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魔女の塔4

「ふー…だいぶ攻撃食らっちまったな…」


 そういいながら、放り出された荷物から回復薬を取り出し飲み干すケン。ケンの体を白い光が包み、見る見るうちに身体にできた切り傷が治っていく。

 それを確認してから、ゆっくりと立ち上がろうとするケン。


「痛っつ…!」


 だがすぐに身体の痛みに顔をしかめる。それもそのはず、アリクイロボットの攻撃により、ケンの肋は数本折れているのだから。ケンがジャンカ王国で買ってきた(買ってもらった)回復薬は軽い切り傷や打撲にはよく効くが、深い傷や骨折に対してはせいぜい痛み止め程度にしかならないものであった。そもそもセバスタンやクロードたちは、ケンが魔女の塔に挑戦するとは思っていなかったので、仕方がないと言えば仕方がないが、準備不足であった感は否めない。


 だからせめて、身体がある程度回復するまで攻略を中断したいと考えるケン。しかし、そんなにゆっくりとしている時間もない。なぜなら、


「食料がなー…もってあと3日くらいか?」


 そう、ここでも準備不足の弊害が。ジャンカ王国を出る際に用意した(用意してもらった)乾パンや水は約2週間分。砂漠を横断し、つぎの中継都市に着くのに4日から5日ほどかかることと、さらにケンが寄り道することも考慮して、余裕をもって用意した食料や水。だがそんな食料や水もすでに底をつきかけていた。

 魔法を使えば水はどうにかなるかもしれないが、だが食料の方はどうしようもない。周りは岩や鉱物ばかり。なぜか魔物もいないので、樹海や峡谷の時のように魔物で飢えをしのぐこともできない。


 なので、早急にここから脱出する必要があると考えていたケンだったが、当然のごとく出口はない。クリアorデスの二択を迫られている状況だ。

 そんな状況に追い打ちをかけるような負傷。それも絶対安静が必要なほどの重症。


 だがそんな最悪な状況でも、ケンは不屈の精神と、規格外のドラゴンスレイヤーの力を使ってその場から立ち上がると、アリクイロボットを倒すことによって現れた、新しい扉へと歩を進める。


「キュイー…」


 そんな、明らかに無理をしているケンの様子を見て、サラがケンの胸元から、心配の声をあげる。そんなサラを見下ろしたケンはにこりと笑うと、


「大丈夫だサラ。おれは何があっても絶対生き残ってみせる」


 サラを安心させるように、そう言った。そんなケンにやはり少し不安そうな目を向けるサラだったが、すぐに肝の座った光を目に宿すと、「なにがあろうとわたしはケンと運命を共にする」といった目でケンを見返した。


 それにニヤリと笑みを浮かべたケンは、一言、


「行くぞ!」


 そう言って扉をあけ放つ。それにサラが「キュイ!」と気迫のこもった返事をした。


 そうして開け放たれた扉だったが、先ほどの扉とは打って変わって、静寂でケンたちを迎え入れた。警戒心を解かず次の部屋へ入るケン。その背後で入ってきた扉がバタンと閉じる。

 そこは、先ほどと同じような円柱形の空間だった。緑色に光る鉱石の場所が違うことを除けば、先ほどの部屋と全く同じ部屋。


 そうして、部屋の中を警戒しながら進むケン。そしてケンが部屋の真ん中付近に差し掛かった時だった。ヒュッというかすかな風切り音と共に、ケンの背中に激痛が走る。


「ぐっ!?」


 衝撃で吹き飛ばされ、呻き声をあげながら転がるケン。何が起こったのかとケンが背中を確認すると、そこには、カギ爪で引き裂かれたような三本の傷ができており、鮮血が流れ出ていた。


 何者かに襲われたことを瞬時に理解し、刀を抜いて臨戦態勢に入るケン。そして自分が吹き飛ばされる前にいた場所に視線を向けたケンは見た。


 ケンの血を浴びて、その輪郭を現した何者かの姿を。その血もすぐに虚空に消えしまったためその姿が見えたのはホンの一瞬だったが、身長2メートルくらいの、四足歩行の生物のように見えた。


 そしてその次の瞬間、その何者かがケンめがけて凄まじい速さで襲い掛かる風切り音を聞き、刀を身体の前にたてるケン。そして金属同士がぶつかる音と、ドンッ!と空気が爆発するような音と共に、ドラゴンスレイヤーのケンにも負けずとも劣らないパワーがケンを襲う。


