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後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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遠くと近くを同時に見ている

 

「朱殿、どうしました?」


「君は変わった人だな……おそろしく頭の回転が速いが、誰も置き去りにしない。遠くと近くを同時に見ているかのようだ」


 遠くと近くを同時に、か……それは言われたことがなかったな。

 そういえば姐姐ジェジェから武術の稽古をつけてもらう時に、こう教わった――「妹妹メイメイ、目だけ使わず、背中でも見ろ」と。

 常に周囲に気を配れ――まず周囲と調和してから前に出ろ。自分にしか注意を払えないやつは、実は自分のことすら見えていない。視野が狭いと不意を突かれて死ぬぞ。

 姐姐の教えはすべてに通じているんだ――周りをよく見る、それすなわち自分を知ることと同意である。

 雪華は幼い豆妹を教え導いているようで、実は豆妹に導かれているのかも。教えることで逆に教わっている――共に大切なことを学んでいるのだ。

 はたから見た場合、雪華の在り方、考え方は異質に映るのかもしれない。その違和感を朱翠影は「遠くと近くを同時に見ている」と表現した。

 彼が物思う様子で続ける。


「きっとみやこ中を探しても、君のような人はいない」


 いや、何を根拠に? 雪華は片眉を上げる。少し考えてから、悪戯な瞳で朱翠影を見返した。


「私から言わせれば、朱殿のほうが変わっていますよ」


「どこがだ? 私はごく普通の人間だ」


 おやおやご冗談を……無意識のうちに口の端が上がる。

 朱翠影の見た目が飛び抜けて端麗なのは言うまでもないが、彼の特異な点はむしろ内面にあると思う。

 雪華は瞳を細めた。


「自覚がないようですが、あなたは度を超して親切な方です」


「は……何を……」


 頭が理解を拒否しているのか、朱翠影が眉を顰める。苦いものを噛んだかのような顔つきだ。

 やはり自覚がないのだなあ……雪華は感心してしまった。


「あの状況で剣を手放せるのは、あなただけです。先ほど店先で私が『奥に幼い子供がいます。危険物の持ち込みは許可できない』と言った時、平民の言葉など無視することもできたのに、朱殿はそうしなかった。きっと都中探しても、あなたのような人はいない」


 雪華の話を聞くうちに、朱翠影の様子に変化が起こった。

 肩の力が抜け、ただ穏やかにこちらを見返す。

 彼の凪いだ瞳を覗き込み、雪華は不思議な心地になった……まるで深い森の奥に迷い込んだみたいだ。空気が綺麗すぎて、この世のものとは思えない。

 視線が交差する奇妙な時間が流れた。

 すると隣席に腰かけている小さな豆妹が遠慮がちに声をかけてきた。


「あのぉ……お邪魔でしたら、しばらくのあいだ奥の部屋に行ってようか?」


 雪華はハッとして身じろぎした。「お邪魔でしたら」って何? 変なこと言わないで!

 少し怖い顔をあえて作り、豆妹を眺めおろす。


「こら、年長者をからかってはいけません」


 軽く摘まむように耳を引っ張ってやると、豆妹が「あちゃー」とばかりにペロリと舌を出す。

 実直な朱翠影は無言で右手を持ち上げ、目元を覆ってしまった。



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