評判
学園ダンジョン、地下38階層。
レノは、ジャイアントパーンと呼ばれる巨大な『ヤギ』の突進を真正面から迎え撃つ。
拳を構え、レベル10となった『全身強化』を発動。どっしり構え、拳を振りかぶった。
「ッしゃぁ!!」
正拳と、ヤギの頭が激突する。
ヤギの頭蓋骨が砕け、吹っ飛んだ。
レノはどっしり構えたまま、拳を収め一礼───した瞬間、背後から来た別のジャイアントパーンに吹っ飛ばされ地面を転がった。
「おぶっふぁ!?」
「バカ!! カッコつけてる暇なんてないでしょうが!!」
「う、おおお……い、いてぇ」
「レノ、回復する!!」
サリオが魔法で回復。その間、アピアが両手に魔導銃を持ち、連射する。
弾丸はジャイアントパーンの横腹に命中、血を噴き出し倒れた。
アピアはマガジンを交換し、サリオの傍で銃を構える。
「援護はお任せください」
「ありがとう。レノ、大丈夫?」
「こ、腰……腰痛い」
「はいはい」
レイは周囲を見渡しつつ、仲間の様子を確認。自分でもジャイアントパーンを双剣で切り刻み、俺に命令した。
「リュウキ、そっちは!!」
「任せろ。いける」
俺の目の前には、ジャイアントパーンをさらに大きくした『キングジャイアントパーン』がいた。
学園ダンジョン、38階層のボス。
相手にとって、不足なし。
「『龍人変身』!!」
四分の一。
両腕のみの変身。現在、四段階までの変身が可能だが、この状態なら朝から晩まで変身し続けられそうな気がする。
俺は両腕に闘気を込め、全力でダッシュし跳躍。
キングジャイアントパーンが吠え、俺に向かって突っ込んできた。
「『龍人掌』!!」
キングジャイアントパーンの強靭な頭と、俺の巨大化した右拳がぶつかり合う。
そして───キングジャイアントパーンの頭蓋骨が砕け散り、吹っ飛んだ。
激突したキングジャイアントパーンは消滅。
他の魔獣も、レイたちが討伐。
「よし!! これで学園ダンジョンの38階層もクリア!!」
俺たちチーム《エンシェント》、絶好調だ!!
◇◇◇◇◇◇
ショッピングモールのカフェへ来た俺たちは、それぞれ飲み物を注文した。
レノは果実水を一気に飲み干して言う。
「っぷはぁ!! いやぁ~~~……マジで絶好調だよな、オレら」
「そうだね。等級も上がったし、スキルのレベルも上がってる。学園ダンジョンは38階層までクリアして、学園内の評判も上々。ぼくたちのチームに入りたいって子も多いけど……」
と、サリオはレイを見る。
レイは首を振り、しっかり言った。
「あたしたちは一年生だし、チームはこれ以上増やさないで地道に経験を積んだ方がいいわ。一年のうちに数ばかり揃えたチームになると、メンバーの育成が面倒なのよね」
すると、今日は留守番だったアキューレが言う。
「わたしもダンジョン入りたい」
「ま、そういうことなのよ。こんな風に、ダンジョンに入れない子が出ちゃうしね」
「ダンジョンは五名まで、ですか……こればかりは、仕方ないですねぇ」
アピアは紅茶を飲みながら俺に言った。
「あの、リュウキくん。明日のご予定は? 依頼でも受けるのですか?」
「いや、明日はリンドブルムのところに行くんだ」
「そうですか……」
「悪いな。用事があるなら、今度聞くからさ」
「はい。そのときはぜひ」
「ちょっとちょっと、あたしもあんたに用事あるんだけど」
「わかってるよ。レイ、また今度な」
「むー、わたしもリュウキと遊びたいな」
「アキューレも、今度遊んでやるからさ」
「約束だからね」
「ああ」
レイたちと約束し、この日は解散となった。
寮に戻ると、同室のマルセイが出迎えてくれた。
「や、リュウキくん」
「よ、マルセイ。なんかご機嫌だな」
「まぁね。スキルレベルが上がって、冒険者等級も上がったんだ。ふふふ、こんな嬉しいことはないよ」
「そっか。ところで、明日は休みだけど、何するんだ?」
「もちろんデートさ!!」
「で、デート……お、お前が?」
「……ふふふ。悪いねリュウキくん。ぼく、一足先に大人の階段を登らせてもらうよ」
マルセイは、ニヤニヤしながらベッドの中に入った。
こいつ……ほんとにデートなのか?
◇◇◇◇◇◇
翌日。
私服に着替えた俺は、リンドブルムがいる《真龍聖教》の大聖堂へ。
真正面から行くと面倒なので、大聖堂近くにあるカフェでのんびり待つ。
すると、可愛らしい私服を着たリンドブルムがいた。
「お待たせ、リュウキ」
「ああ。なんか食べるか?」
「うん。甘いの食べたい」
「じゃあ私もお願いしちゃおうかしら」
「ああ、じゃあ座───……は?」
いきなり聞こえた第三者の声。
リンドブルムの後ろにいたのは───アンフィスバエナだった。
ギョッとすると、リンドブルムが手で制する。
「大丈夫。お姉さまは何もしないから」
「そういうこと。リンドブルム、何食べる?」
「パンケーキ」
「じゃあ私も」
「…………」
二人は座り、普通に注文。運ばれてきたパンケーキをモグモグ食べた。
俺は紅茶を啜り、アンフィスバエナを警戒する。
「そんなに見なくても、何もしないわ」
「……むぅ」
「いちおう、私はあなたの命の恩人よ?」
「……それを言われるとな」
俺はため息を吐き、警戒を緩めた。
とりあえず……なぜ、ここにアンフィスバエナがいるのか。
俺は、リンドブルムに呼ばれてここに来たのだ。
「なぜ、私がここに?───みたいな顔ね」
「そりゃそうだろ」
「答えは簡単。あなたに渡す物があってきたの。それと、忠告……いえ、警告」
アンフィスバエナは、紫色と水色の宝石をテーブルに置いた。
これは……エキドナと、テュポーンの《核》じゃないか。
「これを食べると、あなたの力が僅かに上がるわ。第四形態の変身時間も伸びるはず」
「……どうして、これを俺に」
「あなたに、死んでもらっては困るからよ」
アンフィスバエナは宝石を掴むとニヤッと笑い、いきなり俺の口にツッコんだ。
「もがっ!? んっぐ……」
飲んでしまった───が、身体の中で燃える闘気が、強くなった気がした。
いきなりのことで驚いた。俺はアンフィスバエナを睨む。
「警告よ」
「な、なんだよ……」
「テュポーン、エキドナ、スヴァローグの死により、残るドラゴンは五体となったわ。リンドブルム、ファフニール、アンフィスバエナ。そして……ハクリュウお姉様に、現最強のバハムートお兄様」
「ハクリュウ……それと、バハムート」
「二人が動くわよ。気を付けなさい」
「…………」
アンフィスバエナは立ち上がる。すると、リンドブルムが言った。
「お姉さま、ファフニールお兄さま、は……?」
「さぁねぇ。居場所を言うと、私が消されちゃうわ」
そう言って、アンフィスバエナは立ち去った。
ハクリュウ、バハムート。またドラゴンが出てくるのか……なんだか、嫌な予感がした。




