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強者として

「どらぁぁぁしゃぁぁぁ!!」

「ぐっ!? くそ、なんてパワー……!!」


 俺は両腕で、ヴァルカン学園長の斧を受け止めた。

 逃げることはしない。この学園長の真っ直ぐすぎる攻撃は、受け止めるべきだと思った。

 レイだったら「馬鹿なんじゃない?」って言うかもしれない……でも、俺は逃げたくなかった。


「『闘気精製』!! 〝黄金拳(おうごんけん)〟!!」


 両手を闘気の鎧で硬め、学園長の鎧を叩き割る。

 いい素材なのは間違いない。だが、今の俺の闘気は鋼鉄でも軽く叩き割れる。


「ごぼぉぁ!? ぐ、ハハハハハハッ!! 楽しいなぁオイ!! オレ(・・)よりも強ぇぇぜ!!」


 学園長が血を吐くが、嗤っていた。

 口調も変わっている。不思議と、若返ったように見えた。

 ああ、楽しいんだ……この人はきっと、戦いの中で生きてきたんだ。

 俺は拳を固め、息を吸う。


「学園長!! かかってきやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「う、おぉぉぉぉぉぁっはっはっはっはっはっはっはァァァァァァァァァァ!!」


 歓喜。

 嬉しくてたまらないのか、学園長は笑ながら斧を捨てた。

 拳を固め、『全身強化』だけを使う。

 上半身の鎧は砕けていた。なので、鎧下を破り捨て上半身を露わにする。

 鍛え抜かれた身体には無数の傷がある。筋肉が盛り上がり、密度が増す。間違いなく着ていた鎧よりも硬いだろう。

 ヴァルカン学園長が、大きく見えた。

 単純な強さだけではない『圧』を、俺は感じていた。

 応えるべきだ。この強さ、この思いに!!


「ふぅぅぅおぉぉぉぉぉ……!!」


 ヴァルカン学園長の魔力が膨れ上がり、『全身強化』に注がれる。

 間違いなく、スヴァローグよりも強い。

 人間最強。本当に……この人と、戦えてよかった。

 俺はヴァルカン学園長に合わせ、右腕に全力の闘気を込める。


「だらぁぁぁっぁぁぁぁっ!!」

「『龍人掌(ドラッケン)』!!」


 俺とヴァルカン学園長の拳が交差───先にヒットしたのは、俺の拳。

 ヴァルカン学園長は吹き飛ばされ、闘技場の壁に叩きつけられ気を失った。


「───……く、はは」


 最後に笑ったように見えたのは、きっと間違いじゃない。


 ◇◇◇◇◇


 学園長は、担架で運ばれていった。

 俺は右手を上げ、勝利を伝える……すると、闘技場内が爆発するような歓声で埋め尽くされた。

 

「「「「「リュウキ、リュウキ、リュウキ!!」」」」」

「「「「「リュウキ、リュウキ、リュウキ!!」」」」」

「ははっ……ど、どうも」


 手を上げて応えるが……これは、なかなか恥ずかしいな。

 もう、俺を馬鹿にする声は聞こえない。

 本当に、俺は……強くなった。強くなれた。


「───……いい、戦いだった」

「え?」


 次の瞬間、上空から何かが落ちてきた。

 黒い何かが、俺の隣に落ち……着地。

 それは、人間だった。

 黒い鎧、黒いマント、黒髪、黒目。

 二十代半ばの男が、いきなり落ちてきた。


「人間にも、あのような熱い男がいるとはな」

「……え、だ、だれ」


 目が合った瞬間、恐ろしい怖気に襲われた。

 

「───……ッッッ!!」

「まだ、弱いな。だが……これが可能性というやつか」

「あ、あんた……まさか!!」


 変身し、構えを取る。

 今さら気付いた。闘技場内も困惑している。


「最初は、半信半疑だった。なぜ弱い人間に力を与えたのかを……だが、確信した。人間には、オレたちドラゴンにはない《可能性》がある。強くなろうと、強くあろうとする気持ちか……学ばせてもらった。オレは、数々の可能性を、その手で摘み取っていたのだな」


 何かをブツブツ言う黒い男。

 そして、まっすぐ俺を見て言う。


「決めた。オレはもう、人間を殺さない。オレがさらなる高みに上るためには、人間を深く知る必要がありそうだ。ふ……ファフニールめ、あいつはこのことを知っていたのか? 食えんやつだ」

「あ、あの」

「貴様、リュウキと言ったか? 今のままの貴様では相手にならん。そうだな……《可能性》とやらの力を使い、強くなれ」

「え……」

「二年後。二年後に貴様に戦いを挑む。覚えておけ」

「…………」


 男はニヤリと笑い、右手を広げた。


「最後に、貴様の拳を見せてもらおう」

「……殴ればいいんだな?」


 俺は闘気を全開にして、右腕に込める。

 そして、男の右手を破壊する勢いで拳を叩きこんだ……が。


「いい拳だ」

「───……!?」


 男の右腕は、俺と同じ……鱗に包まれていた。

 漆黒の鱗、頭には黒いツノが生えていた。

 その右手が、俺の拳を受け止めていた。


「くくく、楽しくなりそうだ。ああそうだ……貴様、名は?」

「……リュウキ。俺はリュウキだ」

「覚えておこう。我が名はバハムート。親父に最も近い、この世界最強のドラゴンだ」


 バハムートは翼を広げ、飛び去った。

 

「…………」


 二年後───……俺は、あいつと戦うことになる。

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お読みいただき有難うございます!
脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。
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