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イシュト大陸物語 ~終着の地~  作者: 明星
赤髪の魔女
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第10話

一通りの手合わせが終わったあと、隊士達はギルとロザーナを巻き込んで大いに盛り上がった。

酒こそ出ないものの、翌日の景気付けも兼ねてか焚き火を囲んで歌う者や踊る者、先程の手合わせについて熱く語る者など様々で、2人はあっちにこっちにと引張蛸であった。

隊長のヘルマンもそれらに対して口うるさく言うことはなく、盛り上がる皆を温かな目で見ている。

それほど危険ではないと予想されているとはいえ、明日は初めて実戦を経験する隊士達もいる。

今はただ、楽しい時間を過ごしてほしい、そうヘルマンは思っているのだろう。

ギル達のところへやって来たヘルマンが意識的に若い隊士達に声を掛けるのを見て、ギルはそう感じたのだった。


そして一夜明け、昨晩親交を深めた隊士達が順に村の中へと入っていく。

3人で1つの班になり、そのうちの1人を経験の浅い若い隊士にして行動する作戦のようだ。

魔物に占領された村は、閑散としていたマシューの村とは違い、大きな広場を中心に家が密集しており、宿や商店などが存在する程度には栄えていた。

普段は人通りの多い街道沿いの村なのだ、こんなことになる前は流通も盛んだったのだろう。

だが今、村は荒れに荒れていた。

まだ魔物の襲撃からそれほどの日は経っていないはずだが、もう長い間人が暮らしていなかったかと思うほど村は荒れ果てている。

「随分と好きにやってるようだな」

隊長のヘルマンはギルとロザーナと共に村の入り口で待機している。

「魔物の数は、多いんですよね?」

昨晩隊士達から聞いた話によると、この村を占領している魔物の数は正確には掴めていないということだった。

「村の外から様子を伺うやり方では、全ての数が特定できない程度には多いようだな」

カールが事前に行った偵察は信用できるものだが、完璧ではない。

さすがに村の中まで侵入して偵察することはできず、最終的には作戦当日にならなければ分からない部分は多い。

それはこの作戦に限ったことではない。

多少のズレというのはどんな場合にも起こるものなのだ。

「とはいえ見たところ大きな魔物はいないし、特異個体もいそうにない」

それならば問題ないだろう、とヘルマンは村の奥へと視線を送っている。

「そういえば」

とギルは昨夜聞こうとして聞けなかった話を思い出した。

このあたりの魔物が弱い、という話だ。

「その話か」

とヘルマンはギルに、君の生まれはどこだ、と返した。

ギルはここよりもずっと東の方にある街が出身地だと答える。

「ならば尚更、聖王都よりも遠いな」

魔物と戦ってもそれほど苦労はしなかったのではないか、とヘルマンは続ける。

それは確かにその通りだった。

しかしギルは魔物の強さの違いなど深く考えたことはなく、これまで無事に旅を続けてこられたのは全ては武具の強さのお陰だと思い込んでいた。

「昔はな」

とヘルマンが教えてくれたのは、魔物がどこで生まれているのか、という大昔からの謎についてだった。

「それこそここからずっと東の、海の向こうにある、あの呪われた島から魔物達が来ていると信じられていた」

呪われた島、この大陸の人間がそう呼ぶのはヴェラ達が生きていたイシュト大陸のことだ。

「だがどうやら違うらしい、ということになったのはな」

ある時を境に魔物達が聖王都よりもまだ西の方向から来ているようだということを、昔の討伐隊が突き止めたからなのだそうだ。

「出処は今もはっきりとは分からないそうだが」

結局聖王都周辺から離れれば離れるほど、魔物は弱くなっているのだという。

「そこにいられない奴らが地方へと流されてくる」

