↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/40

谷底の冒険

ピチョン…ピチョン…


「うっ……」


 水の滴る音で意識が覚醒する。 

 硬くヒンヤリとした地面の感触。薄っすらと目を開けると、ほとんど光はない。しかし不思議と周囲の様子はハッキリと認識できる。おそらくドラゴンスレイヤーになったおかげだろう。

 痛む体に鞭打って起き上がり、周囲を確認すると、目に飛び込んできたのは大小様々な岩と、遙か上まで続く高い岸壁。まるで峡谷のような場所…

 というかまんま峡谷だった。


 上を見上げると、遙か上空に薄っすらと細い光の筋が見える。


 自分が濁流に流されて、この場所に落ちたのだろうことに気づくのに然程時間はかからなかった。


「あそこから落ちたのかぁ…」と頭上を眺めながら、改めて古竜の頑丈さに感心し、感謝するケン。ドラゴンスレイヤーになっていなければ、落ちた時点で余裕で即死だったろう。その一方で、ドラゴンスレイヤーになっていなかったなら、こんな目には合っていないだろうことにはもちろん気づかない。

 なんてったってバカだから!!!


「さて、どーすっかなぁ」


 かなり危機的状況なのにも関わらず、緊張感の欠片もなく独り言を零すケン。


「とにかく進んでみるしかないか!!!」


  しばらく考え込む素振りを見せた後、そう言ってとりあえず歩き出してみちゃったりする。





 ………が、


「岩以外…なんもねぇ…」


 もうかなりの距離を歩いているケン。歩き始めたときは真上にあった太陽がそろそろ沈み始めるころで、最初は見えていた上空の光の筋はもはや全く見えなくなっていた。

 にも関わらず、ここまで生き物どころか雑草一本すら見当たらない。見渡す限り岩!岩!岩!

 ドラゴンスレイヤーの力のおかげで普通の人では何も見えないくらいの暗さでも真昼のようにしっかり見えるし、疲労も全く感じられないのであまり問題はないのだが…それでもそろそろ、いつまでも変化のない殺風景な景色に辟易としてくる。


 そんなことを思いながらさらに歩き続けていると、


「ん?」


 少し向こうに薄っすらと人影が見えた。この峡谷で初めて見た岩以外のもの。それも人。どんよりとしていたケンの顔に生気が戻り、喜びに目を輝かせながらその人影に向かって一直線に駆け出す。


「すいませーん、ちょっと道に迷っちゃって! どうしたらここから出られますか〜?」


 自分の存在に気付いてもらおうと、手を振りながら大きな声でそう叫ぶ。声に反応したのか、少しハッキリとしてきた目の前の人影がケンを振り返る。

 そこでふと思うケン。

 こんなところであの人は何をしているのだろうか?


 ところで、あの人ちょっと身長高いなぁ〜…いやだいぶ高いな〜…三メートルくらい?

 あ!足が四つに分かれて馬みたいに!

 あ!今度は左右の腕が三つずつ、合わせて六つに分かれた!


 ………あ、これ人じゃないわ……


 人影の正体はどう見ても魔物だった。それに気が付かないとは、とんだマヌケである。


 そんなこと言っても仕方ないので、急ブレーキをかけて立ち止まるケン。姿がはっきりした目の前の魔物を観察する。


 太い毛におおわれた四本足と、左右三本ずつ、合わせて六本の、蜘蛛の足のような腕を持つ三メートルほどの魔物。首から上には、額に三本の角を持つ骸骨。そして胴体は金属のような光沢のある皮膚で覆われていて、見るからに堅そうだ。

 見たことも聞いたこともない未知の魔物。

 あえて例えるならケンタウロスの、腕六本バージョンといったところか?


 じっくりとそいつを観察したあと、ワンチャン気性の穏やかな魔物だったりしない? と、小さな希望に縋るケン。しかしそんな願いが叶うはずもなく、


「ヴオォォォォォォォ!!!!!!!!!」


 低く、不快な咆哮が空気を震わせえる。見た目通りの気性の荒い魔物のようだ。


 さらにその咆哮を合図に、周囲の岩陰から人くらいのサイズの魔物が飛び出してくる。六本腕の骸骨だ。数は八、九、十…十一体。ケンタロウもどきをリーダーとする魔物の群れなのだろう。


 正直戦いたくないと思い、相手を刺激しないようジリジリと後ずさるケン。


 しかし次の瞬間、


「!?」


 ケンタウロスもどきが驚異の機動力を見せ、目にも留まらぬ速さでケンの右横に出現。三本の右腕を大きく振りかぶり、ケンめがけて振り下ろす。


 近くで見ると、その腕には無数の小さな刃が生えており、まともに食らえばただでは済まないだろうことは容易に想像できる。咄嗟に前に転がり、回避をするケン。三本の腕が、先ほどまでケンがいた空間を切り裂く。それを見たケンの口から「ひぇっ…」と小さな悲鳴が漏れる。


「「「「「キィィィッ!!!」」」」」


 地面を転がったケンを、小型のガイコツ魔物たちが追撃する。慌てて立ち上がり、漆黒の刀を抜くケン。そのまま魔物たちの攻撃を往なし、カウンターでその内の一体を両断する。その時、ケンの頭上に差す黒い影。頭上を見上げ、目を見開くケン。次の瞬間、上空からケンタロウもどきがケン目掛けて襲い掛かった。


 荒ぶる六本の腕が唸りを上げる。しかしケンは冷静だった。次々と迫りくる腕の隙間を縫うように躱し、おまけでケンタロウもどきの胴に一撃を入れる。

 しかし、


 キインッ!!!!


