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迷いの森の魔物

一人称視点で戦闘を描くのが予想以上に難しかったのでこの話は三人称視点で書きます。

 村に着いた翌朝。

 朝早くから迷いの森へと向かう星羅たち…だったが思わぬ足止めを食らっていた。



「「「「お願いしま―――す!!!!」」」」


 そう言って頭を下げる4人組。スキンヘッドの男と大柄の乙女(♂)、寡黙そうな細い男に、くすんだブロンドの女性。


「いやそうは言っても…これから退治しに行く魔物は、噂通りならかなり危険だから同行は許可できない…てさっきから何度も言ってるよな!?いい加減あきらめろよ…」


 そう言ってなんとか断ろうとするアドルフ団長。だがスキンヘッドたちもなかなか引かない。


「そんなのは百も承知だっ。だけどおれらにも引けないわけがある!!!」

「ほー、言ってみ?」

「探し人がいるんだ」

「その探し人ってのは誰だ?」


 どうやら団長はその、彼らの探し人に興味を持ったらしい。


「ケンっていう13…いや、いまは14歳の少年だ。最後に見たのはさっき言ったように、あの爆発があった日で、この森に向かうのを見たんだ!」

「それならお前らだけで行けばいいだろう」


 一瞬で興味は失せたらしく、あきれたようにそう言うアドルフ団長。


「何回か入ってみたことはあるんだが、その赤い目の魔物に毎回襲われて泣く泣く引き返してる。だから昨日、ベルさんの店であんたらがその魔物を退治しにいくって知って今朝からここで待ってたんだ。邪魔はしないからおれらも連れて行ってくれ!!!」


 いい年したおっさんが泣きついてる姿はなかなかに見苦しい。できれば御遠慮願いたい…とか星羅が考えていると、隣でカンナが口を開く。


「あなたたちこの森に何度も入っているのね?」

「ああ、もう何百回と入ってるし、ある程度までは道も知ってる」


 カンナは一つ頷くと、アドルフ団長のほうを向く。


「団長、彼らを連れて行ったほうがより迅速に探索ができると思います。どうでしょうか?」


 カンナが言っていることはもっともだ。スキンヘッドたちも団長のほうを、期待のこもった目で見る。少し考えこむアドルフ団長。そしてしばらくしてから一つ頷くと、口を開く。


「一理あるな…よしっ!同行を許可する」

「「「「ありがとうございますっっっ!!!!」」」」


 顔が『パアッ』と明るくなる4人。相当嬉しいのだろう。だが、くぎを刺すのも忘れない団長。


「あくまで魔物の探索が第一目標だ。その少年の探索は二の次っ。それに正直…この森の中でその子が生き残っている可能性は…限りなく低いと思う」

「そんなことは分かってる!だけど動かずにはいられないんだ!友達だからな!!!」

「そうか…。おまえたちの気持ちはよくわかる…おれにも似たような経験があるからな…」


 その発言と共に、団長の顔が一瞬だけ暗くなったように思えた。だが次の瞬間には、団長はいつも通りになっていて、


「さて、それじゃあとりあえず自己紹介でもしようかっ!」


 明るくそう言い放つのだった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 たまに魔物と戦いながら森を進む一行。


 星羅の隣には巨漢の乙女、イヨナさんの姿。


 奇抜な見た目に最初はかなりビビっていた星羅だったが、話しているうちに意外と気さくな人と分かり、いまではかなり意気投合していたりする。


「へー、じゃあイヨナさん、前は王都に住んでたんですねー」

「そうなのよ~。そこで、駆け出しの冒険者だった私はお師匠様と出会ったのよ」

「お師匠様って?」

「わたしに冒険者として、そして一人前の乙女としての心構えを叩き込んでくれた方よ」


 そういってウインクするイヨナさん。そのお師匠様の話の続きが聞きたいような聞きたくないような…そんな複雑な心境の星羅。気になって結局聞いてしまう。


「どんな方なんですか?」

「そうね~…私たち弟子の間では『歩くアダマンタイト鎧』てあだ名があったほど筋肉ムキムキの乙女よ。現役の冒険者でもあるわね。わたしたちが憧れる世界一の乙女よ」


『私たち弟子』…と気になるワードがあるがここはスルーだ。イヨナさんが何人もいると考えるのはさすがに気が滅入るのだ。


「イヨナさんもかなりムキムキだと思うんですが、イヨナさんよりもですか?」

「比べるのもおこがましいくらいよ。お師匠様から見れば私たちなんてまだまだひよっこだわ!噂ではナイトドラゴンを素手で軽く捻れるとか…」


 そう言って大げさに肩をすくめるイヨナさん。ちなみにナイトドラゴンとは、古龍、ディザスタードラゴンにつぐ、竜種の中でも上位に当たるAランクの魔物である。魔法こそ使えないが、それでも人が何十人いようが素手で倒せるような魔物ではないらしいのだが…


