表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/109

フリードリヒ・ムーン公爵

 パーティー当日。

 パーティーは夜からなので、日中は通常通り授業を受け、午後の部門別授業は休み、マーキュリー侯爵家へ向かった。そこで着替え、ムーン公爵家の馬車に乗って公爵家へ向かう。

 俺はメイドさんに着替えを手伝ってもらい、髪をセットしてもらう。

 そして、公爵家から来た迎えの馬車の前で待つ。


「お待たせしました」

「あ、ああ」


 アピアだ。

 水色のドレス、しっかりした化粧が何とも美しい。とても同年代とは思えない。

 俺は軽く深呼吸し、馬車へエスコートする。


「さ、どうぞ」

「ありがとうございます」


 馬車に乗り、ドアが閉まると……ゆっくり走り出す。

 目の前に座るアピアは、俺を見てにっこり笑う。


「リュウキくん、カッコいいですね」

「ちゃ、茶化すなよ」

「いいえ、本心です。ふふ」

「………」


 俺も気が利いたことを言えればいいのだが、なぜか言葉が出てこない。

 そもそも……今さらすぎるが、いいのだろうか。

 俺はアピアに聞いてみた。


「あのさ、アピア。マーキュリー侯爵……アピアの父親は、パートナーが俺で納得しているのか?」

「はい。私が選んだ相手なら構わないと。リュウキくんのことも知っていますよ」

「俺のこと? ああ……まぁ、元貴族だしな」


 苦笑すると、アピアも苦笑する。

 なんとなく聞いてみた。


「そういや、武器とか持ってるのか?」

「もちろん、ここに」

「ここ?───って!?」


 アピアはスカートをめくり、太腿をあらわにする。そこには、デリンジャータイプと呼ばれる装弾数二発の魔導銃が差し込んであった。そして、アピアはハッとしてスカートを戻す。


