修行2
諸事情で投稿遅れました。
楽しんでいただければ幸いです
「はい!じゃあまず初級編ってことで、この火球の核を砕いてみようか!」
「……はい?」
指をパチンッと鳴らすと共に、拳大の火球を空中に発生させるテイナ。一方、細かい説明やらなんやらをしてくれると思っていたケンは間抜けな声を漏らす。
「なんかコツとか教えてくれたりとかは……」
「ないよ!実践あるのみ!」
テイナの返事に、「さいですか~」と遠い目をするケン。テキトーに龍想牙を火球に振るうが、当然、核を砕けるはずもなく、刀はするりと火球を通過するのみ。
それからも核がありそうな場所に刀を数回、振るうケン。だが結局、核を砕くことはできず火球はそのまま宙を漂い続ける。
「アリアがあんなに模範的な実演したのに、その程度のこともできないのですか?アリアはケンの残念さにがっかりです」
「頭痛が痛いみたいなこと言うなよ……というか、ちょっと見たくらいで真似できるなら魔法だってあんなに苦労したりしねぇよ」
核にカスルそぶりすらないケンの体たらくを見て、アリアが批判的な視線を向けながらケンに文句を言う。それに言い返すケンを見て苦笑いを零したテイナが口を開く。
「仕方ないなぁ~。じゃあちょっとアドバイスあげるよ!」
「うん、そうしてもらえると凄くありがたい」
出来の悪い我が子を見るような視線を向けるテイナと、それに対して最初から教えろよと言わんばかりにジト目を向けるケン。
「最終試練の時からそうだったけど、ケン君は目に頼り過ぎなんよ。もしかしたら嗅覚や聴覚もかもだけど、とにかく見たり聞いたりした周囲の情報、五感に頼りすぎなんや。さっき言ったように魔法の核は目に見えないし当然、匂いや音も発していない」
「ならどうやって魔法の核を見つけろっていうんだ」
目にも見えないし匂いや音も発してないなら、アリアみたいに特殊な目を持ってない限り、どうやっても魔法の核を見つけることなんて不可能じゃないかという苛立ちを込めて刺々しく言い返すケン。だがテイナはそんなケンの物言いにも笑顔を崩すことなく、言葉を続ける。
「それはね~……魔力の流れを感じればいいんよ!」
「魔力の……流れ?」
「そう!魔力の流れ!これも目に見えたりするものやないけど、核よりもよっぽど感じ取りやすい!結局のところ魔法っていうのは魔力の流れで構成されてるものやからね。そして魔力の流れの中心に魔法の核があるっちゅうわけや」
「な、なるほど」
分かるような、分からないような。そんなテイナのアドバイスに腕を組みながら首を捻るケン。そもそも魔力の流れと言われてもいまいちピンとこない。
そんな、いまいち冴えない表情を浮かべるケンを見て、「仕方ないな」という表情をしながら再び口を開くテイナ。
「自分の中での魔力の流れは感じ取れるやん?それを他人の魔法でやるようなもんや!」
「あー、なるほどね!」
テイナの助言に今度こそピンときたケン。ポンと手を叩く素振りを見せる。
それからようやく実践へと戻る二人。
じっと火球を見つめ、魔力の流れを探ろうとするケン。それを見たテイナが首を横に振る。それにより、目に頼り過ぎと言われたことを思い出してハッとした表情になるケン。少し考えるそぶりを見せた後、ゆっくりと目を閉じ、目の前の火球へと意識を集中させる。
自身の目の前で燃え盛る火の球の熱を感じる。轟々と燃え盛る炎のうねり。さらにその奥へと、意識を研ぎ澄ませていく。自身の感覚を広げるように、空間に自身の五感を広げていく。そして見えてくる魔力の流れ。初めは火球の表面付近を流れる、清流のごとき緩やかで研ぎ澄まされた魔力が、続けてそのさらに奥にある激流のごとき荒れ狂う魔力の流れ、轟々と唸りをあげる咆哮を。そしてついに、その荒れ狂う魔力が収束する、一切の波を感じない、静謐ささえ感じるような凪いだ水面のごとき一点を。
そして次の瞬間、その美しささえ感じる魔力の中心に向かって刀を振るうケン。その刀は吸い込まれるようにその一点を切り裂く。ケンには全く手ごたえを感じられなかったが、確かに魔力の中心を捉えられたようで、刀が通過すると共に火球は吹き消されたように掻き消え、魔力が霧散するのを感じ取る。
「やったね!大成功やよ!」
テイナの喜びの声が上がる。それとともにゆっくりと目を開き、目でもしっかりと火球が消えているのを確認する。
そしてそれを見て、一瞬呆けた表情を浮かべた後、自分が魔法の核を砕けたことを理解したケン。自然とその頬に笑みが刻まれる。だがその笑みも長くは続かない。なぜなら、
