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軋むベッドの上で、声を上げながら四つん這いになり、彼の律動に身を任せる可愛らしいメイドの由加。
「た、大変です、弥生様が」
慌てたように言う彼女に、
「そう言いながら、興奮してるんだろう?」
楽しげに笑う東雲琢磨。
呆然とその光景を見ていると、彼はこちらを見て「何か?」と嘲笑うようにこちらを見た。
「それはこちらの台詞だと思いますが?」
「今夜はお前を抱く気でいた。
そのアテが外れたんだ。他を当たってもいいだろ?なぁ、由加」
琢磨は不敵に微笑んで、彼女を攻める。
彼女の甘い声が部屋に響く。
「……婚約者がいる隣の部屋で他の女を抱くなんて、ありえない話でしょう」
睨みながら腕を組んだ僕を前に、彼は鼻で笑った。
「何を言ってるんだよ?
お前は所詮、俺に買われただけだ。自分の立場をもっと自覚したらどうだ?」
呆れ切って僕は深い息をついた。
「実際、そうなのかもしれないな。
間宮弥生は君に買われただけなのかもしれない」
そう告げると、彼は眉を顰めてこちらを見る。
「だが、それでも二人は『伴侶』になるんだ。それは人生を共にするということ。君は一生、人生のパートナーを金で買ったなんて言い続けるつもりか? より良い家庭をと思うならば、最低限のルールも必要だろう。これは明らかにルール違反だ」
これから、この家に入る姉の為に、しっかり言っておかなければならない。
最低限、身内としての役目。
彼は、何も言わずに面白くなさそうにこちらを見ている。
「君がやっていることは、子供のあてつけと一緒だ。もう少し大人になるように。そして、今日のところは見なかったことにしよう。まさか、行為を途中でやめろとまでは言わない。そのまま続けていい」
僕はそう言って踵を返し、寝室を後にした。
ったく、なんて男だ!
自分の部屋に戻るなり鍵をかけて、カツラを投げ捨て、ベッドに飛び込んだ。
やっぱり自分が先に乗り込んでいて良かったのかもしれない。
そう思いながらバクバクと鼓動が打ち鳴らす。
思えば書物で見知っていたものの、実際に誰かの行為を目の当たりにするのは初めてだった。
昼間、可愛らしく微笑みながら自分に屋敷を案内していた彼女が、まるで獣のように乱れていた。
自分が部屋を別にしてほしいと打ち明けた時に、ホッとした表情を見せたのはこのせいだったのだろう。
それでいて自分の前で笑みを絶やさなかった。
これだから女は怖い。
そう思った瞬間、懐かしい少女の姿が脳裏を過った。
――佐和も、あんな風に乱れるのだろうか?
愛らしい笑顔で、まだまだあどけない幼さが残っていた佐和。
彼女も夫との行為に、あんな風に乱れるんだろうか?
目頭が熱くなるのを感じ、かぶりを振って枕に顔を押し付けた。
姉は今頃どうしているのだろう?
愛しい人と束の間の幸せに酔いしれているのだろうか?
そして自分は、やはり同じ苦しみを姉に強いろうとしているのかもしれない。