「や、やだ、私ったら」

「み、見てないから。その、変なこと聞いて悪い……」

「い、いえ」


 気まずくなった。

 その後は会話もなく、窓の外を眺めていると……キラキラ光る大きな屋敷が見えてきた。

 アピアは言う。


「見えました。あれが、ムーン公爵家。聖王国クロスガルドの二大公爵家の一つです」

「あれが……」

「そして、『真龍聖教』の信者です」

「……そっか」


 リンドブルムとも付き合いがあるんだろうか。

 最近のリンドブルム、枢機卿としての仕事が忙しいみたいで、なかなか会えないんだよな。

 そして、馬車は屋敷の前で止まり、ドアが開く。

 俺はアピアをエスコートする。腕を差し出すと、アピアはそっと掴んだ。


「じゃ、行くか」

「はい。リュウキくん、よろしくお願いしますね」

「ああ。では、アピア嬢、参りましょうか」

「まぁ。ふふ、はい」


 俺とアピアは、並んで公爵家へ歩きだした。


 ◇◇◇◇◇


 屋敷に入ると、パーティー会場まで案内され、大きなドアが開いた。


「マーキュリー侯爵家、アピア様。リュウキ様のご到着です」


 そう紹介され、貴族たちが一斉にアピアを見る。


「お美しい……」「誰だ、あの男は」「アピア様……」

「あの男、誰?」「おい、アピア様は婚約者がいないんじゃ」


 ヒソヒソ言われている。ああ……貴族ってこういうのが多いんだった。

 噂話大好き、影でコソコソ悪口、ありもしない話を捏造。

 アピアは、俺の袖を軽く引いて笑みを浮かべる。


「まずは、ムーン公爵様にご挨拶しましょう」

「わかった」


 ムーン公爵か……どんな人なんだろう。

 アピアに引かれて歩くと、笑顔で貴族令嬢たちと会話している、二十代くらいの銀髪の男性の元へ。

 俺とアピアに気付き、笑顔でこちらへ来る。


「やぁ、久しぶりだね。アピア嬢」

「お久しぶりです、ムーン公爵様」

「一年ぶりくらいかな? ふふ、子供が大きくなるのは早い」

「まぁ、ふふふ。ありがとうございます」

「ははは。ところで、そちらは?」


 ムーン公爵と目が合う。綺麗な顔立ちで、どこか中性的だ。

 見つめられると、何となくぞわぞわする。

 俺は一礼し、挨拶した。


「初めまして。リュウキと申します。アピア令嬢とは、学園の同級生で」

「そうか。ふふ、アピア嬢はいい子を見つけたね」

「はい、ありがとうございます」

「リュウキくん、でいいかな? きみは冒険者だね?」

「は、はい」

「うんうん。若い冒険者は国の未来を担う大事な人材だ。何か困ったことがあれば、いつでも声をかけてくれよ」

「あ、ありがとうございます」

「……ふふ」


 な、なんか距離が近い。綺麗な銀色の目が俺を見ている。

 ムーン公爵は、思いついたように手をポンと叩く。


「そうだ。お近づきしるしに、きみに依頼をしよう」

「へ?」

「ふふふ。稼げる依頼さ。若いとお金も必要だろう?」

「え、えっと」

「こ、公爵様?」

「アピア嬢、きみも一緒に……ああ、チームを組んでいるならチームで挑むのもいいね」


 い、いきなりすぎる。

 稼げる依頼……レイが喜びそうだけど。


「ムーン公爵家が所有するダンジョンに、面倒な魔獣が住み着いてしまってね。そいつを討伐してほしい」

「魔獣討伐、ですか? しかもダンジョン……」

「ああ。ダンジョンといっても、一階層しかない鉱山さ。あそこはいい鉱石が採れるんだけどね……魔獣が住み着いてしまい、今は採掘がストップしてる。近々、討伐隊を送ろうと思っていたんだけど、きみに任せよう」

「でも、俺はE級ですし……」

「ははは。大丈夫さ、それと報酬は白金貨一枚。それと、鉱山にあるオリハルコンを好きなだけ採取してくれ」

「…………オリハルコン? オリハルコン!?」


 ちょ、超希少金属じゃねぇか!! 

 俺でも知ってるぞ。オリハルコン……ほんのひとかけら、別の金属と混ぜるだけでもとんでもない硬度になる、伝説に近い金属だ。売れば白金貨どころじゃない。


「どうする、やるかい?」

「……やります!! いいか、アピア」

「はい。やってみたいです!!」


 こうして、俺とアピアはいつの間にか、貴族令嬢とその付き添いではなく、冒険者としてムーン公爵と話していた。


 ◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇


 パーティーが終わり、ムーン公爵ことフリードリヒは、自室に戻ってきた。

 だが、その部屋にはすでに誰かがいる。


「や、来てたのかい」

「ファフニール、意地悪だね」


 部屋にいたのは、アンフィスバエナ。

 フリードリヒが部屋に入るなり、どこか面白そうにクスクス笑う。


「あの鉱山にいる魔獣はいい。でも……あそこに隠れている連中のこと、言ってない」

「連中? なんだったかな?」

あの双子のドラゴン(・・・・・・・・・)の組織(・・・)、その構成員が隠れてる。放置されたオリハルコン鉱山、住み着いた魔獣もそいつらの仕業」

「ああー……そうなのか。ふふ、リュウキくんには悪いことをした。兄さん、姉さんの組織……なんだったかな?」

「『ギガントマキア』……双子の龍、テュポーンとエキドナを神として崇拝する組織。私、あの二人苦手なのよね」

「確かに。馬鹿な双子だ……リュウキくんに、消してもらうのもいい」

「自分でやらないの?」

「ぼくが動けば、上の兄さんと姉さんが動く。ぼくが厄介な存在だと、知ってるからね」

「ふーん」

「ま、ぼくは正体を見せるつもりはない。ふふ、アンフィスバエナ。見物でもしたらどうだい?」

「もちろん。面白そうだし見に行くよ」


 アンフィスバエナは、窓から出ていった。

 フリードリヒはソファに座り、開けっ放しの窓から夜空を見上げた。


「ふふ、楽しませてくれよ、リュウキくん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