「じゃあ次は動く火球の核を砕く練習ね」
テイナがそう言ったから。それにもう一度気を引き締め直し、修行へと戻ろうとするケン。だが、テイナの言葉はそこで終わりではなかった。
「で、それができたら今度は複数の魔法の核を同時に認識する練習!」
「!?」
「その次は広範囲魔法の核を砕く練習!」
「!??」
「で、さらに広範囲魔法の核を連続で砕く練習ね!」
「!???」
どうやらやるべきことはまだまだあるらしい。「修行は続くよどこまでも」と言わんばかりに、矢継ぎ早に喋るテイナとそれにいちいち驚愕の表情を浮かべるケン。だがテイナはそんなケンの様子を見ても笑顔一つ崩さず、新しい火球を生み出すのだった。
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そうしてみっちりと三週間。魔法の核を砕く修行を繰り返したケン。どれだけ傷だらけになろうとも手を緩めない、笑顔のテイナの修行に必死に食らいつき、最後の修行に至っては、できないなら死ねと言わんばかりの最上級魔法の連発を、文字通り死に物狂いで捌いたのだった。
そうしてテイナに合格をもらう程度には魔法の核の破壊が上達したケン。つぎはウルティマを身に着けるべく……アリアとひたすら実戦を繰り返すことになる。
テイナ曰く、ウルティマとはいわゆる気と呼ばれるものらしい。呼吸や目線、ちょっとした動作や脈拍などから相手の動きを読めるようになる上に、五感を通さずとも周囲の状況が手を取るように分かるようになる。
人類に限らず、ほんの一握りの者のみがたどり着ける、戦うものとしての一つの極致であるウルティマ。それを身につけられたものと付けられなかったものでは、天と地ほどの実力差が生じる。
ちなみに上位魔人はこのウルティマを本能的に、生まれた瞬間から自在に扱うことができるらしく、ウルティマを得ていないものは上位魔人と戦うだけ無駄だとか。
まあそんなこんなで現在、テイナが空間の指輪で隔離した空間の一部、広大な森のなかでケンは……アリアに殺されかけていた。
巨大ハンマーを軽々と振り回すアリアの凄まじい身体能力に散々振り回され、これまではなんとか捌いてきたケンだったが、一瞬の不意を突いたアリアの巨大ハンマーがケンの視界を埋め尽くす。
なんとか龍想牙で受け流そうと試みるが間に合わない。そうして巨大ハンマーがケンの頭をトマトのようにぺしゃんこにつぶすかに見えた次の瞬間、ケンの目の前で巨大ハンマーがピタリと動きを止める。
風圧でケンの髪の毛が逆立ち、背後では木々がメキメキと音を立てながら折れる音が響く。そうして一拍後、逆立った髪の毛が元に戻ると共に目をぱちくりさせるケン。
ゆっくりと目の前からハンマーが退かされ、あきれ顔のアリアが視界に映る。その呆れ顔のまま、巨大ハンマーを肩に担いだアリアは一つため息をつくと口を開く。
「はー……ケン様、もう少し真面目にやってください。主との修行の際はもっと鬼気迫るものがあったはずです。どれだけ地に這いつくばっても、どれだけ見苦しくても食らいつく姿はとても好印象でした。それなのにいまは……」
そう言ってすっとケンから視線を外すアリア。それを見て、思わず言い返そうとしていたケンは口をつぐみ、ケンも視線をソッポに向けてしまう。
そうしてしばらく沈黙が両者のあいだを流れる。沈黙を破ったのはアリアだった。
「アリアは主に任されたことをするだけ……意見するなんておこがましいことをしました。とにかく、修行の続きをしましょう」
「………………ああ」
互いに視線を合わせることなくそう言って、修行を再開する両者。アリアの巨大ハンマーとケンの斬撃によりもたらされる破壊に木々が悲鳴を上げ、大地が砕ける。
だが結局、この日も次の日も、また次の日もウルティマを会得することはできず、ただ
時間だけが無為に過ぎていくのだった。
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そんなある日のこと。
「今日はうち、ちょっと出かけてくるからアリアと二人でお留守番よろしくね!」
広間にやってきたテイナが唐突にそう言った。それに、黙々と朝食を食べていたケンが胡乱な眼差しを向ける。口の中のパンを飲み込み、疲れた表情で頷くケン。
「おう、分かった……。どこ行くんだ?」
「ちょっと街にね!いろいろ買いたいものもあるし……教会の動きも気になるからね」