 金属同士がぶつかるような音が響き、弾かれるケンの刀。どうやら見た目通り、魔物の皮膚は相当な硬度を持っているらしい。


「チッ、やっぱり硬いなっ」


 胴を両断するのは困難だろうと、即座に判断するケン。ならば…と視線を魔物の頭に向ける。


「だが首から上はずいぶんと脆そうだなっ!!!!」


 そう叫びながら跳躍し、魔物の首を切り落とそうと一気に間合いを詰める。


 刀を振り上げるケン。しかし、突然魔物の口が「ガパッ!」と開かれたかと思うと、ケンの顔めがけて吐き出される紫色の液体。


「!?」


 咄嗟に上体を逸らせてそれを回避するケン。しかし、中途半端に空中で態勢を崩されてしまい、次の攻撃までは避けきれない。唸りを上げて迫る三本の左腕を諸に食らい、吹き飛ばされる。崖に背中から叩きつけられるケン。轟音と共に、岸壁にケンを中心とした放射状の亀裂が走る。


「ガハッ!?」


 あまりの衝撃に肺の中の空気を一気に吐き出さされ、うめき声を上げるケン。それでも歯を食いしばりながら、ふらりと立ち上がる。けして相手から視線を逸らさず、刀を構え直す。


 咄嗟に刀でガードしたことが幸いし、たいした傷は負っていない。ちらりと魔物が吐いた液体が付着したところを見ると、そこにあった岩が白煙を上げながら溶けており、今ではほとんど形を残していなかった。相当な強酸なのだろうと察するケン。

 迂闊に首を斬ることもできず、胴も簡単には傷を与えられない。想像以上の強敵だった。しかし最初、逃げ腰だったケンはもういない。その目は好戦的にギラギラと輝き、口元には不敵な笑みが浮かべられている。


 ケンが弱った隙を狙い襲い掛かってきたガイコツ魔物三体。そいつらを一刀両断。返り討ちにするケン。


「グルルルルルル……」


 子分をやられ、低く唸りながらケンを睨みつけるケンタロウもどき。しかしその実、ケンの気迫に圧倒され、一歩、二歩と無意識のうちに後ずさっていっていく。それは周囲のガイコツたちも一緒。


「つぎはこっちから行くぞ」


 そんな魔物たちの様子を見ながら呟くと、ケンは一気に魔物との間合いを詰める…と見せかけてケンタロウもどきの眼前で飛びあがり、頭上の岩肌を駆け抜ける。さらに目にも留まらぬ速さで縦横無尽に壁を斬りつけるケン。すると、轟音と共に大量の落石が起き始めた。


「キッ!? キィィ!!!」


 頭上から降り注ぐ落石に悲鳴を上げながら逃げ惑うガイコツたち。そのうちの何体かは、落石に巻き込まれて下敷きに。


 一方、ケンタロウもどきは頭上から降り注ぐ落石に驚きながらも、それらを軽々と避けていく。しかし次の瞬間、巨大な岩があり得ないほどの速度でケンタウロスもどきを襲う。ケンが蹴り飛ばしたものだ。


「ヴォォォォォ!!!!???」


 その岩が直撃したことにより、苦悶の声を上げるケンタロウもどき。


 そして次の瞬間、態勢の崩れた一瞬のスキをついてケンが斬り込む。慌てて両腕をクロスさせ、ガードするケンタウロスもどき。


 ギイイィィィンン!!!


 金属同士がぶつかり合うような甲高い音が峡谷に響き渡る。ケンは、受けられたとみるやすぐに間合いを取って、再び岩を飛ばし始める。


 なんとかケンの攻撃を防ぎ、態勢を立て直したケンタロウもどきは六本の腕を振り回して、次々と飛んでくる岩を破壊していく。しかし四方八方、不規則に飛んでくる巨岩に、しだいにケンタロウもどきは対応しきれなくなっていく。


 岩を砕いた反動で、ふらりと身体を傾かせえるケンタロウもどき。その一瞬の隙をつき、弾丸の如く飛来した巨岩がケンタロウもどきの顔面めがけて襲い掛かる。それに気づき、ハッとしたような表情を見せる魔物。もうそれはすぐ目の前。ぶつかれば大した傷は負わないにしても、大きな隙を生むことは明らか。だから魔物は、その岩めがけて酸を吐き出した。白煙を上げながら、みるみるうちに溶けていく岩。それを確認して、魔物が他の岩へと視線を戻そうとした次の瞬間だった。


 溶けた岩の背後から現れる一つの影。


「!?」


 驚愕する魔物。慌ててもう一度そちらへ意識を集中する。その影の正体はケンだった。


 慌てて酸を吐き出そうとする魔物。しかしケンの方が速い。ケンタロウもどきの首目掛けて振り下ろされた刀。次の瞬間、切断された魔物の首が宙を舞う。

 軽やかに地に降り立つケンの背後では、「ズシンッ」と魔物の崩れ落ちる音が響く。


 いつの間にか、ガイコツたちの姿も見えなくなっている。大将が劣勢なのを見て逃げ出したのだろう。


 刀を鞘に納め、ケンタロウもどきの死体を見下ろすケン。そしておもむろに口を開くと、


「こいつ…食えんのかな?」


 そう言って舌なめずりをする。


 だれかがここにいれば、「いや、おまえ…これ食うのかよ!?」とツッコんでいるところだろう。だがここにいるのはケンとケンタウロスもどきの死体のみ。そんな気の利いたツッコミを入れてくれる者はいない。心なしか、頭だけとなって地を転がるケンタロウもどきの目が悲しそう。

 …そして後には、ケンの腹の虫が鳴る音が響いたとか響かなかったとか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。