↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/40

真実

「さへ、なにはら話しほうか」


 サクサクふわふわなパンを口一杯に頬張りながら口をもごもごと動かすテイナ。


「主、食べながら話すのはあまり行儀が良くありません」

「細はいこほは気にひなーい」


 横に控えるアリアが注意するが、どこ吹く風である。一方、王城にあるような、長机の端に座っているケンも、向かい側の端に座ったテイナを、真面目な話するのにそれでいいんかい!とジト目で見る。


 ちなみにケンたちがいま居るのは落ち着いた雰囲気のある石造の大きな部屋であり、床には赤い絨毯が敷かれている。その部屋の中央には、真白なテーブルクロスのかけられた、これまた重厚な作りの立派な食卓が置かれており、ケンとテイナはその端に座って向かい合わせで食事をとっている状態だ。ちなみにアリアは後で食べるようで、今はテイナの横に控えている。


 テイナの背後の壁には、金色の魔剣を携える精悍な顔つきの男の肖像画がかけられており、全体的に一国の城という威厳の漂う部屋だ。皿の一つ一つにも細かい彫刻が施されていて一目で高級品だとわかる。


 そんな一国の王同士が、食事をしながら会談でもしていそうな威厳のある部屋。だが残念かな。この城の主人は、目の前で子供のように口いっぱいに食べ物を頬張るあれである。それだけでこの部屋の威厳が半減どころか皆無になるのだからやるせない。


 ジト目から打って変わって、ケンの目が、残念なものを見るような目になる。ホント残念だと言わんばかりの哀れみを込めた視線である。


 そしてそのケンの視線に気がついたテイナはというと、流石にそんな目で見られるのは心外だったのか、慌てて口に入っていたパンを飲み込んで、いまさらながら姿勢を整える。


 そんなテイナの様子に「主にいったい何が!?」と、驚愕に目を見開くアリアは一先ず置いておいて、ケンが口を開く。


「とりあえずなんでもいいから話してくれないか?」

「まあまあ、そう急かさないで。なんの事情も知らない人に説明するのはこれが初めてなんやからさぁ」


 そう言って「テヘペロ☆」と舌を出して見せるテイナ。先ほどケンが初めての試練攻略者だと言っていたので、それは本当のことなのだろう。普通の人なら考えを整理するくらいの間は待ってあげる。だがそこはケンクオリティー。


「そんな事情、おれには関係ない」

「冷た⁉︎」

「冷たいですね」


 待つ気はないと言わんばかりにそう言い切った。文句を言うテイナに、そんなこと知らんと椅子にふんぞり返る。


「そもそも悪ふざけをする時間があるなら、その間になにを喋るか考えとけよ」

「それはアリアも同意します」

「!? アリアまで!」


 さらに言い放つケンに、流石にテイナの悪ふざけにカチンときていたのだろうアリアが同意を示す。「まさかアリアが裏切るなんて!」と目を見開くテイナ。「ウチに味方はおらんのか〜!」と涙目になりながらも、しぶしぶ話しだす。


 それは、この世界の真実について。テイナが話した内容をまとめると、以下のようになる。


 この世界、アールゲニアにはかつてバハムートという名の神が存在した。アールゲニアの創造神にして唯一神。その姿は青い炎を纏い、銀色の鱗を持つ青い目の巨大な魚。ただしヒレの代わりに鋭いカギ爪のついた腕を持ち、その頭には青く輝く強靭な角を持っている。

 バハムートは無から有を生み出す、絶対的な力を持っていた。何もない空間から宇宙を生み出し、そして大地と海を創り出した。そして次第にその大地と海には生命が誕生し、そしてその誕生した生命が途方もない時間をかけて進化することによって人や獣人、エルフや動植物など、様々な種族がアールゲニアに共存するようになった。それがいまから三千年以上前の話。


 そしてそんな生命の営みをバハムートは愛おしく思い、ひっそりと見守り続けていた。そのころはすべての種族が互いに尊重し合い、協力して生きていたため大きな争いもなく平和な時が過ぎていた。そのため、バハムートは人々の前に姿を現す必要がなかったのだ。


