクロスを握り込み二人の管理人を睨みつけた。
このままでは全滅だ。それだけは絶対に回避しなければならない。
「みんな逃げろ! ここは俺がやる!」
俺の一声にみんなが見てくる。
「は!? なに言ってんだよ」
「そうだよ聖治くん、僕たち一緒に戦おうよぉ」
「聖治さん」
「本気なの?」
「ああ」
みんなからの反応を一身に受け止めるが俺の意思は変わらない。
「こいつを倒すのは俺たちじゃ無理だ。だからみんなは逃げてくれ」
ここで全員で戦っても誰かは死ぬ。最悪全滅だ。それだけは避けなくちゃならない。
「だからってお前が犠牲になることねえだろ」
「俺がしたいんだ!」
星都にそう言ってもらえるのは嬉しいが、これは俺がしなくちゃならないことなんだ。
あの時、俺はなにも出来なかった。星都や力也、香織が死んでいくのをただ黙って見つめていた。なんの役にも立てなかった。あんな思いはもうしたくない。せめて、今度こそ誰かを救いたい。
だから決めたんだ。
「行け! 早くするんだ!」
みんな迷ってる。そりゃそうだ。だけど現実は選択を迫ってる。迷ってたら死ぬんだ。
「星都! ここで全滅するつもりか! 此方! 日向ちゃんを救うんだろ!」
だけど分かっているはずだ、このままじゃまずいということを。
「日向、行くわよ」
「でもお姉ちゃん!」
「いいから!」
彼女は日向ちゃんを守ることを優先している。だから後押しすれば逃げてくれると思った。
此方は日向ちゃんの手を掴んで走るが、その足が止まって俺へ振り向く。
「ごめん」
「言うな。分かってるよ」
そうして此方と日向ちゃんたちは走り出していった。
「ちぃ。力也!」
「でもぉ」
「行くぞ!」
「……うん」
二人が走り出したことで星都と力也も振り返った。逃げ出す途中、星都が俺を見る。
「言っとくが、死ぬ必要はないんだからな」
「そうだったな。とりあえず頑張ってみるよ」
「絶対だボケ!」
乱暴に言い捨て星都と力也もこの場を離れていく。言葉はきついがあいつの気持ちがダイレクトに響いてきてじわじわと胸に効いてくる。
そこでロハネスの背後に浮かぶ槍が射出されみんなの背中を狙ってきた。
「天志!」
だがそうはさせない。ピンク色のバリアを展開し槍を受け止めた。
「焦るなよ、俺を倒してからだろ?」
今の俺には天志のバリアがある。勝つことは出来なくても時間は稼げるはずだ。
俺はシンクロスと天志から手を放し二つのスパーダが空中で回り出す。スパーダの二刀流。かつてのようにとはいかないが戦うしかない。
みんなのための殿だ、気合を入れろ!
「うおおお!」
そうして、俺たちの戦いは再開した。




