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追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~  作者: さとう
第五章

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スヴァローグ

 リンドブルムは、特別室でムスッとしていた。

 理由は簡単。ヴァルカン学園長が来賓の挨拶を無視し、試合を始めてしまったから。

 リンドブルムの周りには側近がいて、必死に宥めようとしている……どうやら、怒りで暴れないか心配らしい。当然、暴れるつもりなんてないが。

 すると、ヴァルカンが来賓室のドアを荒々しく開けて入ってきた。


「やぁっはっは!! すまんなリンドブルム。待ちきれず始めちまった!!」

「ヴァルカン、変わってない。相変わらずせっかち」

「がっはっは!!」


 リンドブルムは外見14歳くらいだが、数千年を生きるドラゴンだ。

 ヴァルカンのことも、子供のころから知っている。

 冒険者時代、ほんの少しだけ一緒にダンジョンで過ごしたこともあった。


「リンドブルム。お前最近、ガキを鍛えてるそうだな」

「うん」


 別に隠しているつもりはない。リンドブルムは素直に頷く。


「リュウキ。すごく強いよ。あと10年もしないうちに、わたしを超える」

「ほ、そりゃマジか? ワシよりもか?」

「ヴァルカンは、あと1年後くらい」

「がっはっは!! そりゃ楽しくなりそうだぜ!!」


 ちょうど、第一試合が始まった。

 拳を構えるリュウキに、相手はAクラスのエドワードだ。

 ヴァルカンは言う。


「ほう、あいつがエドワードか」

「知ってるの?」

「ああ。今年の1年坊は豊作でな……ユニークスキルを持つ者が二十人も入った。あいつはそのうちの一人で、16歳にしてA級冒険者だ」

「ふーん」

「なんだ、興味ないのか?」

「うん。リュウキのが強い。リュウキの課題は……どこまで手加減できるか」

「ああ?」


 すると、エドワードの様子が変わる。

 手足と顔に毛が生え始め、体格はおろか骨格も変わる。

 全長3メートルほどの、『狼男』に変身した。


「スキル『獣化』……あいつは、オオカミに変身できるユニークスキルの持ち主だ。スピード、パワー、攻撃力。すべてがA級。さて、どう出る?」

「大丈夫。リュウキは負けないよ」


 リンドブルムは、まっすぐ前を見て微笑んだ。

 ヴァルカンは頭をボリボリ掻く。この笑みを浮かべたリンドブルムが言ったことは、はずれたことがない。

 リュウキの戦いが始まった。


「がんばれ、リュウキ」


 リンドブルムは、静かに応援を始めた。


 ◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇


 聖王国クロスガルドに、二人の男女が近づいていた。

 一人は、真紅の髪と瞳を持つ十六歳ほどの少年。素肌の上に直接ジャケットを羽織り、身体にはファイアパターンの刺青が刻まれている。

 もう一人は、十七歳ほどの美少女だった。濃い青の髪は腰まで伸び、どこか気だるげな表情をしている。

 

「ケッ……あそこ、リンドブルムの国じゃねぇか。人間にペコペコしてる甘ちゃんのクソガキが……まさか、親父の力を独占しようとしてるとはな」

「……」

「おいアンフィスバエナ。テメェ、なんでついてきやがった?」

「……別に、なんとなくよ。安心して、わたしは力なんて望んでいないから。あなたのやりたいように、好きなようになさい」

「フン。いまいち信じられねぇが、邪魔しないなら見逃してやる」


 赤髪の男こと、スヴァローグは歩きだす。

 その後を、アンフィスバエナがゆっくりついて歩きだした。

 二人は正門をくぐり抜け……感じた。


「あのガキ……やっぱ隠してやがった」

「……ん、そうだねぇ」


 感じたのは、リンドブルムの闘気。そして、ほんのわずかに感じるエンシェントドラゴンの力。

 リンドブルムが、己の闘気でエンシェントドラゴンの闘気を薄めている……二人はそう感じた。実際には、リュウキが使える闘気が少なすぎるだけなのだが。

 スヴァローグの髪がチリッと燃える。


「あのガキ絞めて親父の力を奪い取ってやる」

「……やるなら、人間に迷惑かけないようになさい」

「あぁ?」

「それくらいは配慮なさいってこと。歴史や文化を破壊するのは容易いけど、ヒトの作るお酒飲めなくなるのは辛いわ……ね、お願い」

「……酒狂いめ」


 スヴァローグは、舌打ちをして歩きだす。

 己の闘気を隠さず歩いていると……二人の前に、小さなエメラルドグリーンの髪をなびかせた少女が立ちふさがった。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん……」