「なるほどね」と頷くケン。高度な技術を要する機神を複数作っていることからも分かる通り、テイナは魔法のエキスパートであると共に科学者であり、様々な実験や研究を日夜繰り返している。おそらくその過程で必要なものや消耗品を買い足したいのだろうと推測するケン。それとともに、ケンの胸中には罪悪感が再びムクムクと膨れ上がる。
それはコドラから受け取った(らしい)神獣の遺産の一つを、ミスミス敵である教会の手に渡してしまったこと。記憶がなかったとはいえ、テイナの話を聞いた後では罪悪感を抱くなという方が無理な話である。
「……本当にすまなかった……」
「もー。そのことについてはいいって言ってるやない!ケン君が責任を感じることはないんやで!……いつまでもウジウジしてないの!ケン君らしくないよ?」
下を向きながら、もう何度目になるかわからない謝罪を口にするケンに、明るくそう答えて笑ってみせるテイナ。ケンのことを責めたりしないと、そう言い切る。だが、それでもケンの表情は晴れない。そんなケンの様子を見て、肩をすくめながらテイナが再び口を開く。
「それに、今回はケン君が『戯曲の剣』を渡しちゃったこととは無関係やし」
「……そうなのか?」
その言葉に、暗く沈んだ目のままだが再び顔をあげるケン。そんなケンに「そーそー」と明るく答えるテイナ。
テイナ曰く、最近教会がやたらと太古の秘宝を集めているらしい。この情報を知った時、真っ先に思い至ったのは神獣の遺産を教会が狙っているのではないかということ。そういった事情もあり、買い出しついでに敵情視察を、ということらしい。
「それ買い出しの『ついで』なんだな」
「それでいいのか神の眷属よ……」という思いを込めてジト目でそう言うケン。そんなケンの皮肉を理解しているのかいないのか、「えへへっ」と笑うテイナ。そんなテイナを見つつケンが再び口を開く。
「というかテイナって、けっこう外の情勢とか知ってるんだな」
「基本的に塔に引きこもってるのに」と言わんばかりにそう言うケンに対して、「当たり前やない!」と、心外だという風に表情をしかめて答えるテイナ。
「情報っていうのはときに生命線にもなるものなんよ!持ってるのと持ってないのでは大違い!やから、うちは情報収集には余念がないんや!」
そう言って腰に手を当て、胸を張って見せる。そんなテイナに「意外だ」と思い、少し目を見張るケン。それに気が付き、少しむくれるテイナだったが、普段の自身のチャランポランさに自覚があるのか、特に言い返しては来ない。代わりにケンの髪をクシャクシャと掻き混ぜながら口を開くと、
「ケン君ももうちょっと情報には敏感になろうね~!せめて社会情勢くらいは把握しとかないと!」
笑顔でそう言った。それに対して、「子ども扱いするな!」と言って手を振り払うケン。軽くテイナを睨みつける。
「あはは!まあ何はともあれ、元気が出たならよかったよ!最近のケン君、なんか思いつめた顔をしてたからね」
そんなケンの反応に可笑しそうに笑いながら、今度はケンの頭をポンポンと叩くテイナ。そんなテイナの様子に、気をつかわせてしまったと理解したケンは再び手を払いのけると共に、照れくさそうにソッポを向く。そして口を開くと、
「……ありがとよ」
ぼそりと感謝を伝えた。そんなケンの様子に、益々楽しそうな笑顔を浮かべるテイナ。
「え、なんてなんて?声が小っちゃくて聞こえなかったからもっかい言ってくれな~い?」
「絶対聞こえてたろ!?もう五月蠅いからさっさと出かけろよ!」
「まーまー、そう言わず。ケン君のちゃんと感謝を伝えられるそーゆーところ、うちは結構いいと思うよ!」
「やっぱ聞こえてるじゃん!?あとおれはテイナのそういうところ、むしろ嫌いだけどな!?」
そんなこんなで相変わらずコントのようなやり取りをするケンとテイナ。ケンは決して認めないだろうが、とても仲が良い。姉と弟に思われてもおかしくないだろう息の合い方である。
「じゃあそろそろ行ってくるね!」
「おーおー、行った行った。そしてもう帰ってくるな」
そう言うと共に浮き上がり、扉の方へと向かうテイナ。ケンが「しっしっ」と手を振って見せる。そんなケンを、扉の取っ手に手を掛けると共にちらりと振り返ったテイナは、
「あと、うちからしたらケン君はまだまだ子供やで~!」
そんな捨て台詞を吐くと共に扉を開け、颯爽と部屋を出る。
「うるせぇよ!」
あとにはケンのツッコミが部屋に虚しく響くのであった。




