敵襲
チーム『エンシェント』のアジトには、レイたちが集まっていた。
リュウキとサリオがオークションから戻ってくるのを、今か今かと待っている。特に、レノは落ち着きなく、リビングをウロウロしては壁に向かってシャドーボクシングを繰り返していた。
すると、レイが言う。
「レノ、落ち着きなさいよ」
「いや、マジでワクワクが止まんねぇんだ。なぁなぁ、最近のオレらヤバくね? ミドガルズオルムの素材装備に、学園内では注目の的。こんな立派なアジトを手に入れて、さらに貴族が開催するオークションでエピックスキルをゲット……いや、普通に考えたらおかしいって」
「……まぁ、気持ちはわかる。あたしだって、アジトを手に入れるのは早くて三年生になってから、遅くても学園の卒業前だって考えてたし。B級からA級に上がるのも、卒業後かなーって考えてたわ」
「だよな、マジで最高だぜ」
二人の会話を聞きながら、アキューレはアピアに聞く。
「ね、ね。学園には『長期休暇』があるんだよね?」
「はい。1年間を四期に分けて学習しますので、合計四回休みがあります。春と秋の休暇は短いですけど、夏と冬の休暇は長いですよ」
「じゃ、夏になったらみんな、フリーデン王国に来て。わたし専用のビーチに招待する」
「専用ビーチですか? 素敵ですねぇ」
「うん。綺麗な砂浜、青い空、透き通った海……わたし、裸で泳ぐの。すっごく気持ちいいの」
「は、裸はちょっと……」
苦笑するアピア。
セバスチャンがルルカと一緒に、全員のお茶を淹れ直す。
そして、レイの前に紅茶カップを置こうとして───……セバスチャンの動きが止まった。
「……ん、セバスチャンさん?」
「…………」
静かに紅茶を置き、セバスチャンは言う。
「……アジトが、包囲されています。悪意のある何者かがいるようです」
レイの目がスッと細くなり、気配を探る。
「……数は二十以上ね。やれやれ……どこかで恨みを買ったのかしら」
「れ、レイちゃん?」
「全員、戦闘準備。敵襲よ」
「ま、マジかよ」
レイは双剣を手に取り、首をコキコキ鳴らす。
アピアはハンドタイプの魔導銃を二丁手に持ち、アキューレは室内で弓が使えないと判断し、ナイフを装備。レノは拳をパシッと打ち付ける。ルルカもナイフを装備し、アキューレの傍へ。
最初に動いたのは、セバスチャンだった。
「お嬢様。少し……数を減らして参ります」
「……わかりました。気を付けて」
「お、おいおい。セバスチャンさん一人で」
セバスチャンは、リビングから出ていった。
すると、アピアは言う。
「大丈夫です。セバスチャンは元S級冒険者ですから」
「「マジで!?」」
レイとレノが驚愕し、アキューレは首を傾げていた。
◇◇◇◇◇
セバスチャンは、普通に玄関のドアを開けて外へ。
執事が付ける白手袋をキュッとはめ直し、誰もいない玄関前で言う。
「申し訳ございません。このアジトを守る者として……敷地内への無断侵入者に対して、命を奪うことにしています」
ビキビキと、セバスチャンの細い身体に魔力が満ちていく。
拳法の構えを取り、静かに告げた。
「何者か存じませんが……お覚悟を」
◇◇◇◇◇
レイたちは、リビングの中心に集まり、それぞれ背を向けていた。
レノは、小さく「ふぅ」と言い、小声で言う。
「……静かだぜ。マジで敵なんているのか?」
「……いる。わからない? すでに二階から侵入されてる」
「ま、マジ?」
「狙いが分からない以上、下手に動けないわね……」
と───次の瞬間、リビングに小さな『箱』が投げ込まれた。
瞬間、レノが動く。
飛んできた箱を、外に向かって蹴り飛ばしたのだ。
窓ガラスが割れ、箱が外へ飛んで行く。そして……外で箱が割れ、煙が噴き出した。
「レノ、ナイス!! 双剣技、『十字斬』!!」
「ぐあっは!?」
飛び込んできた男を、レイは容赦なく斬り捨てた。
そして、何人もの侵入者がリビングに雪崩れ込んできた。
侵入者の一人が言う。
「エルフの女を出せ」
「え、わたし?」
「そいつを引き渡せば、命は取らん……どうする?」
「信じると思う?」
レイは観察する。
数は十五人。狙いはアキューレとルルカ。リーダー格の男は……強い。
レイは、アピアとレノ、アキューレに告げた。
「あのリーダー格の男はあたしがやる。雑魚は任せていい?」
「ああ、任せとけ。リーダー!!」
「わたし、前に出る」
「援護はお任せください!!」
こうして、アジトでの戦いが始まった。
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇
俺は、クロスガルド王国に向かって飛んでいた。
第二解放、かなり体力を消耗するけど仕方ない。アキューレが狙われているなら、早く戻らないと。
それに……アジトには今、レイたちがいる。
「急げ急げ急げ『キュァァァァ───……』……ん?」
ふと、鳥のような声が聞こえた。
そして───ゾワリと背筋に冷たい汗が流れた。
俺は反射的に真横へ飛ぶと、俺が飛んでいた場所に炎の塊が通過した。
「な、なんだぁ!?」
急停止し、上空を見上げると───……とんでもない生物がいた。
巨大な四枚の翼を広げ、長い首が三つ、頭も三つある『鳥』だった。
頭が三つある鳥。一つの口からは雷が、もう一つからは炎が、最後の一つからは冷気が出ている。
全然、気が付かなかった。
『『『キュォォォォォ───ンンン!!』』』
「くっ……イザベラの差し金かよ!!」
どうやら、戦うしかなさそうだ。
俺の中にあるエンシェントドラゴンの知識が教えてくれる。
この、得体の知れないバケモノ鳥。
大罪魔獣の一体、『強欲な魔鳥』ステュムパリデス。
ステュムパリデスは、三つの口から異なる属性の魔力を溜め始めた。
「来やがれ、今日の晩飯にしてやるからな!!」
俺は右手を巨大化させ、闘気を全開にして向かっていく。