「よぉリンドブルム。久しぶりじゃねぇか」

「やっほ~」

「……何しに、来たの?」


 リンドブルムは、恐る恐る聞いた。

 すると、スヴァローグは手を差し出す。


「持ってんだろ? 出せ」

「……な、何を?」


 次の瞬間、スヴァローグはリンドブルムの眼前に移動し、顔を近づける。


「とぼけんな。親父の力に決まってんだろ」

「……っ」


 アンフィスバエナは動かない。

 そもそも、ここは人々の往来。人目に付きすぎる。

 それに……今は、リュウキが闘技大会で戦っている。


「リンドブルム。お前……オレに逆らうのか? なぁ? お前も末っ子ならわかんだろ? 兄貴には勝てねぇってことが」

「……ぅ」

「雑魚のお前が親父の力手に入れてどうする? その力で上の兄貴、姉貴をブチ殺すのか? お前に、弱虫のお前にできんのか? なぁ……無理だろ? だけどオレならできる。親父の力はオレら兄弟よーく知ってんだろ? 親父は死んだ。死んだんだ。オレらは自由なんだ。なぁ? 上の兄貴、姉貴たちがいつ力を手にしたいと考えるかわからねぇ。だったら……オレが持っててやる」

「…………」


 リンドブルムは、一歩後ずさる。

 だが、スヴァローグが一歩前に出た。


「お前が人間を、生物を愛してるのは知ってる。『慈愛翆龍(じあいすいりゅう)』なんて呼ばれてるくらいだもんなぁ? お前が逆らえば……ククク、オレの闘気が、この国を焼き尽くすぞ?」

「!!」


 すれ違う人は怪訝な目をするが、スヴァローグとリンドブルムには気付かない。顔を近づけ、仲良くお話しているようにしか見えない。さらに真龍聖教の枢機卿だとは気付かない。

 道行くのは冒険者だけじゃない。住人、子供たち、商人、学生と、いろんな人が通る。

 リンドブルムは、守らなくてはならないのだ。

 戦って守るのではない。従って、守るしかないのだ。


「ぅ……」

「これが最後だ。リンドブルム……あんまり、お兄ちゃんを困らせんな」


 ポンポンと、優しく頭を撫でられる。

 そして、その手の熱を感じ───……手を払う。


「……あ?」

「だ、駄目だよ……お兄ちゃん」

「…………」

「パパの力は、パパが……パパが最後に託した、人間の子が持つべきだと思う」

「…………」

「パパ、言ってた。力だけが本当の強さじゃない、って。わたし……あの子なら、リュウキなら、きっとパパの力を正しく使ってくれると思う。だから」

「───……!!」


 リンドブルムはスヴァローグに抱きつく。いや、羽交い締めする。

 そして、闘気を全開にして跳躍した。


「あーらら……あの子、あんなことするなんてねぇ」


 一瞬でクロスガルドから離れたリンドブルム。向かったのは、いつもリュウキと修業をした小島。

 そこに着地し、スヴァローグと距離を取った。


「……リンドブルム」


 スヴァローグの全身が燃える。闘気が《炎》となり、燃えている。

 スヴァローグの額に青筋が浮かび、赤い闘気が全身を包み込んだ。


「妹でも容赦しねぇぞ」

「……っ」


 リンドブルムは黄緑色の闘気を全開にすると、小島に生えている植物がぞわぞわ成長する。だが、スヴァローグの闘気により一瞬で燃えてしまう。

 いつの間にかいたアンフィスバエナは、つまらなそうに言った。


「殺しちゃダメよ」

「うるせぇ」


 スヴァローグがゆっくりと歩きだす。

 リンドブルムは、悲し気に言った。


「……ごめんね、リュウキ」

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
連載中です!
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