「う…うらぁぁぁっぁぁぁ!!!」


 歯を食いしばってその攻撃を受けきったケンは、すぐに足と腕に力を籠めると目の前の何物かを押し返す。そうして相手を下がらせて、間合いを取るケン。相手が透明化していることを理解する。


 四足歩行する、鋭いカギ爪を持った透明な何者か。先ほどの手応えからして、恐らくこれもロボットなのだろうと推測する。


 ただでさえ連戦で疲弊しているうえに、透明化とか限りなく厄介な敵であり、状況はとてつもなく悪い。だが、それでもケンの闘争心は少しも衰えることなく、


「面白ぇ!」


 不敵な笑みを浮かべながらそう呟くと、その正体不明の何者かに躍りかかった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「キュイ!キュイ!」


 パチパチと、小さな手に頬を叩かれる感覚。薄っすらと目を開けると、まっ平らに整備された岩肌の天井が目に飛び込んでくる。ゆっくりと身体を起こすケン。


「う…ぐっ…」


 そして身体中の痛みに呻き声をあげる。4つ目の扉攻略を開始してから二日半。戦いに次ぐ戦いにより、ケンの身体は満身創痍を通り越して、もはや生きているのが不思議なほどにズタボロだった。


 背中には三本の深い切り傷、肋骨と左腕は折れていて、応急処置として、蟻地獄魔物のハサミで即席のギプスを左腕につけている。さらに、左肩から左胸にかけては酷い火傷を負い、右脇腹は食いちぎられたかのように抉れている。他にも大小様々な傷を負っていて、とても直視できないほど痛々しい姿だ。


 これらの傷はすべてロボット軍団との戦いによって負った傷だ。例えば、共有した視界により巧みな連携を取って襲い掛かってくる十体の犬型ロボットや、超高温の炎弾を放ってくる大量のコウモリ軍団、麻痺や眠り粉を散布してくる蛾のようなロボットなど、本当にバラエティ豊かなロボットたちとの激闘を潜り抜けてきたのだった。ちなみに透明な何者かの正体は熊のような姿をしたロボットだった。


 そんなこんなで十種類のロボットを倒したケン。その代わりと言っては何だが、もう食料と水はほとんど残ってない。それだけじゃなく回復薬まで使い切ってしまう始末。


 だが不幸中の幸いと言うべきか、回復薬の重ね掛けにより血は止まっており、アドレナリンが大量に分泌されて痛みはほとんどない。それどころか意識が冴えわたっているような気さえする。


 そうして立ち上がったケンは、巨大蛇型ロボットが作った数々の穴を避けながら新しく出現した扉へと向かう。


 そして扉の前に立ったケンは、その扉を開くと同時に脇に飛びのく。一撃でも食らえば二度と立ち上がれないような気がするので、最大限の警戒をしているのだ。だが扉の向こうからは特に何も出てこず、物音一つしない。


 そうして再び扉に向かったケンはと言うと…扉の向こうの光景を見て思わずズッコケた。


「なんでやねん」


 思わずへんてこな言葉でツッコミを入れたケン。それもしかたがない。なぜなら、そこは例の見慣れた、立方体の部屋だったのだから。怒りを通り越して若干の呆れを抱きながら扉をくぐると、背後でバタンと扉が閉まる。そして振り返ってみると、案の定、そこには「おかえりなさい」の文字。

 もはや怒る気にもなれないケンは、これからどうしたものかと思考を巡らせる。だがその必要はなかった。なぜなら、いきなり部屋の床がパカッと真っ二つに割れたからだ。


 一瞬キョトンとした表情を浮かべるケン。そして次の瞬間、


「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…………」

「キュイィィィィィィィ…………」


 一人と一匹は悲鳴を上げながら穴の中に吸い込まれていくのだった。





 ケンたちが落ちた穴は最初こそ垂直だったが、次第に傾いていき、しまいには滑り台のようになっていた。だが決して安心はできないので警戒は怠らない。仰向けでシューっと滑るという間抜けな格好で、五感を研ぎ澄ませて周囲の様子を探る。が、いまのところは怪しい気配は感じない。


 そうこうしているうちに傾きがなくなり、まっ平らの地に背中が付いたところで、かなりのスピードで滑っていたにもかかわらず、まるでそこに壁があるかのようにケンの勢いが止まる。全く衝撃がなかったにもかかわらず突然、自分の動きが止まったことをいぶかしみながらも起き上がるケン。


 そんなケンの目に飛び込んできたのは全面鏡張りの通路。そして背後では壁が降りる「ガシャン」という音が響くが、もはや慣れっこなので軽く無視する。


 鏡以外何もない50メートルほどの通路を睨むケン。碌でもないことが起きるのだろうと予想しつつ、どんなギミックが隠されているのか血眼になって観察する。だが何が起きるのか全く予想できない。


