仲間入り
「私は沙城香織。あなたは日向ちゃんよね? よろしくね」
「はい! お姉ちゃんいいよね?」
日向が隣に立つ姉を見上げる。なんというか、俺たちを包む雰囲気はこれから戦闘しようなんて殺伐としたものからかなり弛緩していて、なんていうか、戦意なんてとっくに霧散していた。気を張り詰めているのは此方だけだ。
そうして、此方は頭上を見ると力が抜けカリギュラの切っ先を地面へと落とした。
「はあ……馬鹿みたい」
それが自分に対して言った言葉だというのは分かる。自分があれこれ一生懸命考えているのに空振りになれば確かに馬鹿みたいだ。
俺は此方に近づいていく。彼女は俺を見るが気だるげな表情にはもう敵意はない。
「気持ちは分かるよ。でも、俺は嬉しい。たまには馬鹿でもいいんじゃないか? それで仲良くなれるならさ」
「はあ」
大きなため息。だけど、その後には頷いてくれた。
「分かったわよ」
スパーダを消す。周りに流される形だけど納得してくれたようだ。直後マンションの部屋の光、カーテン越しではあるが人影が見え始める。結界が解けたんだ。俺たちもスパーダを消しようやくホッと出来た。
「話、しないか?」
それから俺たち四人はマンションに入り二人の部屋へと上がっていった。中は2LDKの高級感ある内装の部屋だ。もう玄関から違う。シックな黒の扉をしたシューズボックス。リビングはダイニングキッチンで中央には大きな薄緑色のL字のソファに大きなテレビ。さすがタワマン、現代の貴族みたいだ。
「もしもし。ああ。こっちだけどあれから和解できてな、今部屋に邪魔してるところだ。二人は? ……分かった、しばらく休んでてくれていいよ。あとで合流だな。じゃあ」
俺はスマホを切りポケットにしまう。
「ごめんなさい、お姉ちゃんのせいで。大丈夫そうですか?」
「ああ。少し休んでからこっち来るってさ。それにこうして丸く収まってくれたんだ、あいつらだって納得してくれるさ」
俺たちはソファに座り此方はキッチンでお湯を沸かしている。俺と香織が横に並び、L字の反対側に日向ちゃんが座っている。
「俺は剣島聖治。よろしく」
「日向です。よろしくお願いします」
丁寧に座り小さくお辞儀する。おてんばな印象もあるけどこういうところは礼儀正しい。けれどすぐにその表情は崩れ俺を興味深そうに見つめてきた。
「ふーん」
「?」
なんだ? 俺の顔変じゃないよな?
「聖治さんと香織さんってさ、付き合ってるの?」
「え?」
なにその質問、どうして分かった?
「ふっふーん。どう思う? 仮にそうだとしてお似合いのカップルだと思う~?」
「うんうん、思う思う! はじめ見た時からお似合いだな~って思ってたんだよねー」
「だってさ聖治君聞いた? ねえ聞いた? お似合いだってさ~」
「そいつは光栄だね」
「なんで棒読み!?」
恥ずかしいんだよ。女の子ってこういうの気にしないのか?
「日向ちゃんでいいかな? 付き合ってる人はいないの?」
「私いないんだよね。早く彼氏欲しいなあ」
「急いで作らなくてもいいわよ」
「えええ、だって欲しくない?」
そこで此方がやってくる。お盆の上には紅茶が入ったカップが人数分あり各々に配られる。
「ありがと」
それを受け取り一口飲む。うまいな。紅茶なんて飲む機会なかったけどいい香りだ。
「う~ん、優雅って感じ。私こういうの好き」
香織もご満悦だな。とはいえ紅茶が好きというよりも紅茶を飲んでいるシチュエーションが気に入ってるみたいだけど。
「でも意外だな、日向ちゃん可愛いし性格明るいのに。日向ちゃんならすぐに彼氏できるよ」
「ほんと? そう思います?」
「うん。思う思う」
「聖治君~? もしかして粉かけてな~い?」
「はああ!? 何段飛び越えたらそんな発想になるんだよ。今のどこにそんな要素あった!?」
「ははは。香織さん面白いなあ」
今の面白いか?
「日向、これからどうするかを話し合うんでしょ?」
日向ちゃんの隣に此方が座り目を瞑りながら紅茶を飲む。
「いいじゃんちょっとくらい。まさか他のスパーダが年近いなんて思わなかったんだし。それに聖治さんたちの仲間が来るまでどうせ待つんでしょ? 話くらいいいじゃん」
「ねえ日向ちゃん、恋バナしない恋バナ?」
「するー!」
元気だなー。香織と日向ちゃんは早速仲良くなっている。そのまま紅茶を持って日向ちゃんの自室へと消えていった。そんな二人を俺たちは静かに見送っていく。それでここには俺と此方の二人きりだ。
「えっと、安神さん」
「此方でいいわよ。妹もいるんだし名前の方がいいでしょ」
「分かった。なら、仲間になるんだ。さん付けもなしにするか。此方って呼ばせてもらうよ。俺も呼び捨てでいいから」
最初出会った時は戦いになってどうなることかと思ったけど、こうして話ができるようになって本当に良かった。それにまだ出会って間もないけど彼女のことを知ることも出来た。
二人が消えていった部屋の扉を見つめる。
「その、なんだ。此方が妹のために戦ってるの、分かった気がするよ。明るくてさ、いい妹じゃないか」
「どうも」
彼女を見る。小さく紅茶を飲んでいるがその表情は晴れない。
「優れないな。まだ不安か?」
「そうじゃない」
カップを受け皿に置く。彼女にはもう敵意は感じない。けれどその表情は影が差している。
「今では信じることにしてる。それが正しいことなのかはまだ分からないけどさ。でもあの子は本当に信じてる。これで良かったのかもしれない。ただ、だとしたら私のやろうとしてたことは間違いだったってことで、あの子のためにならない選択だった」
そういう彼女はなんというか、落ち込んでいるように見えた。
「結果論だろ? 俺の立場で言うのもあれだが、警戒するのは当然のことだ。それだけ日向ちゃんのこと守りたかったんだろ?」
此方が俺たちを襲ったこと、それ自体は辛かったし苦しかったけど、理解は出来るんだ。敵対こそしたが彼女のことは嫌いじゃない。
その動機が大切な人を守るため、という俺と同じ理由だったのは小さくないだろう。
此方は俺から日向ちゃんの扉に目を向けた。
「私とあの子が作られたのはだいぶ前からでさ、姉妹としてその時から一緒に暮らしてた。でもさ、私たちには前世があるわけじゃない。ホムンクルスになる前の魂っていうか、人間だった時が。だから私たちは本当の姉妹じゃない。そういう設定よ。おまけにセブンスソードで殺し合いをすることが決まってる。どう思う?」
目だけを俺に寄越す。横目で見るその瞳は皮肉な笑みを浮かべており、それもすぐに物憂げなものに変わり部屋を見た。
「あの子はね、笑ってたわ。無邪気に笑ってさ、私を姉だと慕ってくれるんだよね。最初は嫌いだった。セブンスソードも。スパーダも。……あの子も。いつ始まるか分からないセブンスソードに怯えてさ、いつ敵対するか分からない妹を突き放して私は引き籠ってた。その度に日向は私を励ましてくれた。普通に接してくれた。……救われたわ」
「そっか」
此方がソファに体重を預ける。ソファに背中が沈みその表情は小さく笑っていた。




