雪華、泣く
私のことは荷物か何かのように扱って、放置してくださって結構ですよ。
軒車では中に入れる必要すらない……箱の前面に御者台があり、老年の男性が手綱を持って待機しているので、その隣に座らせてもらう形でもいいと思うのだ。
根本的に噛み合っていない雪華と朱翠影が、『この人、分かっていないな』と互いに相手を責める感じで視線を交わしていると、横手から声がかかった。
「――二姐!」
若芽のように張りのある声だ。
雪華が振り返ると同時に、跳ねる毬のような勢いで、小さな体が懐に飛び込んで来た。
――豆妹だ。
雪華のお腹に顔を押しつけながらモゴモゴと喋り出す。
「二姐……私も行くぅ……」
呆れたことに、豆妹も雪華と同じように、包袱を背負っている。
雪華は口を開きかけ……喉元に込み上げてきた熱いものを呑み込んだ。
くぐもった声で豆妹が懇願する。
「私も都に行く……連れて行って……」
いいよ、連れて行く――そう答えられたなら、どんなに楽か。
雪華が頷きさえすれば、今は豆妹の笑顔を見られるだろう。
けれど……。
豆妹はまだ七歳、しっかりしているように見えても、こういうところはまだ子供だ。
柔らかな子供の髪を撫で、その小さな肩に手を触れて、そっと体から離した。
目を見て告げる。
「だめよ――一緒に連れてはいけない」
「やだ、私も行く」
豆妹は反発した。つぶらな瞳に涙をいっぱい溜めて、じっとこちらを見上げて訴える。
「私も二姐と行くんだもん」
「あなたが突然いなくなったら、仕事から帰って来た妈妈は、胸が潰れるほど心配する」
それを聞き、豆妹の顔がくしゃりと歪んだ。
今は発作的に「連れて行って」という気持ちになっているだけで、実際に旅立ってしまったら、夜が来て、豆妹は親恋しさに泣くことになるだろう。
豆妹が、わあ……と声を立てて泣き出した。つむった目から大粒の涙が零れ落ちる。
「二姐、行っちゃ嫌だあ……嫌だよお!」
縋られた雪華は、しゃんとしなければ……と奥歯を噛んだ。
私は大人なのだから、年長者として、しっかり……しっかりと……。
自らを叱るのだが、理性に反して、じわりと視界が滲んだ。
雪華もまた泣き出していた。
「豆妹……寂しいよ……」
唇から零れ出たのは、子供の前で出してはいけない弱音。
……胸がえぐられそう……。
「豆妹と離れるの、私も嫌……あなたと一緒にいたい」
温もりを求め、小さな体を抱き込む。うねりに呑み込まれるように、悲しみが押し寄せてきた。雪華も子供のように泣いた。
瞼も耳も首筋も、ジンと熱い。
ふたりは声を出して泣き、大粒の涙を零した。