 だがたとえ姿を見せずとも、その存在に気が付く者は気が付く。テイナもその中の一人だった。さらにテイナに加えて海神、氷の巨人、ヴァンパイアクイーン、魔犬、そしてコドラ。その六人はバハムートの存在に気が付いた者たちの中でも特別で、神の眷属として世界の平和を密かに支える手伝いをしていた。そんな六人の協力もあって、そのころのアールゲニアは種族間の垣根もなく戦争もない、理想郷のような世界であった。


 だがそんな世界にも次第に不穏な空気が漂い始める。最初はなんてことないことだった。バハムートの存在を知らない人族の一部が、ゼブリスクという名の神をアールゲニアの創造神として崇め始めたのだ。あまりにも唐突に出現した宗教とは言え、本当に極少数の者たちの間だけでの流行であったため、当初はだれも気に留めたりはしなかった。どうせすぐ立ち消えると誰もが思っていたのだ。だがその予想に反してゼブリスクを崇拝する白聖教は急速にその勢力を拡大していった。その勢いはまったく衰えることなく、十年もすると人類の半数は白聖教の信者となっていた。なぜ白聖教がここまで急速に勢力を伸ばせたのか。それは白聖教の教えに秘密があった。人族を至高とし、他種族を見下す白聖教の教えは、常に自身より劣った存在を探す人の性にこれ以上なく刺さったのだ。


 そしてこの白聖教の出現により、当然、人族と他種族間には軋轢が生まれ、目に見えて争いは増えていっていた。


 そしてこのことを危険視したバハムートの存在を知るものたちにより、白聖教の調査、及び真実を公表することによる白聖教の解体が実行されようとした。だが、それはバハムート自身により止められることになる。バハムートとしては、人の営みにあまり大きく干渉はしたくなかったのだ。さらに言えば、自身の存在も、その圧倒的な力もあまり知られたくはなかった。知られれば一時は争いを収められたとしても、長期的には悪影響だと考えていたからだ。そして眷属たちも、そのバハムートの意向を汲み、白聖教の動向に注視するにとどめた。だがこの判断は後に、最悪の結果を引き起こすことになる。


 それから約百年。人類の大半が白聖教を信奉するようになり、人族の横暴は過激の一途を辿っていた。特に人族の獣人に対する対応はひどく、殴る蹴るは日常茶飯事。中には誘拐され、奴隷として売られるものも出てきていて、人族と獣人族の間に戦争が起きるのは時間の問題だった。むしろ獣人族はよくここまで忍耐強く我慢してきたと言える。それは一重にバハムートの眷属の一人、魔犬ガウロが荒ぶる獣人たちを諫めていたからに過ぎない。耐えていればそのうち昔のように手を取り合って過ごせるようになると、ガウロのその言葉を信じて、苦しい日々を耐え忍んでいた獣人たち。だが、それからも人族からの獣人族に対する迫害、弾圧は止むことはなく、むしろ酷くなっていった。


 そしてついに、そんな人族の弾圧に怒り狂ったガウロが、人族との戦争を覚悟するに至る。神の眷属の一角が人類に牙をむく。天変地異にも等しいその力により瞬く間にいくつもの国が滅ぼされ、人族は壊滅的な被害を受けた。


 だが、そんなガウロの前に立ちふさがるものが一人。白聖教会の教皇だ。銀髪をなびかせる初老のその男は、人族とは思えない力でガウロに対抗し、致命傷を負いながらもなんとかガウロを退けることに成功する。


 一方、いままで見守るに徹してきたバハムートだったが、ガウロの怒りに任せた人類の蹂躙を見てようやく、自身の存在を公表することに同意した。だが、それはあまりにも遅く、そして最悪のタイミングであった。


 当然、急にアールゲニアの創造神として現れたバハムートを人族は受け入れなかった。それはバハムートの眷属であるガウロが、人類に壊滅的な被害を与えたことも大きく影響した。人族から見れば、創造神を騙る襲撃者の眷属を、白聖教会の教皇がその命をとして撃退したという構図にしか見えない。結局、人族から大きな反感を買うだけで、逆に白聖教会に対する信仰が増すという皮肉な結果に終わった。