 そうこうしているうちに、


 ガコンッ


 あの悪夢のような音が響き渡る。それと同時に通路の奥がピカッと光ったかと思うと、一本のレーザーがケンの頬をかすめた。


 焼かれたような頬の痛みを意識しつつ、攻撃をまったく目で追えなかったことに舌打ちをするケン。なにが起きたのかほとんど理解できていないが、本能が鳴らす警鐘に従い、その場を飛び退く。


 そしてケンの予想通り、レーザーが数舜前までケンがいた場所を襲うのを認識するが、だがケンの予想外のことが一つ。それはレーザーが鏡で反射され、ケンを追尾したこと。慌てて顔を逸らしてそのレーザーを避ける。


 そうして顔を逸らしたケンは見た。自身の背後に降りた壁がただの壁ではなかったことを。そう、背後に降ってきたのはなんと通路と同様の鏡だったのだ。そしてケンが躱したレーザーはさらに背後の鏡で反射し、ケンを襲う。それを、身体を捻じって紙一重で躱すケン。だが、本当の悪夢はここからだった。


 ケンがレーザーを躱した次の瞬間には、通路の奥が何度も光り、幾本もの死のレーザーがケンを襲った。


「!!?」


 それをケンはひたすら躱し、躱しきれないものは刀で反射していなすが、それ以外の一切の余裕がなく、通路を進むことができない。


 そうこうしている間にどんどんとケンの身体の動きが鈍っていき、だんだんとケンの身体をレーザーが掠るようになっていく。

 このままでは押し切られると感じ始めたとき、ケンはあることに気が付く。通路の奥、レーザーが飛び出してくるように見えるところに、いくつもの奇妙な機械が取り付けられているのだ。そしてさらに観察していると、それは最初にケンを追いかけてきたような、金属の筒のようなもので、その先端部分が光ると共にレーザーが射出されることに気が付く。


 あれを破壊できれば…ケンはそう考えるが、50メートルも離れている場所に攻撃する手段がないケン。魔法が使えれば…と歯がゆい思いをする。


 だがすぐに、できないことを考えても仕方がない、と思い直し、どうすればあれらに攻撃を届かせられるかと思考を巡らせる。


 刀を投げるのは…なしだな…一つは破壊できてもそれ以外が破壊できなくては意味がない。それに投げる動作は隙が大きすぎる。かといって周りに蹴ることができる物もない。


 万事休すかと思われた次の瞬間、画期的なアイディアがケンの脳裏に閃く。そして、それを実行すべく、刀の角度を調節しながらレーザーを迎え撃ち、反射させる。


 そうしてケンの刀によって反射されたレーザーは、ケンの狙い通り、寸分たがわず射出口の一つにぶつかり、それを破壊した。


「よしっ!」


 ケンは内心ガッツポーズをしながら、次々とレーザーを反射し、射出口を破壊していった。


 そして数分後、すべての射出口を破壊したケンは、意気揚々と鏡の通路を歩く。そして一番奥まで辿り着いたケンは、行き止まりに行き詰った。


「うーん…扉もなんもねーな」

「キュイ!」


 そんな扉がない状況に若干の既視感を覚えたケンとサラは、ものは試しと言わんばかりに通路の一番奥の壁に、サラの炎弾を浴びせるが…


「キュイ…」

「ドンマイ」


 結局何も起こらなかった。それに落ち込むサラとそれに明るく声を掛けるケン。見た目が完全にゾンビなので、とてつもなく恐ろしいのだが…まあそれは置いておこう。


 そんなこんなで、どうしたものかと闇雲に壁をぺたぺた触っていたケン。と、右手側の通路を触った拍子に、カチッという音が響き、それとともに、ケンの触った部分の壁が手のひらサイズに凹む。


 すると、床と壁がクルリと180度回転し、それに巻き込まれたケンは別の空間へと放り出された。いわゆる、日本の忍者屋敷にあるような隠し扉というやつだ。


 そうしてケンが見たのは、直径200メートルはあろうかというほど広大な、半球形の空間だった。だがいままでの部屋や通路とは違い、まったく整備されておらず、あちこちに巨大な岩やでっぱり、凹凸が存在し、まさに自然そのものといった様子だ。


 だが何よりも目を引くのは、部屋の中央、その天井付近にいる黒色のロボットだ。遠目からでもその異様さをハッキリと認識できるそのロボットは、六本腕の人型だ。だがいまは動いていない様子で、体育座りのように細い六本の腕で膝を抱えて、顔の半分ほどもありそうな大きな一つ目は閉じられている。眠っているのだろうか?


