第6話
気分の悪くなるような話だった。
だがそれは話の内容が残酷だったからだけではない。
マシューの悪びれない態度にも原因があった。
この村の事情はよく分かったが、しかしだからといって全く関係のない人を巻き込み、あまつさえその命すらも軽んじているようなマシューの態度を、ギルにはどうしても許すことができなかった。
「他に方法はなかったのですか?」
そんな当たり前の疑問をギルが口にしたことで、マシューとギルは激しい押し問答を繰り広げることとなった。
他に方法とは、とマシューが不機嫌に言う。
「関係のない人達を巻き込まなくても」とギルが否定しようとすると、マシューは自分達も無関係だと声を荒らげた。
「たまたまこの村に狒々が現れた。それだけだ。俺達と狒々に一体なんの関係があるというのだ」
ならば諦めずに狒々を倒そうとすべきだった、とギルは返す。
だがしかし、マシューは山の中で狒々と戦うことの危険性を叫び、その結果男達がいなくなった村はどうなると唾を飛ばした。
「それに、そんなのは戦う力を持つ者の言い分だ」
とマシューは冷ややかな目でギルを見た。
「こんな村で、身を守る鎧など手に入るものか」
武器も護身用の片手剣がせいぜいで、それだって武器として振るうには心もとない。
「あとは狩りをする際の弓矢だが」
こんなものであいつを殺せるはずもない、とマシューは壁にかけてある弓を見た。
確かにそれは鳥や小動物に対してなら有効だろうが、人よりも大きな生き物が相手だと、とたんに頼りなく見える代物だった。
「それに万が一武器や鎧が手に入ったとしてもだ、これまで土を相手にしてきたことしかない者達がどうしてあの狒々と戦えるというのだ」
「それなら全員でこの村を捨てれば」
と言いながら、ギル自身それが無理なことだと自覚はしている。
しかしギルにはどうしてもこの村の、マシュー達の下した決断を飲み込むことができなかったのだ。
「ここでしか生きたことのない者が、外でどうやって生きていく」
そう言われることは、分かっていた。だからギルには何も反論できなかった。
村を追われた者達がその後何をして生計を立て、その結果どうなったのかを、ギルはよく知っている。
以前討伐隊と共に賊を討った時のことを思い出す。
あの日殺した賊達も、好きでそうしていたわけではなかった。
「俺達だってすぐにこんな結論に至ったわけじゃない」
何度も何度も話し合って可能性を探った、とマシューは睨みつけてくる。
「だがどうしても解決策が見つからなかったのだ」
村人達の力だけでは狒々を倒すことができず、他から力を借りようにも借りるだけの金が無い。
だからといって何もしなければ満月の度に女が殺されるだろう。
次は自分の家族ではないか、恋人ではないか。そんなことを考えると何かしなければと気持ちばかりが焦った。
家族や恋人を、あんな無惨な姿にはしたくない。埋葬した時の死体の状態が頭から離れず、マシューやバリー達は未来への恐怖を拭い去ることができなかった。
「苦渋の決断だったのだ」
そう話すマシューは辛そうな顔をしている。
だがやはりマシューは自分の決断が間違っていたとは思っていそうにない。
「家族や恋人を思いやれる気持ちがあるのなら、どうしてその気持ちを殺された女性達に向けることができないんですか?」
ギルは珍しく声を荒らげた。
殺されてもいい人などいない。ましてや今回殺されたのはそれまでただ普通に生きてきただけの女性なのだ。
だがマシューは静かに返す。
「命の価値は違うのだ」と。
お前はそうではないのか、とマシューは続ける。
「お前の横にいる女の命と、例えば俺の命は平等か?」
その女と俺が死にそうになっている時お前はどちらに先に手を伸ばす、と言うマシューの問いにギルは答えられなかった。
心の中で答えは出ている。当然ロザーナを助けると。
しかしそれを口にしてしまっては、まるでマシューの考えを肯定しているような気がして何も言えなかった。
「少し、出てきます」
ギルは歯噛みし、どうにかそれだけ口にすると、静かにマシューの家を出たのだった。




