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後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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さようなら故郷

 

「――二姐アージェ


 声かけとともに、豆妹がぐい、と雪華の手を掴む。

 あ……と気づいた時には、手のひらに金の指ぬきを握らされていた。


「あげる、持ってて」


 そう懇願する豆妹の声は少し震えている。

 雪華はしばらくのあいだ可愛い豆妹の顔を眺めていたのだが、やがてふっと笑みをこぼした。

 受け取った指ぬきを大切に懐にしまい、身に着けていた珊瑚さんごの耳飾りを外す。それを豆妹の耳に着けてやった。

 豆妹は目をまん丸くして固まっている。


「勇敢な船乗りさんが、お洒落な耳飾りを着けていても良いでしょう?」


 先ほど豆妹は「私は将来船乗りになるから、指ぬきはいらない」と言っていたので、冗談めかしてそう尋ねた。

 豆妹の頬が真っ赤に染まる。海賊と戦うと宣言していた時はあんなに勇ましかったのに、耳飾りを着けてもらった途端もじもじと照れている。


「でも……でもこれ、姐姐ジェジェからもらった大切な耳飾りじゃなかった?」


「そうだよ」


「じゃあもらえないよ」


「私はこれを豆妹に持っていてほしい」


二姐アージェ……」


「さっき私は『おそらくもう戻れない』と言ったけれど……いつかまた、あなたに会えることを願っている」


「うん」


 ふたたび涙声になる豆妹を雪華は抱きしめた。

 眉根を寄せ、ぐっと涙をこらえる。豆妹の耳もとで静かに声をかけた。


「おそらく姐姐ジェジェも戻らないから、私たちの家は豆妹にあげる。大切にしてくれる?」


「うん」


「今日は家人ジャレンが誰もいないのよね? 私が旅立ったら、あなたは二軒隣の高さんの家に行きなさい――分かった?」


 両親は仕事で不在、いつも一緒にいる祖母は隣村に行っていると言っていた。この状態の豆妹をひとりで隣家に残すのは不安だった。夜になれば彼女の親が帰って来るので、それまでは誰か大人と一緒にいてもらわなくては。


「うん」


 豆妹が頷いたので、包み込むように背中を撫でてやり、体を離す。


「じゃあ――私と手を合わせて」


 手のひらを向けると、豆妹もそれにならった。互いに温もりが伝わる。


「三、二、一で手を離して、振り返らずに高さんの家に向かうのよ――いい?」


「うん」


「三、二、一――豆妹、大好きだよ」


「私もずっと大好き」


 豆妹はしゃくり上げ、最後にもう一度こちらをじっと見つめてから、さっときびすを返した。

 豆妹の姿が見えなくなるまで、雪華はしゃがんだまま見送り、やがて立ち上がった。


「朱殿――大変お待たせして申し訳ありません」


 * * *



「馬車を先に行かせて、しばらく歩きましょう」


 朱翠影がそう提案してくれて、雪華は深く感謝した。

 起伏のある通りをふたり並んで歩く。

 我が故郷――青く瑞々しい稲の葉が、風に揺れるさまを雪華は眺めた。

 私は烏解を愛している。美しい村だ。

 けれど今日、旅立つ。

 さようなら故郷。

 さようなら豆妹。

 さようなら姐姐ジェジェ――私の最愛の人。



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