 もしかしたらの話でしかないが、このまま時間さえあればバハムートの優しさ溢れる心を人族にも理解してもらえたのかもしれない。


 だが現実はそうはならなかった。


 ガウロの暴走から数日後、突然アールゲニア各地の空にワープゲートが出現する。それは次元と次元、世界と世界を繋げるもの。バハムートはそれを見てすぐに理解した。こんなことをできるのは神に類する者のみ。他世界の神がアールゲニアに攻めてきたのだと。


 そしてそのバハムートの予想は正しかった。他世界から攻めてきた神は多数の銀髪の人間や、獣のような顔と濃い体毛で覆われた生物を引き連れており、アールゲニアの全生命と侵略者による、全面戦争が行われるかに思えた。


 だが、そうはならなかった。


 瀕死の重傷を負い生死の境を彷徨っていた白聖教会の教皇が、攻めてきた他世界の神を、アールゲニアの創造神であるゼブリスク様であると、そう宣言したのだ。真の侵略者であるバハムートから人族を解放するために、人類に力を貸してくれるのだと。


 これにより人族のほぼ全員が、本来は敵であるはずのゼブリスク側についた。そしてバハムート率いる獣人やエルフvsゼブリスク軍と人族という戦いの構図が出来上がってしまった。


 獣人やエルフ、バハムートの六人の眷属たちは必死にゼブリスク軍に対抗した。だが本来は守るべき存在である人族には六人の眷属は力を振るうことはできず、また、銀髪の人間たち……魔人の力は凄まじく、戦況はどんどん不利になっていった。


 そうして追い詰められていったバハムート軍は、最終決戦において多大な犠牲を出しながらも大将同士の一騎討ちという状況にまでなんとか持ち込んだのだった。すなわち神vs神。大地を揺るがし、天をも引き裂くバハムートとゼブリスクのその凄まじい戦いは丸々一週間続いた。


 そして、バハムートは敗れた。


 これによりアールゲニア攻防戦は決着がつき、瞬く間に瓦解したエルフや獣人は辺境へと追いやられ、最後まで奮戦していた六人の眷属も、ゼブリスクの圧倒的な力の前に敗れ去り、散り散りに逃走した。


 こうしてアールゲニアはゼブリスクによって乗っ取られたのだった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 この世界の真実を話し終えたテイナは下唇を強く噛んでいた。テイナの目には、強い復讐心と怨嗟、そして希望を捨てないという強い光が宿っている。このふざけた魔女にも、こんな顔ができるのかと、その瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えるケン。


「あとから分かったことやけど」


 そんなケンの顔を覗き込んだテイナが再び口を開く。


「白聖教会の教皇は上位魔人やった。ただの人間がガウロと互角にやり合えるはずがないから、もしかしたらとは思ってたんやけど、予想通りやった。ゼブリスクはずっと前からこの世界に目をつけていて、ずっと攻める準備をしていたんや。ウチラは……判断を間違えた」


 そう言ってそのまま下を向いて黙り込んでしまうテイナ。赤い長い髪がその表情を覆い

 隠す。そんなテイナの様子になにか言葉を掛けなければと口を開きかけたケン。だが言葉は出てこず、結局口を閉じてしまう。いまのこの話に対しては、どんな慰めも、テイナを気遣う言葉も軽く思えてしまったのだ。それほどまでに今の話は重かった。


 だが次の瞬間、テイナがバッと顔をあげたかと思うと、先ほどまでの陰鬱さを感じさせない明るい声で再び話し出した。


「過去の話はこのくらいにしといて~、今度はこれからのことについて話そうか!」

「これからの話?」


 すでにふざけた態度に戻り、にこりと笑顔を浮かべたテイナにケンが聞き返す。それに大きく頷くテイナ。


「そう!これからの話!実はね~……さっきの話でウチラ眷属は逃走したって言ったけど、ただ逃げだしたわけじゃないんよ」


 そう言いながらテイナが指に着けた指輪を外し、ケンに投げてよこす。空中をクルクル飛んできたその指輪を掴み、しげしげと眺めるケン。青い魔力を帯びたシンプルなデザインのその指輪には、美しさを感じさせる複雑な幾何学模様が入っている。