「やあやあ。よくぞここまで辿り着いたね」


 そもそもロボットに睡眠とかいる?とか思いながらその六本腕ロボットを観察していたケンに突然、話しかける陽気そうな女性の声。とてもフレンドリーだが、どこか訛りを感じる話し方だ。


 そんな突然聞こえてきた声に警戒心をあらわにするケン。


「大丈夫だよ~そんなに警戒しなくても。いまは何もするつもりないし」


 そう言ってカラカラと笑う声。その声には一切の敵意が感じられなかったため、ケンも少し警戒を緩め、会話に応じる。


「おまえが魔女なのか?」

「お!あったり~。バカそうなのに意外と鋭いね!」


 バカは余計だとツッコミつつ、天井付近のロボットに視線を向ける。


「あ、でもそのロボットはうちやないよ。やっぱアホやね」

「そ、そんなこと、わ、わかってるし!」


 てっきり宙に浮いているロボットが魔女であると思っていたケン。魔女の言葉に慌てて言い返すが、その言葉は咬み咬みだし、目は宙を彷徨っている。


「あははは!やっぱ君おもろいわ~!」


 本当に楽しそうな声が広大な空間に響く。それにムッとしながら頬を膨らませるケン。そんなケンの様子に、ますます可笑しそうにする魔女だったが、続く言葉にケンが目ざとく反応する。


「コドラが気に掛けるわけやわ~」

「!?…コドラを知っているのか!?」


 ハッとした表情で問いかけるケンだったが、魔女はそれには答えず、ただフフフと笑うだけだった。


「おい!どういう…」

「それよりも~」


 さらに問いただそうとするケンだったが、そんなケンを遮り、魔女が先ほどとは打って変わってまじめな声でケンに話しかける。


「君には少し確認しときたいことがあるの」

「確…認?」

「そう。このまま試練を続けるかどうかについてね」

「そんなもん続けるに…」

「まあまあ、落ち着きなって。ウチは医学も多少かじってるんだけどね、君の怪我は早く治療しないと命にかかわるものだよ。さらに言えば、これからの最終試練の相手は、いままで君が戦ってきたどの機神よりも強い。まず間違いなく君…死ぬよ?」


 その魔女の語りかけにより、ケンの中でムクムクと鎌首を持ち上げる圧倒的な存在。


 死


 その言葉の重みがズシリとケンの心にのしかかる。生あるすべての生物が避けようのないものであると共に、全生物の終着点。

 ケンにとって圧倒的であり、絶対的な存在で在ったコドラですら避けられなかった宿命。そして、その死を目の当たりにした、いまだこそ言える。死ぬのは怖い。当然、自分の死に対してもだが、なによりも、自分の大切な人たちが死ぬのが怖い。コドラが死んだときのあの喪失感と虚無感。あんなのはもう二度と感じたくないし、だれかほかの人に感じてほしくもない。だから死にたくはない。だけど、


「やから~、もし君が望むなら最終試練はなしってことで、君を塔から出してあげるよ」

「いや、いい」


 魔女の申し出に即答するケン。それに一瞬、黙り込む魔女だったがすぐにケンに問いかける。


「一応理由を聞いてもいいかな?」

「明確な理由は…ない。当然、死ぬのは怖いし、死にたくはない。けど…ここで逃げたら、自分の中の大切な何かがグチャグチャに壊れるような気がして、最善を尽くすっていう自分の意思に、甘えが生じるような気がして…うまくは言えないけど、おれには死ぬよりもそっちの方が怖い。だからおれは、死んでもこの最終試練を突破してみせる」

「そっかそっか~…」


 必ず試練をクリアすると宣言したケンにしみじみと呟く魔女。


「すごいね~。そんなに若いのに、確固とした意志があるんだね!なら分かった!君の意思を尊重して今回は試練を受けさせてあげよう。けどクリアした暁にはお説教やからね?死ぬんやないよ!ボーイ!」

「意味わかんねぇよ。クリアしたらお説教って!」


 そうケンがツッコむのと同時に、天井に浮いていたロボット改め機神が目を開き、赤い一つ目がケンを見下ろした。


「さあ、うちの最高傑作!機神オリオンを見事倒して見せよ!」


 魔女がノリノリでアナウンスをする。

 そんな魔女の声は無視して、オリオンの目をきっちりと睨み返したケンは不敵な笑みを浮かべると、刀を正面に構える。そして、


「上等だ!!!」


 そう、気合のこもった声をあげた。


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