「さすがに嘘ですよね?」

「あくまで噂よ~…」

「ですよね~」


 ほっと胸をなでおろす星羅、だがイヨナさんの言葉にはまだ続きがあった。


「でもお師匠様ならそれくらいできても全然不思議じゃないと思うわ。なんてったってこの世界にたった6人しかいないSランク冒険者の一角だし」

「………!!!」


 絶句する星羅。

 最近思うが、勇者なんていなくてもこの世界大丈夫なんじゃないでしょうか?絶対自分よりその人たちのほうが強いと思うし。

 そんなことを考えていると、後ろから声がかかる。


「団長!!!あちらになにかあります!!!」


 一人の騎士がそう叫ぶ。その騎士が指をさす方向を見ると、確かに、黒いなにかがある…が、草に隠れていてよくわからない。


「おれが様子を見てくる。エンゾとビリーはおれの後ろからついてこい」


 そう言って、警戒しながらそちらへ進む団長と騎士二名。

 固唾をのんで見守る他の者たち。

 脳内でこれまでの魔物との戦闘がプレイバックされ、気分が悪くなる星羅。また戦闘か、と身構えていたが、特に何もなく団長たちはそれのもとまで辿り着いたようだ。


 そして『それ』を確認した団長が手招きするので他の者たちもそちらへ移動する。


 するとそこには、首のない魔物の死体が一つ。首は少し向こうに転がっている。


「うっ…」


 ここまでくるのに何体かの魔物をこの手で殺めてきたため少しは慣れてきたが、それでも吐きそうになる星羅。イヨナさんが背中をさすってくれる。

 前にいるアドルフ団長とジョンさんの会話が耳に入ってくる。


「おい、こいつは『鬼』じゃないか!!!こんな危険な魔物がこの森にはいるのか!?」

「いや、こんな森の浅い層にBランク以上の魔物が出るなんてこといままではなかった。

 古龍が住み着いてからは森の最深部でも、古龍を除けばAランクまでのはず…。ましてやこの、Sランクの鬼を殺せるような魔物なんて…」

「周りも特に戦闘があった形跡はない…鬼が全力で暴れれば辺り一帯は草一本残らないほど破壊しつくされるはずだ…。それにこれを見ろ。傷口の切断面があり得ないほど奇麗だ。鬼の硬い皮膚に傷を負わせることすらそうそうできるものじゃない…これができるような魔物に心当たりはないのか?」

「そんなの見たことも聞いたこともねえって!!!」

「そうか…。ならこれをやったのは、例の赤い目の魔物かもしれないな。いったんリーディッヒに戻ろう。このまま捜索を続けるのは、勇者がいるとはいえ危k…」


 アドルフ団長が帰還を提言しようとした、その瞬間だった。背筋が凍るような濃密な殺気があたりを覆う。空気がより重く、森の闇が一層、濃くなったように錯覚するほどだ。背中を嫌な汗がつたう。


「!!!?総員戦闘態勢!!!」


 指一本動かせず、硬直していた星羅だったが、団長の声で我に返る。

 騎士たちも一瞬、我を忘れていた様子だったが、団長の声と共に、さすが王国騎士団と言うべき迅速さで円形に広がって陣を張り、周囲を警戒する。


「星羅とジョンさんたちは森の外へっ!!!俺たちがしんがりを務める!!!早く行け!!!」


 団長が必死の形相で叫ぶ。

 指示に従って道を引き返そうと振り返る星羅。だがすでに、逃げるには遅すぎたようだ。目の前の木の陰から何者かが姿を現す。


 白い髪に犬耳、右手に黒い刀、左手には赤い魔力を帯びた魔剣を持ち、そして目は真紅。身長160センチくらいの人型である。

 こいつが噂の魔物なのだろう…物凄い威圧感だ。


「ゴクリッ」と生唾を飲み込む星羅。聖剣を鞘から抜き、中段に構える…とここで思わぬ事態が起きる。


「ケンちゃんっ!!!!」


 横でイヨナさんたちが叫んだのだ。


(ケン?たしかイヨナさんたちが探している少年だったような…)

