卒業式
俺は、鏡の前でしっかり制服を整えていた。
髪も少し弄り、自分の顔をしっかり見る。
「……よし」
「ふふ、さすがのリュウキくんも、今日はおめかししているね」
「そういうお前もな、マルセイ」
寮の同室であるマルセイも、しっかり決めていた。
今日は卒業式。俺たち三年生は学園を卒業する。
俺は部屋を見渡し、すっかり片付いた部屋を見て呟いた。
「……あっという間だったな」
「そうだね。リュウキくんはS級、ぼくはB級冒険者にまで登りつめた」
「ああ。ところで、お前はこれからどうするんだ?」
「ぼくは冒険者を引退して、ギルドで働くことが決まってる。むふふ、受付嬢のジュリアちゃんとの結婚が決まってね。もう危険なことはしないで、冒険者ギルドの受付として一緒に働くのだ!」
「そ、そうか。おめでとう」
「ああ。リュウキくん、結婚式には招待するから」
「あ、ありがとう」
マルセイ……こいつ、女にもてなかった一年生時代が噓のようにモテた。そして、ギルドの受付嬢といい感じになり、お付き合いを始め、まさか結婚までもっていくとはな。
まぁ、こいつが幸せなら俺も嬉しい。ずっと同じ部屋で、こいつの愚痴を毎日聞かされていたからな。
すると、マルセイは手を差し出してきた。
「きみに会えてよかったよ。ありがとう、リュウキくん」
「な、なんだよいきなり」
「もう、この部屋とはお別れだからね。ちゃんと挨拶しておきたくて」
「…………」
俺はマルセイと握手。
今生の別れでもない。だが、しっかりと応えた。
「俺も、お前に会えてよかったよ……ありがとう」
「ははは。ま、きみは冒険者を続けるんだろう? 一緒に食事したり酒を飲む機会なんていくらでもあるさ」
「そうだな……」
その未来を掴むために───……俺は、戦うんだ。
◇◇◇◇◇
講堂で、卒業式が始まった。
全員、制服だ。化粧をしている生徒もいる。
目立っていたのは、やはりレイ、アピア、アキューレだろうか。この学園最強のチームといっても過言ではないチーム《エンシェント》の仲間たちだ。
三人は並んで座り、前を見ている。俺は後ろだったので、その姿がよく見えた。
ヴァルカン学園長の話、来賓の話と続き、生徒代表の挨拶となった。
『それでは生徒代表挨拶。チーム《エンシェント》より、リュウキ!!』
「は?」
───……き、聞き間違い、だろうか?
俺が呼ばれたような気がした。
ヴァルカン学園長を見ると、なぜか俺に向かってウインクする。
隣に座っていたサリオが「りゅ、リュウキくん?」と困惑している……いや、俺のが困惑してるぞ!?
講堂内がざわざわし始め、仕方なく立ち上がった。
注目され、嫌々壇上へ。すると、ヴァルカン学園長が俺の背中を叩く。
『がっはっは! さぁさぁ、挨拶を!』
「…………後で全力でブン殴りますから」
『ガーっはっはっは!!』
こ、このオヤジ……くそ、まぁいいや。
俺は壇上から生徒たちを見渡す。
不思議と、緊張はない。むしろ……いい眺めだった。
『皆さん。今日、俺たちは……卒業します』
言葉も、何となく出てくる。
『冒険者を続ける人、引退し町で仕事をする人、学園に残り研究をする人、いろんな進路があると思います。俺は……仲間たちと、冒険者を続けます。この世界に存在する無数のダンジョン、まだ発見されていないダンジョンも数多く存在する……俺は、そんなダンジョンを攻略したい。まだ見ぬ冒険を求め、世界を見て回りたい』
エンシェントドラゴン……聞いてるか?
俺、強くなった。お前のくれた力で、世界を見に行ける。
『そのために……俺は、乗り越えるべき試練がある。俺の物語の最強の敵が、俺を待っている。俺は命を賭けて、そいつを超えなくちゃいけない』
バハムート、どこかで聞いてるか?
来賓席に座るリンドブルムは、まっすぐ俺を見る。
『聞いてるか、バハムート……決着を付ける。俺は、俺の人生のためにお前を倒す。お前を倒して───……俺は、俺の冒険を、俺の物語を続ける』
リンドブルムが立ち上がる。
なぜか、ムーン公爵も立ち上がる。
ムーン公爵が指示をすると、講堂の天井が開いた。
もう、言葉はいらない。
感じてしまった……あいつが、待っている。
『みんな、今までありがとう。この三年間、本当に楽しかった……『龍人変身』!!』
俺は変身し、翼を広げ……講堂から空へ向かって飛んだ。
感じる。
バハムート……奴が、俺を待っている!!