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戦う動機

「だから、あの子は救いたいのよ。私はもう救われたからさ、今度は私が救わなくちゃいけない。そう思って、そう覚悟して、気合入れてたつもりだったんだけど。駄目ね。姉失格だわ」

「そんなことない」


 妹を守るための行動は結果的には間違いだった。あのまま戦闘が続けば此方は負けていたかもしれないし、そうなったら日向ちゃんが俺たちの仲間になるなんてこともなかっただろう。結果日向ちゃんとも戦っていたかもしれない。そうならなくて本当に良かった。


「いいわよ、気遣わなくたって。分かってるから」

「そんなことない!」


 だけど此方は自虐する。それを否定したくてつい声が大きくなってしまった。


「悪い。ただ、本当の姉妹じゃない? そんなの関係ないくらい二人は互いを大事に思い合ってる。立派だよ。本物の姉妹や兄弟だからってここまで仲がいいのなかなかいないぜ? 正直羨ましいよ」

「そうなの?」

「……最近思い出したんだけどさ」


 この頃ふと未来のことを思い出す。これも香織の記憶を取り込んだおかげだろう。

 その中で、新しく思い出したことがあったんだ。


「兄がいたんだ。年は離れてるけどさ」

「そうなんだ」

「でも仲は良くなかったよ。よく喧嘩してさ、あまりにも喧嘩するもんだから最後は話もしないようになってたな。本物の兄弟でもそんな感じだ。だから此方と日向ちゃんの関係は、すごく姉妹らしいっていうか、姉妹よりも姉妹してるよ。自信持っていい」


 本当とか偽物とか、そんなの関係ない。大事なのは気持ちだ。


「此方も覚えてないだけで本当の姉妹だったのかもしれないぜ? 人間だった頃からさ」

「そうかもね。そうかもしれない。今となってはどっちでもいいけど」


 見れば此方の口元は小さく上がっている。姉の方は素直じゃないな。


「あんたが戦うのは彼女のため?」

「それもあるが」

「?」


 含みのある言い方に此方は眉を寄せている。一瞬言うか迷ったが一応話しておくか。


 俺は未来から来たことや一度死んでいるが記憶を引き継いで二度目をやっていることなど彼女に説明した。仲間になるんだ、隠す必要もない。

 話を聞き終わった此方はやや険しい表情を浮かべていた。


「未来から来た、ねえ」

「そこは信じなくてもいいよ。胡散臭いよな」

「けっこうね。ただカリギュラの能力を知ってたのは引っ掛かってたし、そういうことなら筋は通ってるけど。とはいえそれを信じるっていうのはね」

「今は忘れてくれていいよ。黙ってた方が良かったかな」


 しまったな、要らない情報を与えてかえって不審に思わせたか。言うにしても今じゃなかったな。

 そこで日向ちゃんが扉を勢いよく開けてきた。


「ねえねえお姉ちゃん! 香織さんと聖治さんって未来から来たんだって! すごくない!?」


 俺たちは見つめ合い此方は目を瞑り頭上を仰ぐ。


「はあ……まったく」

「ははは」


 ほんと、いい姉妹だよな。

 それから俺たちは星都と力也を待っていたわけだがふと見れば香織がベランダに立っているのが見えた。ソファから立ち上がり俺もベランダへと出る。


「どうかしたか?」


 聞きながら俺も外を見てみるがここからだと夜の街並みがよく見える。暗闇の中に浮かび上がるいくつもの光は綺麗で、見れば香織も穏やかな表情をしていた。


「すごいよね。こんなにも明かりがたくさん。それだけ人が生きているってことだもんね」

「俺たちがもっと子供の時だよな、戦いが始まって。だからこんな光景を見るのも久しぶりか」

「うん。ちょっと感動しちゃう。平和って感じがしてさ」


 俺たちの時代、こんな光景は日に日に減っていった。この光景は俺たちからすればどんな名画にも勝る絶景だ。

 それで俺も笑みを浮かべるのだが香織はどこか暗い顔に変わっていた。


「香織?」


 沈んでいる? 細められたその目からは寂しげなものを感じる。


「なんかさ、綺麗な夜景だって思うんだけど、そこでふと思っちゃったんだよね。このままだと、ここも殺戮王にやられちゃうのかなって。そう思ったら急に楽しめなくなっちゃって」