「なにをしているっ!!!走れっ!!!」


 アドルフ団長が叫ぶ。それと同時に騎士たちが一斉にその赤い目の魔物へと攻撃を仕掛ける。なかなか連携のとれた動きだ。

 だが…


「「「うっ!!!?」」」


 魔物の姿が一瞬、霞んで消えた直後、騎士八人が同時に吹き飛ぶ。鉄の鎧を身にまとった大の男八人がいっぺんにである。一方、団長とカンナさんは無事だ。なんとか剣で攻撃を受けたらしい。だがその衝撃で二人の剣は折れてしまっていた。

 そして息をつく暇もなくその二人の間に現れる赤い目の魔物。

 距離を取ろうと咄嗟に飛び退さる団長を魔物は、足を振り上げ、脇腹を蹴って吹き飛ばす。

 宙を舞った団長は、木にぶつかってそのまま地面に落ち、動かなくなった。


 一瞬の出来事すぎてまったく反応できなかった星羅。赤い目がカンナのほうを向くのを見る。それを見た瞬間、反射的に体が動き、星羅は魔物に向かって切りかかった。


「あああああああっ!!!!!」


 気合の声と共に上段から聖剣を振り下ろす。だが、魔物は右手を上げると、


『ギィンッ!!!』


 金属同士がぶつかる音が響き渡り、黒い刀で星羅の渾身の一撃はあっさりと受け止められてしまう。そして魔物の口が少し開いて、


「ユウシャハコロス」


 無表情のままそう呟くと、左手の赤い魔剣で強烈な突きを星羅の心臓めがけて繰り出してきた。

 星羅は迫ってくるその斬撃から逃れようと地を蹴り、左へ飛ぶ。

 だが完全には避けきれず、右の脇腹を浅く切り付けられてしまう。


「うっ…」


 なんとか間合いを取るも、ある程度の距離で安心できるような相手ではない。痛みに呻きながらも星羅は魔物から視線を逸らさず睨みつけた。と、視界の端で、ジョンさんたちが倒れた団長たちを介抱しているのが見える。

 驚いたことに誰一人として即死した騎士はいないようで、ジェシーさんの治療魔術で何人かはすでに意識を取り戻していた。

 先ほどは突然のことに頭の整理が追いつかず意識の外だったが、ここにきて、ジョンさんたちが目の前の魔物をケンと呼んでいたことを思い出す。

 魔物が人の言葉を、それもちゃんと意味の伝わる文で言葉を喋るのは極めてマレだ。そのことを鑑みても、この魔物がケンという少年だという話は、ある程度信憑性のあることのように思える。


 そう考えて、答えが返ってくるとは思えないがそれでも質問をしてしまう星羅


「あなたは…騎士たちが死なないように手加減してたの?」


 それに対する返答は…


 無言の魔法だった。


 魔物が一つ大きく足を踏み込むと、水晶のような透明な石が星羅の足元の地面から突き出し、星羅を串刺しにしようとする。

 上に飛んで逃げる星羅。だが次の瞬間、


『ドォォォン!!!』


 轟音と共に水晶が爆発し、小さく鋭い刃のようになった石の破片が星羅を襲う。瞬時に結界を展開するも、すべては防ぎきれず、身体のあちこちに切り傷を負ってしまう星羅。


 だが、星羅はそのくらいでは怯まない。そのまま空中で、お返しとばかりに左手を魔物へ向けて最上級の光魔法を放つ。


聖なる矢の断罪(セイント・アローズ)!!!」


 手から無数の光の矢が放たれ、魔物へと襲い掛かる。


ドドドドドドドドドドド―――――――ンッ!!!!!


 轟音と共に、塵一つ残さんといわんばかりの光が魔物の姿を包み、衝撃で地面が砕け散る。

 勝利を確信する星羅。


 だが土煙がおさまった時そこには…ゆらゆらと揺らめく、虹色に輝くシールドに守られて無傷な魔物の姿があった。


 星羅の目が驚愕によって大きく見開かれる。

 そして次の瞬間、魔物は腕をクロスさせて二本の剣を構えると、猛烈な勢いで切りかかってきた。


「くっ!」

ギギンッ!!!!