それは魔物の中でも弱者であり、流れる必要のないほど強い魔物は聖王都周辺に多く、更に以西に向かえば魔物達はより強力になっていくのだそうだ。

「だからまぁ、敵の数が多少不明でも、これだけの数で立ち向かえば問題はないだろう」

と、ヘルマンが言った直後だった。

甲高い笛の音が村の中から鳴り響いた。

「あれは、緊急の合図だ」

そう言いながらでもヘルマンに慌てる様子はない。

「行ってくれるか」

そんなヘルマンの問いに、ギルはもちろん、と返してロザーナと共に駆け出した。


魔物達と戦っている隊士の間を通り抜け、辿り着いた先では隊士の1班と1匹のゴブリンが戦っていた。

ここに来るまでに見かけたゴブリンやコボルト達はろくに装備らしい装備もなく、中には素っ裸に木の枝を握っているような魔物もいた。

だが眼前のゴブリンはどこで手に入れたのか、きちんとした金属の防具を身に着けており、大きさも調整されている。

そして短剣と呼ぶには大振りな刃物を持っており、その目は片方が潰れていた。

そんなゴブリンに隊士達は苦戦しているようだ。

班の中で1番若い隊士は既に仰向けに倒れており、残り2名の隊士が攻めている。

しかしその剣はゴブリンの短剣で受け止められ、そして驚くことに弾き返されていた。

魔物というのは同じ体格ならば人間よりも力強い。

とはいえ本来は人間よりも小柄なゴブリンにそんな力はないはずなのだ。

ヘルマンはいないと言っていたが、もしかしたらこいつは特異個体、昔レッドキャップと呼ばれるほど強かったゴブリンなのでは、とギルは気を引き締めた。

「代わります」

そう言ってギルは戦場に飛び込み、隊士に下がるよう叫ぶと迷うことなくゴブリンへと斬りかかった。

だがこのゴブリンはその斬撃をかわし、避ける。

(まるであの夜みたいだ)

とギルがイアンの村での夜を思い出したその瞬間、ゴブリンは短剣を大きく振り上げて飛び掛かってきた。

ギルは反射的に眼前で盾を構え、ゴブリンの攻撃に備える。

だがしかし、覚悟していた衝撃は、来なかった。

予想していた一撃がないまま、目の前を盾で塞いでしまっているギルは一瞬ゴブリンの姿を見失ってしまう。

直後、構えた盾の内側にぬっと歪んだ手が差し込まれた。

やってくるであろう衝撃に対して、ギルは盾を持つ手に押す力を込めていた。

だがその押す力はゴブリンの盾を引き開く力と合わせられ、いともたやすく体を開いてしまった。

「あぱぁ」

開かれた盾の向こうに見えたゴブリンの口から、喜びの空気が漏れる。

防御を開かれたギルの胸に向かって、ゴブリンは大振りな短剣を勢いよく突き出した。

(当たる)

そう思った直後、ゴブリンの体が横へと吹き飛んだ。

ゴブリンの潰れている方の目、その死角からロザーナが放った後ろ回し蹴りがゴブリンの体を大きく弾き飛ばしたのだ。

弾き飛ばされ、それでも武器を手放さないゴブリンにギルは覆いかぶさると、我武者羅に振り回される短剣を竜の素材で出来た盾や外套で受けながら、冷静にゴブリンの頭に向かって斧槍を振り下ろしたのであった。


「こいつは特異個体か?」

立ち上がったギルは肩で息をしている。

今回もまた、望むような戦い方ができなかったことに対し、若干の苛立ちと悔しさを覚える。

「いや、ただの流れだろう」

隊士の1人がギルへと答え、礼を言ったあと倒れている若い隊士に手を貸した。

どうやら若い隊士は金属板で防御された胸を強かに蹴られたことにより動くことが出来なかったようだ。

だが幸いにも命に別状はなさそうだった。

倒れている魔物を見下ろしながら、ギルは深い溜め息をついた。

今回もロザーナに助けられてしまった。

そんな自らの不甲斐なさを一旦飲み込み、ギルはロザーナへ感謝を伝えたのだった。

その後、緊急を知らせる笛の音がなることはなく、カールのほぼ見立てた通りの結果で村の中から魔物達は一掃された。

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