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時計

作者: 杉谷馬場生

 「ああ、また僕は君に会えなくなる」

長針の私はゆっくりと離れていく。その約一分間の逢瀬は幸福に満ち溢れた分、ただでさえ短いのに余計に短く感じるのだ。

「また会えるわ。1時間後にまた会えるわ」

短針は私に比べて前向きなようだ。嗚呼、あんなに朗らかな前向きな短針とずっと一緒にいられたらいいのに。そしてずっと一緒にいられたら…

しかしこの世界は二人だけのものではない。1分ごとに通り過ぎる邪魔者がいる。秒針だ。

「へいへい兄さん!元気出しなさいよ!」

私が一人の時はまだ良い。しかし1時間に一度の短針との逢瀬の時にも奴は通り過ぎる。

「へいへい!お二人ともお熱いことで!」

奴は秒針でこの世界は時計で私は長針で彼女は短針なので1分ごとに通過するのは仕方がないことだ。しかしいつも一言言ってくる。黙って通り過ぎないものか。秒針のやつにはほとほと困っている。

そう思っているとまた秒針が近づいてきた。今度こそ言ってやろう。

「へいへい兄さ…」

「君は少しは黙れ…」

言い切る前に通り過ぎてしまった。遠くで「そうは言っても兄さん…」と声が遠のく。どうせ1分後にはまた言うのだ。

そう思っているとまたやってきた。「兄さんオイラも寂しいんですぜ!」

そう言って過ぎ去っていった。そうか。この世界は3人だけの世界だ。みんなそれぞれに寂しさを持っているのだ。みんな孤独なのだ。

また秒針が来る。私は「悪かったよ」と言う。秒針は何も言わなかった。しかし1分後に「オイラも喋りすぎました。兄さん」と言って通り過ぎたので1分後に「私も悪かったよ」と言い返した。

そうして秒針との1分ごとの会話を暫くしていると短針の真反対の場所にたどり着いた。1時間に一度訪れる、彼女と一番離れた場所。寂しさも一番募る。

秒針が「寂しいですね」と言ってくる。1分後には「姉さんも寂しがってましたぜ」と短針の報告をしてくれた。そうして私は短針に会えるまでのあと30分に希望を見出した。

やがて15分が経過した。短針との距離は90度となった。なんとなく短針の顔が見えるような気もしたがまだかろうじて見えない。秒針が「もうちょっとですぜ!」と声をかけてくれる。1分後には「あと14分!」と言って去っていった。

そして秒針がカウントダウンをしながら時間が過ぎていく。あと5分。4分。3分。2分。

あと1分。彼女の顔はもうすぐそこだ。

そして秒針が「ごたーいめーん!」と囃し立てて去っていった。私は「ようやく会えた」と短針に伝えた。しかし短針は浮かない顔だった。

「秒針がね…」

「秒針がどうしたんだい?」

「秒針がすれ違うたびに私に告白してくるのよ」

「なんだって⁉︎」

「あなたと会えるまでずっとよ!毎回毎回」

「あいつ、そんなこと一言も言わなかった!」

「本当に毎回毎回…」

「それは嫌だったろうね」

「そんなに毎回いわれたら…」

「え?」

「あなたよりも会える回数も多いんですもの」

その時秒針がやってきた。「兄さん、じゃあ、そう言うわけでして」

「さよなら。また1時間後」

私は孤独になった。

 

 

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