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プロローグ

 ガチャンと音を立て、俺、剣島聖治けんじませいじは鉄扉を開けていく。学校の屋上で待っていたのは一人の女の子だった。夕暮れの空に俺と彼女の影が伸びていく。


「来てくれたんだ」


 彼女は沙城香織さじょうかおり。クラスメイトの子で話をしたことはあまりないがピンク色の長い髪や丸みのある瞳が可愛らしい子だ。


 そんな彼女となぜ二人きりでいるのかというと、彼女から話があると誘われたんだ。そのことに少しばかり期待してしまう。


「ねえ、聖治せいじ君ってさ、好きな人って、いるの?」

「え」


 マジ? なにその質問。止めてよね、純情な男子の期待を煽るだけ煽って違ったらめちゃくちゃ傷つくんだぞ。


「いや、いないけど」

「ほんと?」


 なのだが彼女は嬉しそうだ。もしかして本当に? いやいや、そんなはずがない。それか友達に頼まれて代わりに聞きに来たとか? 

 変に期待するなと自分に言い聞かせるが目の前の彼女は恥ずかしそうに目を逸らしている。そんな仕草をされたら期待しちゃうだろ!


 ドキドキする。次の言葉がいやに長く感じる。

 そこで沙城さんが顔を上げた。その表情は不安の中に確かな勇気を込めて、俺を見つめている。


「私と、付き合わない?」

(ええええええ!)


 ヤッタ! まじかよ!?

 幸福の、最大風速が巻き起こっている。俺はもちろんOKし彼女と付き合うことになったんだ。


「ほんとに!? しゃー! よっしゃー、おい~」


 そのことに彼女も喜んでいる。まるでおっさんみたいな喜び方だな。でもそんなのいい。俺も嬉しい。


 初めて恋人が出来た。これからどうしようか、放課後は教室に残って話をしたり休日はどこか遊びに行こうか。最近戦争が激しくなっているようだけど、彼女と遊びに行くことを考えると未来がわくわくして止まらない。


「ねえ、聖治君」


 そこで彼女が改めて俺を見る。

 瞬間だった、見える景色が突然と色褪せていく。音が遠のいて動きは通信速度の悪い映像みたいだ。


 記憶が、失われていく。思い出そうとすればするほど消えていく。

 嫌だ、忘れたくない。大切な記憶なんだ。大事な思い出なんだ。そう思うのに。

 彼女の名前は?

 髪の色は?

 君は、誰だ?

 駄目だ、思い出せない。すべてセピア色に潰れていく。

 彼女が口を開き、なにかを言っている。


「――――」


 なにを言っている? 聞こえない。思い出せない。なにも分からない。

 嫌だ、忘れたくない!


「はああああ!」

「ウアアアア!」


 その時、聞こえた大声が現実に引き戻す。

 まるで悪夢のような現実に。

 俺は今、なにをしている?



 絶望の未来を暗示するかのような曇天の空。倒壊するビル群。この時廃墟と化した高層ビルの屋上で最後の人類が戦っていた。


 一人は少年だ。

 学生服を着た彼の手には七色に輝く剣が握られている。鍔が欠けた十字架の形をしたそれは特定の色が発光する度に様々な能力を発動していく。多彩な異能、彼の一振りは大気を震わせ光が宙を裂く。


 片や少年に襲い掛かるのは悪魔の如き姿をしていた。

 漆黒の体は二メートルを優に超え翼を広げればそれ以上になる。

 鋭い眼光と雄たけびを叫ぶ異形の手には黒色の剣が握られており、さらには異色の剣が四本も浮遊していた。


 これらの剣も能力を備えており一振りは重力を歪め二振りは寿命を刈り取る死神の鎌となる。それらを少年は七色の剣で防いでいった。


「はああああ!」

「ウアアアア!」


 虹色の少年と五刀流の悪魔。

 破滅の未来に剣戟のが響く。


 理由は分からない。忘れてしまった。ただどこかで覚えている。誰か、分からないその人を救うために戦っている。


 それは誰だ? 髪の色は? 名前は? 最後の言葉は?

 分からない。思い出せない。だけど。

 痛い。苦しい。それでも。

 辛い。寂しい。だとしても!

 彼は、諦めることはしなかった。


 その意思は輝きだ。その剣は約束だ。

 灰色の世界に虹を架けろ。


 ――最後に君だけは、救ってみせるから。

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