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後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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雪華、泣く

 

 私のことは荷物か何かのように扱って、放置してくださって結構ですよ。

 軒車では中に入れる必要すらない……箱の前面に御者台があり、老年の男性が手綱を持って待機しているので、その隣に座らせてもらう形でもいいと思うのだ。

 根本的に噛み合っていない雪華と朱翠影が、『この人、分かっていないな』と互いに相手を責める感じで視線を交わしていると、横手から声がかかった。


「――二姐アージェ!」


 若芽のように張りのある声だ。

 雪華が振り返ると同時に、跳ねる毬のような勢いで、小さな体が懐に飛び込んで来た。

 ――豆妹だ。

 雪華のお腹に顔を押しつけながらモゴモゴと喋り出す。


「二姐……私も行くぅ……」


 呆れたことに、豆妹も雪華と同じように、包袱を背負っている。

 雪華は口を開きかけ……喉元に込み上げてきた熱いものを呑み込んだ。

 くぐもった声で豆妹が懇願こんがんする。


「私も都に行く……連れて行って……」


 いいよ、連れて行く――そう答えられたなら、どんなに楽か。

 雪華が頷きさえすれば、今は豆妹の笑顔を見られるだろう。

 けれど……。

 豆妹はまだ七歳、しっかりしているように見えても、こういうところはまだ子供だ。

 柔らかな子供の髪を撫で、その小さな肩に手を触れて、そっと体から離した。

 目を見て告げる。


「だめよ――一緒に連れてはいけない」


「やだ、私も行く」


 豆妹は反発した。つぶらな瞳に涙をいっぱい溜めて、じっとこちらを見上げて訴える。


「私も二姐と行くんだもん」


「あなたが突然いなくなったら、仕事から帰って来た妈妈マーマは、胸が潰れるほど心配する」


 それを聞き、豆妹の顔がくしゃりと歪んだ。

 今は発作的に「連れて行って」という気持ちになっているだけで、実際に旅立ってしまったら、夜が来て、豆妹は親恋しさに泣くことになるだろう。

 豆妹が、わあ……と声を立てて泣き出した。つむった目から大粒の涙が零れ落ちる。


「二姐、行っちゃ嫌だあ……嫌だよお!」


 縋られた雪華は、しゃんとしなければ……と奥歯を噛んだ。

 私は大人なのだから、年長者として、しっかり……しっかりと……。

 自らを叱るのだが、理性に反して、じわりと視界が滲んだ。

 雪華もまた泣き出していた。


「豆妹……寂しいよ……」


 唇から零れ出たのは、子供の前で出してはいけない弱音。

 ……胸がえぐられそう……。


「豆妹と離れるの、私も嫌……あなたと一緒にいたい」


 温もりを求め、小さな体を抱き込む。うねりに呑み込まれるように、悲しみが押し寄せてきた。雪華も子供のように泣いた。

 瞼も耳も首筋も、ジンと熱い。

 ふたりは声を出して泣き、大粒の涙を零した。




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