「それはね~空間の指輪っていうんよ」


「なんだこれ」と顔に疑問を浮かべるケンにテイナが答える。だがそれだけ言われても全く分からない。頭の上にクエッションマークを浮かべながら首を捻る。


「最終試練で戦ったオリオンが瞬間移動したり、空間を切り裂いたりしたことはおぼえてるよね?」


 そんなケンの様子に苦笑しながら話しを続けるテイナ。それにコクリとケンが頷く。


「つまり、その指輪があれば、それと同じことができるんよ」

「それっていうのは空間を引き裂いたり瞬間移動したりってことか?」

「そーそー。訓練すればもっといろいろ応用が利くし、オリオンではあれが限界だったけど、発動時間とか短縮できれば実戦でもかなり強力な武器になるよ!」


 なるほど!と手をポンッと叩くケン。だが、問題がないわけではない。それは、


「でもおれ魔法使えないぞ」

「え?」

「え?」


 そのケンの言葉にキョトンとし、互いに顔を見合わせるケンとテイナ。一瞬の沈黙が部屋を支配するが、すぐに気を取り直したテイナが再び口を開く。


「ま、まあそれはいったん置いておこうか。まだ話さなきゃいけないこともあるからね!」


 そう言いながら若干顔を引きつらせるテイナだったが、平静を装って話し続ける。


「ケンはコドラとは顔馴染みやんな?」

「ああ、まあ顔馴染みっていうか、親みたいな存在だと俺は思ってる」

「なるほどなるほど~……あのコドラがずいぶんと丸くなったもんやね~……ちなみにいまはどこにいるか分かる?」


 感慨深そうに腕を組んで頷いていたテイナが、ニコニコ笑いながらケンに尋ねる。それにケンは顔を暗くすると、重い雰囲気で声を絞り出すように答える。


「コドラは……死んだよ……おれが殺した」


 それに表情を驚愕に染めるテイナ。一瞬動揺したように視線を彷徨わせたあと目を閉じ、しばし瞑目すると、


「そっか……」


 訳を聞いてくるでもケンを責めるでもなく、それだけ言って胸に手を当てた。きっとコドラの冥福を祈っているのだろう。


 しばらくケンとテイナの間に沈黙が流れた。そしてしばらくして手を下ろし、目を開けたテイナがケンに問いかける。


「コドラがケンを大切に思っているのは知っているし、いろいろ根掘り葉掘り聞くような野暮なことはしないから安心して」


 そう言ってテイナはケンに優しい笑みを向ける。その表情には見覚えがあった。コドラがケンを見つめるときによく浮かべていたあの優しい笑顔。人の営みが愛しいと言っていたときの、コドラのあの表情だ。久しく見たその表情にケンの胸の奥が熱くなる。もう二度と見れないと思っていた、優しさと愛に満ちたその笑顔を放心したように見つめるケン。その頬を一筋の涙がつたっていく。


「それよりも気になるのは戯曲の剣についてなんやけど……」


 そうしてテイナの笑顔に見惚れていたケンだったが、テイナの言葉に我に返ると、慌てて頬をぬぐってから疑問顔になって問い返す。


「戯曲の剣?」

「そう。コドラが持っていた神獣の遺産。波みたいにゆらゆらと揺れる赤い魔力を纏った剣なんやけど、知らへん?」


 困り顔のテイナにそう言われ記憶を辿るケン。すぐにあの赤い魔剣の存在を思い出す。


「あー!あれか!あの羽みたいに軽い赤い魔剣」

「それそれ!いまどこにあるん?」


 ケンがそれを知っていることに安堵した表情を浮かべるテイナ。だが続くケンの返答にサッと顔を青ざめさせる。


「人に預けちゃったけど?」

「え?」

「え?」


 再びキョトンとした表情で顔を見合わせる二人。引きつり笑いを浮かべたテイナが聞き間違いかともう一度確認する。


「人に預けたって聞こえたんやけど、気のせいやよね……?」


 そんなテイナの様子に、自分なにか大変なことをしでかしたのではないかと若干視線を彷徨わせるケン。誤魔化そうかと邪念が鎌首をもたげるが、誤魔化したところで意味ないし、やってしまったことは仕方ないと開き直って普通に答える。