 ああ、なるほど。そういうことか。


 俺たちの未来、そこで人類が全滅とまで言える被害を出したのは殺戮王が襲ってきたからだ。人類に戦争を仕掛けた悪魔の親玉。そいつのせいで俺たちの町も、世界もめちゃくちゃにされた。


「この次元にも、やっぱり来るんだよね?」

「未来通りならな」


 こうして平穏無事な町の光景もあと数年もすれば戦火に包まれる。ビルは崩れ多くの死体が町に転がっている。それは絶対に避けなければならないことだ。

 香織の懸念に俺も未来のことを思い出していく。


「なあ香織、覚えてるか? 人狩りのこと」


 それは未来での出来事だ。俺たちにとってそれは悪夢そのもので恐怖と絶望、なにより憎悪が渦巻くものだ。


「忘れるわけないよ。悪魔に寝返った人たちのことじゃん。殺戮王のシンボルマークのさ、五つの丸で作った星型のタトゥー入れて、それで人間を攫ったり殺したり。最低だよ」


 そう、悪魔との戦いで人類側が劣勢になると悪魔に取り入ろうとする連中が現れたんだ。同じ人間に襲われる、あれほど悍ましいものはない。


「まったくだ。こっちは悪魔と必死にやり合ってるっていうのに。悪魔と戦うと覚悟して日本軍に志願した人だって戦うのが人間だったらやってられないよ。酷い話さ。だけど、だからといって人類を諦めていい理由にはならない。ううん、そんな未来にしないためにも頑張らなくちゃならないんだ」


 夜景に目を移す。この光の数だけある平穏もこのままでは血に染まる。それを防ぐ。責任は大きい。


「この景色をいつでも見られるように、俺は……!」


 未来から続く俺の使命。シンクロスと共に俺は人類を救わなくてはならない。失敗は絶対に許されないんだ。

 そのことにプレッシャーを感じる。その重みに目線は下がり表情も険しくなっていく。

 そこで服を引っ張られ、俺は振り向いた。


「一緒に、だろ?」


 そこには勝気に笑う、俺の恋人がいた。


「聖治君は一人じゃない。それは前からだけどさ、今は違う意味でそう言える」


 香織はさきほどの表情とは打って変わって嬉しそうに笑っている。


「こんなこと言ったら不謹慎かもしれないけど、私ちょっと嬉しいんだよね」


 嬉しい? どういうことだろう。


「聖治君が未来でたった一人戦っていたのを知ってる。必死に頑張ってたのも見てた。何度も助けてくれて、ずっとそれが嬉しかった、感謝してたの! でも私にはなにも出来ない。そんな自分が、悔しかったんだよね」


 未来において香織はスパーダを持たない普通の女の子だ。だから彼女を守るために俺が戦っていたわけだけど、それを苦労だなんて思ったことはない。けれど香織はそうじゃなかったんだろう。無力な自分を一人で責めていたんだ。


「だけど今なら一緒に戦える。私でも聖治君を守ってあげられる。それだけじゃない、この時代ならご飯だって作ってあげられるし、いろいろしてあげられる。ようやく役に立てられる自分が嬉しいの」


 そこまで言うと香織は今更ながら恥ずかしくなったのか頬を赤くして目線を泳がせた。


「だから、その、えっと……。これからもそばに居させて欲しいな。今度は私が幸せにするからさ!」


 完全に横を向いて言い捨てるように言う。でもそのストレートな気持ちが嬉しくて、俺は笑みが零れていた。

 じんわりとした温かさが全身に広がっていく。


「それは、もう叶ってるよ」

「え?」


 そんな彼女が愛おしくて、改めて思う。


「すでに幸せだよ。何度も救われた。今もすげー嬉しい。ありがとうな」


 俺にとって一番大切なものを。


「香織、可愛いよな」

「え!? なに急に~。でもそう思ったなら随時報告して欲しいな~」

「やっぱり恥ずかしいから止めておくよ」

「なんで!?」

「ははは」

「おいコラ~!」


 そう言って室内へと戻っていく。俺たちは幸せになるために戦うべきだ。会話していて思い出したよ。


 君のために剣を取ろう。あの世界で最後まで俺を救ってくれた君のために。


 そのために、戦うと決めたんだ。

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