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まさかの出来事

 鉱山奥へ進んでいると、レイが立ち止まる。

 いきなり立ち止まったので、すぐ後ろを歩いていたサリオがレイの背中にぶつかった。


「あいたっ」

「…………」

「れ、レイさん。いきなり立ち止まらないで……って、どうしたの?」

「……これ」


 レイはしゃがみ込み、何かを拾う。

 小さな紙の筒だ。みんなが顔を近づけると、レノが言う。


「煙草じゃねぇか。それがどうかしたか?」

「あのね。見てわかんない?」

「???」


 レノは首を傾げる。

 俺、アピアもよくわからない。だが、サリオがハッとした。


「え、どうして……煙草、だよね」

「ええ。おかしいわ」

「待て待て。おいサリオ、わかるように説明しろよ」

「……あり得ないんだ」


 サリオは煙草をレイから受け取る。


「鉱山内で煙草は吸えないんだよ。粉塵に着火すれば爆発の危険があるからね。こんな坑道のど真ん中に、紙巻き煙草の吸殻が落ちているなんておかしい」

「……これ吸ったの、作業員じゃないわね。見て、紙が真新しい。アピア、この鉱山が閉鎖されたのって、いつ?」

「……もう三ヶ月以上前です」

「鉱山が閉鎖されてるなら、粉塵も起きない。堂々と煙草を吸えるわ……間違いなく、ここに誰かいる。誰かが来ている」

「「「「…………」」」」

「確認するけど、あたしたち以外の冒険者が入った可能性は?」

「な、ないと思います……ムーン公爵様は、私たちに頼むと言いましたから」

「……決まりね。オリハルコン狙いの泥棒がいる。ロックワームを恐れず、堂々と鉱山を歩くことのできる実力者。たぶん、複数名」

「おいおいおい。犯罪かよ……オレらの手に余るんじゃねぇか?」

「……」


 レイは考えこみ、俺を見た。


「盗賊の数にもよるけど……奥で確認だけはした方がいいわ。四人以上なら手を出さず撤退。それ以下なら……あたしたちで仕留めるわ」

「仕留めるって、殺すのかよ」

「……身の安全を確保する場合。それと明確に命を狙われている場合、命を奪っても罰せられないわ」

「……マジかよ」

「できないなら援護だけして。あたしがやるから」

「ば、馬鹿言うな!! できるっての!!」

「……アピアは、無理しないでね」

「大丈夫です」

「リュウキ、あんたは?」

「問題ない。俺もやれる……それに、命を奪う心得は習った」


 それこそ、嫌と言うほどな。

 俺に戦い方を教えてくれた師匠たちは「命を奪うなら、奪われることを覚悟しろ」って言っていた。俺は、奪う覚悟も、奪われる覚悟もある。

 俺たちは全員で鉱山奥へ。そして、やはり落ちていた……紙巻き煙草の吸殻。

 それだけじゃない。鉱山の最奥は広い採掘場になっていた。


「───……撤退、か?」


 採掘場手前の入口で、青ざめたレノがポツリと呟く。

 採掘場再広場には、十五名ほどの人間がいた。

 レイは口を押さえ首を振る。喋るなということだ。


「…………?」


 俺は気付いた。

 広場奥に、檻がある。

 そこに、何人か女性が閉じ込められていた。全員、服を着ておらずがっくり項垂れている。

 察した───ここにいる連中、全員が男だ。そういうことか。

 すると、リーダー格らしき男が言う。


「チッ……おい、救援はまだか?」

「へい。そろそろだと思うんですが……」

「ついてねぇぜ。冒険者ギルドの連中、覚えていやがれ……オレら『ギガントマキア』を舐めた報い、テュポーン様とエキドナ様にお願いして、目にモノ見せてやるぜ」


 ギガントマキア……?

