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第1話

村が襲われているのは遠目からでも十分に分かった。

僅かな星の光しかない暗闇の中で、赤く不安定な光が村の姿を浮かび上がらせていたからだ。

何が起きているのかと逡巡したが、荷馬車を操る青年は一つしかない答えにすぐに行き着いた。

「間に合えばいいのだが」

もともと今夜は次の村で休むつもりでいた。到着が少し遅くはなったが、寂れた村の宿屋の主人は喜んで客を迎え入れてくれたであろう。

だがどうもそうはならないようだ、と青年は手綱を操り馬を急がせたのだった。


村では人々の叫び声が響いていた。

泣き叫ぶ声、助けを求める声、ぶつけようのない怒りを空に向かって叫んでいる声が響いている。

道には人が倒れ、物が溢れている。

いくつかの家からは火の手が上がり、その明かりが真っ暗な夜空を赤く染めていた。

しかしこのような状況の中で少しでも落ち着いているものがいるならば、この状況のそれ以上の異様さに気づくことができるであろう。

「やはり奴らの仕業か」

と村の入口に辿り着いた青年は大きな溜息をついた。

青年の気付いた違和感、それは聞こえてくるのが被害者たちの声のみであり、村を襲っている者たちの声はまるで聞こえてこないということだ。

物が壊される音は聞こえる。人々の断末魔も聞こえる。しかしそれを行っているものの声はまるで聞こえない。

「さて、何匹いるのかな」

村の入口で荷馬車に乗ったままの青年が、フードの下から村を眺めながら考えに耽っていた。

荷馬車をここに置いていっていいものか。もしも馬がやられたら今後の旅にも支障が出そうだ。こんなことなら従者の提案を受けておけばよかった、と。

「いや、そんなことを考えても意味がない、か」

自分の力量は理解しているつもりだ。この場で慌てて村に突撃したところで全てを助けられるわけではない。

そんな考えがあるせいか、青年は燃える村を見てもどこか冷静だった。

(見たところ奴らの姿はないな)

青年は周囲を見渡し、動くものの気配がないと判断すると荷馬車から飛び降りて荷台から歪な形の武器と盾を手に取った。

それは金属とも鉱石とも区別がつかない不思議な素材で出来た黒い斧槍であり、片手で振り回せるように長さが調整されていた。

また盾の方はというと一見灰色の布のように見えるのだが、見ようによっては生き物の革のようにも見える不思議な盾であり、その上部には本来何かが取り付けられていたであろう部品が剥き出しになっている。

「少し待っていてくれ」

青年に声をかけられた馬は、それを理解しているのかしていないのか分からない表情でブルルッと鳴いてその場で足踏みをした。

それほど大きな村ではない。声の聞こえる方向へと向かえば奴らと相対するはずだ。

青年は盾に貼られた素材と同じもので造られたマントを翻して村の中へと進むのであった。

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