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8、嬉し楽しのフローラ

「実は」

 ジークが口を開く。

「マリのことで実家に連絡をしたいんです。おそらく両親や兄たちが喜々としてヴァイリカスに来てしまうと思うから、都市に入る許可が欲しいんですよ」

 ギルド長は、冒険者ギルドのギルド長であるが同時にヴァイリカスを支配する領主でもあった。 

「あ~。ライドルド家は一大戦力だもんね。都市に入るだけで警戒をされてしまうだろう」

「最初はマリをライドルドに連れて行くつもりだったんですが、マリは人間です。移動するだけでも危険が伴う」

「ヴァイリカスにいた方が安全だよ。僕の庇護もあるし、冒険者ギルドも味方だし」

 と言ってギルド長はハッとしたように片眉をピクリと跳ねさせた。

「待って。ねぇ、ライドルド家が来たらマリちゃんをライドルドへ連れ帰ってしまう可能性があるんじゃないのかな?」

「両親と兄たち、おそらく家臣も山ほど来るから移動も安心ですし、ライドルドへ帰るかも?」


「そんな!」

 フローラが悲鳴をあげた。

「マリ様、知り合ったばかりですのにお別れなのですか!?」

 そっと茉莉花がフローラの手に触れる。

「私は……」

 茉莉花の言葉は続かなかった。

 ドハッ、とフローラが鼻血を噴き出したからだ。美女は鼻血まで美麗なのか、綺麗に弧を描いた鼻血だった。

 フローラは陶然と身悶えしている。

 茉莉花の手の感触が、たとえるならば、人間が初めてハムスターを手に乗せた時に似ていたのだ。

『きゃあぁぁ、か、軽い……小さ……こ、こんなにも小さくて生きていけるの!? ぁぁ、潰さないように。そっと、そっと。いやぁ、動いている……か、可愛すぎる〜〜!』

 だって、フローラは竜だし。

 だって、茉莉花はか弱い人間だし。

 フローラにとって茉莉花は、ハムスターレベルの感覚差であったのである。


 ハァハァ、とフローラの息が荒い。

「我が人生に後悔なし」

 と、フローラが金貨の小山を茉莉花の前に供えた。

「至福でございました。お受け取りくださいませ」

「え? え? フローラさん?」

「私の気持ちでございます。マリ様の小さな手にはそれだけの価値があります」

 とフローラは主張するが、茉莉花は意味がさっぱりわからない。


 もし茉莉花が意味を理解したとしても超ボッタクリに、おろおろと戸惑ってしまったことであろう。

 人気アイドルの握手会とてこれほど超ボッタクらない(たぶん)。

 

「フローラ。マリが困っている」

 ジークが注意するとフローラは、

「では、マリ様を困らせてしまったお詫びをしなければ!」

 と、ササッと昨日の箱を用意した。


「マリ様。この箱にお入りくださいませ。スパイダーシルクの専門店に行きましょう。お洋服を買いましょうね」

 フローラは茉莉花を着飾る気が満々である。

 はっきりいって、お詫びではなくフローラのご褒美になっていた。


「おい! フローラ!」

 ジークが止めようとするが、フローラとアイコンタクトしたギルド長にガシッと腕を掴まれてしまった。ギルド長の方が遥かにレベルが高い。ジークは腕を振り払えなかった。

 耳元でギルド長が囁く。

「人間のことを教えてあげるよ。マリちゃんには聞かせられないこともあるから」

 ジークは視線を尖らせたが、微笑むギルド長に渋々と肩の力を抜いた。

「…………わかりました」


「ジークはライドルド家が来る警備体制の打ち合わせがあるから、マリちゃん、フローラと出かけておいで。フローラはジークよりも強いから大丈夫だよ」

 ギルド長の言葉にジークは苦虫を噛み潰したような顔となった。

「……マリ、悪いね。フローラと買い物をしてくるといい」

 ジークは金貨の袋を茉莉花に渡そうとしたが、フローラが、

「あとで清算しますわ」

 と、やんわり拒否をした。

 フローラ的には茉莉花に貢ぎたいのでノーサンキューなのである。 


 茉莉花は促されるままに箱に入ったが、頭の中は『?』が溢れていた。怪訝に思ったがとりあえず自分は、ギルド長とジークとの相談に邪魔なのだと大人しくフローラに従う。


 箱から茉莉花はちんまりと顔を出し、ギルド長とジークを見つめる。


「うわ、危ないよ! 可愛すぎるよ!」

「うぅ、マリ。離れたくない」

 騒ぐギルド長と嘆くジーク。


「ホホホホホ、行ってまいります」

 上機嫌で茉莉花入りの箱を軽々とフローラが持ちあげる。足取りは軽く。カッと鳴らすハイヒールの音は凛々しい。

「スパイダーシルク専門店の店長はプロですから目測でサイズもピッタリ測れますわ。素敵なお洋服をいっぱい選びましょうね!」

「このワンピースも素敵ですよ?」

「それは木綿ですから。スパイダーシルクは防御力が少しあるのです。汚れもつきにくく破れにくい。何よりも肌触りが最高なのですよ」

「お水を売ったお金で買えますか?」

「ジーク様に清算していただくのでマリ様はご心配なく」

 と、フローラは口では言っているがジークに清算させる気は欠片もなかった。自分のお金で茉莉花を綺麗におめかしさせたいのである。それが強火信者の業なのだ。


 しかし。

 フローラは、ギルドのロビーを横切ることはできなかった。

 盗み聞きしていた冒険者たちに囲まれたのである。

「フローラ、ずるいぞ」

「俺たちもマリちゃんに貢ぎたい」

「独り占め禁止」

 S級は大金持ち、A級とB級は小金持ちである。

「「「「「俺たちもスパイダーシルクの専門店にいっしょに行く! 行きたい!!」」」」」

 

読んでいただき、ありがとうございました。




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作画は、卵野うずら先生です。


お手にとっていただけましたら凄く嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
生まれたばかりの赤ちゃん(首ガクガクな)のような扱いですね 、友人の子は怖くて抱けなかったよワシ
希少小動物扱いのお陰でギャグになってて良いな。 笑うと免疫も上がるし良い小説
話は全く進まないまま、ただただ茉莉花の信者が増えていく…www
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