 すると、レイとアピアがギョッとしたのが見え、俺に向かって何度も首を振る。

 アピアも何かを知っているようだ。

 とりあえず、今は撤退───。


「───むぐ!?」

「動くな」

「「「「っ!!」」」」


 油断した。

 俺たちの背後から男が現れ、アピアの首を掴んでナイフを突きつけた。


「動くなよ? スキルも使うな。お前らがスキル使うのと、このナイフが嬢ちゃんの首かっ切るの、どっちが速いかわかるよな?」

「……くっ」

「おい!! ガキどもを捕まえたぞ!!」


 すると、広場にいた盗賊たちが全員こちらを見た。

 レノが左右を見て歯を食いしばっている。すると。


「カッ……」

「れ、レノ、っが」

「レノ、サリオ!!」


 レノとサリオが倒れた。いつの間にか背後にいた男が、人差し指で二人の首を突いた瞬間、二人はいきなり気絶し倒れた。

 なんだ、こいつ……強いぞ。


「殺したのか?」

「いや、眠らせた。無鉄砲なガキは面倒だからな。そっちのお前と、そこの女はなかなかやるようだ……まぁ、もう動けんがな。仲間を見殺しにはできまい」


 盗賊が、レノとサリオの身体を引きずり、鎖で縛り牢の近くへ転がした。

 レイは武器を投げ捨て両手を上げる。俺も、持っていた武器を全て捨てた。


「いやぁ!!」

「へへへ、動くんじゃねぇよ。おい、そっちの女も脱がしちまえ。男は……いいや」

「アピア「リュウキ、動かないで」


 アピアの服が脱がされていく。アピアは泣いていた。

 そして、レイも羞恥に耐えながら脱がされた。俺は顔を反らし、こみ上げる怒りと闘気を必死に押さえた……ダメだ。皆殺しにはできるけど、アピアたちが。

 俺は背中を蹴られ、広場へ。

 裸にされ、両手を拘束されたレイとアピアは、牢に入れられた。

 俺は鎖で両手を拘束され、レノたちの傍へ。

 そして、ガタイのいいスキンヘッドの男が、俺をジッと見ていた。


「さて、質問しよう。お前たちはなんだ?」

「……冒険者だ。鉱山を所有する公爵家の依頼で、この鉱山に住み着いている魔獣を退治しに来た」

「魔獣退治? ふふ、お前たちのような子供が? 笑わせる」

「……あんたたちは、何なんだ? 冒険者か?」

「冒険者? く、ははははは!! 我々は『ギガントマキア』……偉大なるテュポーン様と、エキドナ様に力を与えられた選ばれし者である。それと、魔獣?……ククク、魔獣とはこいつのことか?」

「……え」


 今、気付いた。

 広場の天井には、無数の穴が空いていた。しかも、穴の一つ一つがかなり大きい。

 リーダー格の男が口笛を鳴らす。すると……穴から、巨大な緑色の大蛇が現れた。

 でかい、でかすぎる。しかも、普通の蛇じゃない。鱗が鉱石なのか、濃い緑色のゴツゴツした鱗に包まれ、大きな口を開けると長い舌がシュルシュル出た。

 リーダー格の男は言う。


「エキドナ様にいただいたスキル、『マスターテイム』の力でモノにした魔獣だ。この大蛇は『大罪魔獣』の一体。『傲慢なる大蛇』ミドガルズオルムだ。ふふ、まさかこの鉱山をねぐらにしていたとは、組織にいい土産ができた」

「…………」

「まぁいい。少年、きみたち三人はミドガルズオルムの餌に、女は奴隷として売らせてもらう。恨むなら、きみたちをここに送った公爵家を恨むんだな」

「奴隷……?」

「ああ。西の地で見つけたエルフだ。くく、エルフはいい金になる」


 檻を見ると、若い女性たちがいた。

 よく見ると、女性は全員、耳が長い。

 そういえば、俺に弓を教えてくれた師匠もエルフだったっけ。

 さて……そろそろいけるかな。


「詰めが甘かったな」

「なに?」

「裸にして、両手を拘束して檻に閉じ込めれば安心か? 気絶させれば安心か? 鎖で拘束すれば安心か? 子供だから何もできないと思って安心してるか?」

「あぁ?」

「子供だと思って舐めるなよ───『龍人変身(ドラゴライズ)』」


 両手を拘束していた鎖がはじけ飛び、俺は変身した。


「スキルイーター、ストック……『樹龍闘気』」


 リンドブルムの闘気をセットし、地面に闘気を流し込む。

 すると、倒れているレノとサリオを包むように蔦が伸び、レイたちのいる檻に細い枝が絡みつく。これでもうこいつらは手が出せない。


「この、『獣化』だと!? お前ら、このガキを始末───……って、おい。その姿、まさかオブァ!?」


 俺はリーダー格の男をぶん殴る。男は吹き飛ばされ壁に激突した。

 すると、天井の穴から巨大なヘビ……ミドガルズオルムが現れ、大きな口を開け威嚇した。

 そして、十五人の盗賊たち。起き上がったリーダー格の男は、鼻血をダラダラ流しながら怒り叫ぶ。


「殺せ!!」

「やってみろ。さぁ……やろうか」


 レイとアピアを辱めて、レノとサリオを気絶させた報いを受けさせてやるよ。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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