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それからの数日間は、とても過ごしやすいと感じていた。
メイド達も好意的で、彼も最初の暴君ぶりが嘘のように紳士的になっていた。
これなら、姉もきっと心穏やかに、そして幸せに過ごすことができるだろう。
そう思うも、肝心の間宮家からは連絡の一つもなかった。
もう少しで一週間が来てしまう。
そんな焦りから家の者の目を盗んで、間宮家に電話をかけるも、姉は未だ行方知れずのままという情報しか告げられなかった。
――弱った。
さすがに正体を知られたら、只事ではすまなくなる。
母が倒れたと嘘をついて一度、家に帰らせてもらうことにし、その途中で人さらいに遭ったとでも嘘をつこうか。
そうして自分は睦月に戻り、今まで通りの生活を送る。
間宮家の再興は叶わずも、東雲を怒らせて地に落ちるよりは幾分マシかもしれない。
そんなことを思いながらフラフラと歩き、思わぬ段差に躓きそうになった時に、背後から強い腕が自分を支えた。
その自分を助けた、大きな掌は丁度胸に当たっていた。
そう、東雲琢磨の大きな手だ。
初日こそしていたブラジャーも詰め物も、油断している今はしていなかった。
サーッと血の気が失せる音がする。
そっと振り返ると、彼も大きく目を見開いていた。
「……お前」
彼は勢いよく、こちらの手を引き、すぐ近くにあった洋室のドアを開けて乱暴に自分を部屋に入れて鍵をかけた。
明らかに不審感に満ちた目でこちらに歩み寄り、グッとこちらの襟をつかんだかと思うと、勢いよく引き裂いた。
ボタンが弾け飛ぶ。
露になった男の胸に、彼は大きく目を見開いた。
「……男?」
信じられない、という様子で漏らした彼に、もう弁解の余地もない。
僕は大きく息を吐き出した。
「ああ、すまない。僕は君が見初めた東雲弥生の弟だ。
姉が駆け落ちしてしまい、彼女をつれ戻すまでの間、時間稼ぎの為にここに来た」
彼はまだ呆然としていた。
ショックが大きいのだろう。
「必ず姉は連れ戻す。どうか、もう少し待って……」
そこまで言いかけると、
「ふざけんな!」
と彼は声を荒げた。
「君の怒りは最もだ。心から詫びる」
僕が深く頭を下げると、彼は手首をつかんで勢いよくベッドに押し倒した。
「そう思っているなら、相手しろよ。……姉の身代わりなんだろう?」
琢磨は顔を歪ませながら、顔を覗き込む。
彼のおさまりつかない怒りが痛いほどに伝わってきた。
「……本当に君の怒りは最もだ。好きにしていい」
目を伏せてそう言うと、彼は大きく目を見開いた。