第5話
そこにあるのは大昔に作られた倉庫なのだという。
カーマイン商会がまだまだ小さかった頃、低温で保管が必要なものを置いていたのが、この斜面の奥に隠された倉庫なのだという話だった。
そう言われると確かに地面には荷車によって作られた轍の痕跡があるように見える。
言われなければ気づかないほどの痕跡なのは、使われなくなってからの年数を物語っているようだった。
店の規模が大きくなり、仕入れから納入までの時間が短縮されるにつれ使われなくなった山の倉庫。
ヴェラやアッシュ達はここに様々なものを隠し、斜面に板をかけて土を盛った。
長い年月の間に土には雑草が根を張り、色鮮やかな花が咲いた。
ギルはそれが恨めしくて仕方なかった。
鋤を使って根を断ち切り、土を起こそうと頑張るのだがきりがなかった。
てっきり2人で掘るのだと思っていたのに、ヴェラは早々とどこかに立ち去ってしまい、ギルは一人終わりの見えない作業を続けているのだ。
「あんたの細腕じゃあ大変かもしれないけどね」
去り際、そんなふうにヴェラが言うものだからギルはギルで意地になって掘り続けている。
数年前にヴェラに話を聞いてから、親に頼んで剣術の練習を始めた。
初めは覚束なかった木剣の扱いも随分と上達したと自分では思っている。
しかし少年と言えるギルの体は確かにまだまだ細かった。
「お昼にしようか」
不意に声を掛けられ、振り向くとヴェラが両手に兎と魚を持って立っていた。
「疲れたかい?」
そう言って腰から革袋を外すとヴェラはギルに投げてよこした。
袋の中の水はとても冷えていて、熱くなったギルの体を内側から冷やしてくれるようだった。
「しっかり管理されてるようだね」
辺りを見回しながらヴェラは感心したように言う。
「ここに来るまでの道も随分と歩きやすかったからね」
ギル一族の敷地内は今も使用人の手によって丁寧に管理されているのだ。例え既に訪れるもののいないこの山においても、それは同様だった。
「このまま掘り返してもいいの?」
山に人が来ているのであればいずれこの場所のことも露見する。そうなると一体誰が、という話題になるのは目に見えている。
「別にかまやしないさ」
明日には雨が降りその雨で斜面が崩れて入り口が現れた、そんなふうになるはずだとヴェラは言った。
「その為にもあんたにはもっと頑張って掘ってもらわないとね」
いそいそと火をおこす準備をしながら、ヴェラはギルから革袋奪い取ると鍋の中に水を張った。
「ほら、出来上がるまでもうひと頑張りしておいで」
雨に任せるのであれば掘る必要などないのでは、とギルはヴェラに訴えかけたが「そのままだと雨が降ってもびくともしないさ」と言われて諦めた。
確かにこの根の張りようでは多少の雨ではびくともしないだろうし、来たときの斜面の違和感のなさはつまりそういうことなのだ。
ヴェラは手際よく魚を捌いて鍋へと投げ入れ何かの粉を入れて掻き混ぜている。
兎は皮を剥がれ、表面に粉を塗りたくられて焼かれている。
その匂いがギルの食欲を刺激し、それが作業の後の楽しみなのだと自分に言い聞かせ、ギルは再び斜面へと向かうのであった。




