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第2話

街道から少し外れたところにあるこの場所は実に殺風景な村であった。

これといった特産品もなく、街道を行く旅人や商人がたまに利用する宿屋がなければ、外の人間が立ち寄ることなどないであろう。

(自分も家業の用事がなければこんなところで泊まろうとは思わないな)

青年は慎重に歩きながら周辺に気を配っている。

こんな時間になっても村の宿屋を目指したのは、旅のついでにと村への届け物を預かっていたからだった。

そうでなければどこかで野宿でしている、と青年に思わせるほどここは魅力のない村だった。


軽く見た感じだが、村の防備は乏しい。

脅威が増えてきているこの時代において、この程度の木の柵や門しかないようでは無策と同じとも言える。

村人たちはきっと自分達には関係のない話だとしか思っていなかったはずだ、そうでなければこんなに一方的にやられるはずはない、と青年は思った。


幸い建物が密集しているような場所はないため、火が燃え広がる心配はなさそうだ。

村に来たときには聞こえていた村人達の声も、今は随分と静かになった。

殺されたのか逃げ延びたのか、どちらにせよ今この村に残っているのは自分と奴らだけなのかもしれないと青年は思った。

まばらに立ち並ぶ家の間を抜けて、火の手の上がっている建物を目指す。

この騒ぎの元凶になった者達がいるとしたらあそこに違いない、そんなことを考えながら歩いていた青年の目に、正面からペタペタと足音を立ててこちらに走ってくる小さい影が目に止まった。


村の子供だろうか、と目を凝らすが夜の闇に邪魔されてうまく見えない。

「止まれ!」

と声を荒げる。

影の正体が村の子供であれば怯えて足を止めるだろうと思ったからだ。

しかし影は平然とこちらへと駆けてくる。

ペタペタと音をたて、明らかにおかしな走り方でこちらへと迫ってきている。

ならば、と青年はそれ以上の言葉を発することなく、自分から影へ向かって駆け出した。

その行動に対して意外にも小さな影は一瞬怯んだような動きを見せた後、今来た道を全力で引き返し始めたのだった。


今夜はずいぶんと楽しんだようだ、と青年は気分が悪くなった。

少し抵抗する意思を見せただけで逃げ出すような存在がこれだけ好き勝手に暴れることができたのは、おそらく村人達が恐怖と混乱からろくに抵抗できないまま奴らに弄ばれたからであろう。

ふつふつと湧いて来る怒りを抑えながら青年は全力で小さな影を追った。

その小さな影は意外にも素早く、青年をからかうように闇の中を右へ左へと飛び跳ねながら逃げていく。

視界の邪魔だ、と青年は一瞬フードを脱いでしまおうかとも思ったが、結局止めておくことにした。

臆病だが狡猾で残忍なこの生き物に対して油断するべきではないのだ。

そんな影が村の中心まで来た辺りで急に立ち止まった。そこは青年の当初の目的地でもあった。

周囲の家は燃えており、その明かりでようやく影の正体を確認することができた。

それは子供のような小さな体に年寄りのような顔をした不気味な生き物。

片手にはどこかの家で手に入れたのであろう包丁を握っており、ニタニタと笑う口元からは不揃いで汚い歯が覗いている。

「やはりゴブリンか」

青年は驚くこともなくゴブリンと呼ばれた小さな生き物に向かって足を進めた。

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