 驚愕からどうにか精神を立て直した星羅は、襲い来る強烈な斬撃二つをなんとか捌く。


 そこからは息をつく間もない斬撃の応酬。

 星羅は、左右上下正面から間断なく襲い来る突きや斬撃をどうにかギリギリで捌きながら、なんとか反撃をする。

 一方魔物は、防御を最小限に、ひたすら攻めの姿勢で、狂暴な、しかしどこか流麗さを感じさせる剣捌きで二本の剣を振るう。


 捌ききれなかった剣が両者の頬や腕に切り傷を作り、鮮血がはじけ飛ぶ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ほんの少しでも気をぬいたなら即、死につながるような剣劇を演じながら、しかし星羅は冷静だった。極限の集中が死の恐怖を忘れさせているのである。


 だが、それだけではない。


 星羅の目には、周囲の光景が鮮明に、そしてスローモーションに見えていた。いや、その表現は正確ではないかもしれない。


 周囲の動き、それが感じ取れるのだ。


 別段、自分の反射速度や動きが速くなったりしているわけではない。だが、無駄な動きを省き、ギリギリまで引き付けて捌く余裕が生まれる。


 互角だった剣劇は、その星羅の変化によって段々と魔物の方が押され気味になっていった。


 そのせいだろう。これまで無表情だった魔物の…否、少年の目の中に様々な感情が渦巻き始める。


 それは焦燥、絶望、自己嫌悪といった負の感情。そして目の奥には、深い深い悲しみが湛えられている。


 そしてそれを感じた星羅は、そんな場合ではないにも関わらず、たまらず少年に語りかけ始めた。


「きっと…とてもつらいことがあったのね?わたしには想像もできないような…」


 少年の剣は止まらない。

 だが、ただの粗暴な少年をイヨナさんたちが必死に探すはずがない。星羅は確信をもって語りかけ続ける。


「あなたは…本当は優しい人…」


 手は止めないが、少年の犬耳がピクリと動く。


「本当は…あなたはこんなことしたくない…そうでしょう?」


 その言葉に、彼の赤い目から一筋の涙が流れ落ちていった。そしてその悲しい涙を見た星羅は、自分の言葉を彼の心に届かせるべくより一層心を込めて、真っすぐに言葉を紡ぐ。


「あなたは大きなものを、たくさんのものを失ったのかもしれない。だけど、その手の中に残っている物も絶対あるはずよ。それを忘れないで、大切にしてほしい……そして、失った物の代わりだなんて言ったりはしない…だけど、それと同じくらい大きな、大事なものがこれから必ずできるから、過去ばかりに囚われないで、前もちゃんと見てほしい」


 そして、その星羅の言葉で、少年の剣がぴたりと止まった。

 それを見て同じく剣を止めた星羅。しばらく様子をうかがった後、聖剣を鞘に納め、そして赤い目をしっかりと見据える。


 星羅の言葉はちゃんと伝わったのか? いや、きっと伝わったはずだ。なぜなら、少年も星羅の目をしっかりと見返しているから。例え視線がどこにあるかは分からずとも、彼の意識は間違いなく星羅に向いていた。


 星羅は少年を抱きしめようと腕を広げる。そして一歩踏み出しながら、真っすぐと、そして心を込めて言葉を贈る。


「その未来への一歩目として…わたしと友達になりましょう」


 その一言の影響は絶大だった。少年の真っ赤だった目が「スゥ」っと普通の目に戻り、綺麗な緑色の目が星羅を見つめ返す。

 なにが起こっているのか分からないのか、キョトンとした顔をした少年。可愛らしい。そんな少年を抱きしめようともう一歩踏み出す星羅。それを見て少年が目を大きく見開く。


 そして次の瞬間、少年は目にもとまらぬ速さで後ろへ下がったかと思うと、そのまま森の奥へと消えていってしまう。それをポカンとした表情で見送る星羅。


「……………なんでぇ~~~!???」


 しばしの静寂の後、森の中に星羅の困惑の叫び声が響き渡るのだった。


ご高覧いただきありがとうございます。

星羅パートこれでひと段落です。次回からいよいよケンが旅立ちます。ここまで長かった…読んでいただいた方はありがとうございます。また次の話でお会いしましょう。

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