「いや、人に預けたって言った」

「アホォォォォ! いつ!? どこで!? だれに渡したのかいますぐ吐きなさい!!!!」


 席から浮かび上がり、一瞬でケンの前まで迫って来たテイナがケンの肩を掴んで猛烈な勢いで揺さぶる。それにガクガクと首を前後に揺らしながらケンが口を開く。


「話すから。話すからとりあえず揺するのやめて~」


 頭に血が上っていたと反省しつつ、ケンの肩から手を放して深呼吸をし、心を落ち着かせるテイナ。そうしてしばらく深呼吸を繰り返した後、口を開く。


「いいわ。話して」


 そうしてケンは島の砂浜に剣が刺さっていたこと、金髪の冒険者にそれを半ば奪われる形で渡してしまったことを話した。そしてそれを聞き終わったテイナはというと、


「はあ~……最悪やわ……よりにもよって神獣の教会の手に渡るとか……」


 頭を抱えて蹲っていた。その目からは輝きが消えており、かなりのショックを受けたことが見て取れる。


「あの、なんかごめん」

「……いや……いいよ……なにも聞かされてなかったなら仕方がない……」


 そんなテイナの様子に謝罪の言葉を口にするケン。テイナはその謝罪を受け取りつつ、まったく仕方がないと思っていない表情で、仕方がないと口にする。


「その……そんなに大事なものだった?……戯曲の剣てのは?」

「…………うん……」


 めちゃくちゃ返事が遅い。そのうえ返事に全く覇気が感じられない。これはちょっと不味いな~と思いつつもう一度、謝ろうと口を開きかけたところで、アリアがケンに話しかける。


「主が相当参っているようなのでここはアリアから説明します。無知でバカでどうしようもないほどクズなケンは心して聞くように」

「お、おう……なんかほんとすまん」


 流れるように暴言を吐くアリアに頬を引き攣らせつつ、もう一度テイナに謝罪したケンにアリアが説明を始める。


「先ほど主は、バハムート様はゼブリスクに敗れたと言いました。これは事実です。ですがバハムート様は死の直前、せめて後世に希望を残そうと、その御力を六つの武器に封じられました。それが神獣の遺産と呼ばれるものであり、主やコドラ様たち六人の眷属それぞれが一つずつ管理しています」

「もしかしてこれもその一つか?」


 そう言いながら先ほど渡された青い指輪を摘むケン。それにアリアが大きく頷く。


「肯定です。そして戯曲の剣もその一つでした。悪神ゼブリスクに対抗するには六つの神獣の遺産を揃えることが前提条件となります。そして神獣の遺産を託すに値する者かどうかを見極めるために六人の眷属がそれぞれ試練を用意していたわけなのですが……まさかそのうちの一つが敵である白聖教会の手に渡るとは驚きを通り越して呆れます。ケンは自身の愚かさを悔い改めなさい」

「はいっ! そうしまっす!」


 話の途中から滝のように冷や汗を浮かべていたケンが、額を床に擦りつけて土下座する。実際、これ以上なくやってしまった感が満載である。申し訳なさ過ぎて、コドラやテイナに二度と顔向けできないレベルである。


「まあやっちゃたことは仕方ない仕方ない!」


 いつのまにか復活していたテイナがそう言いながら土下座状態のケンの背中をポンポンと叩く。バッと身体をテイナの方に向け、ケンが再び土下座で謝る。


「ほんとすんません!必ず取り返して見せます!」

「まあまあ、顔上げなって!とりあえずケンにはやってもらわなあかんことがあるから、その件についてはまた今度ね!」


 そう言われケンが顔をあげると、そこには笑顔のまま仁王立ちしたテイナの姿。その笑顔の裏に何か恐ろしいものを感じて身震いするケン。おずおずと尋ねる。


「そのやってもらわなあかんことっていうのは……」

「ふっふっふっ……そ・れ・は~……」


 気味の悪い笑い声をあげたあと、そう言いながら仮面のように張り付いた笑顔で、勿体ぶるように間を置くテイナ。そしてケンと目を合わせたまま口を開くと、


「勉強だよ!」


 目の横で、片手を横ピースしながらそう言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] そもそも主人公はコドラに魔女に会ったら渡してくれってちゃんと託されてたよね? なんで剣のとこだけ忘れてるんだ。暴走して記憶が曖昧〜とかだったらその他諸々色々忘れてるはずなのに、剣のと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。