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9話 ロワイアントナーガ国

 異世界リゼラミアに来て三日が経ち、ようやく長い森を抜け出せた。


「やっと森から出られた」


 開放感から、思わず声を張り上げた。

 木といい水といい、ラムラグの森の自然はとても綺麗だったが、さすがに三日間同じ景色で、誰とも会わないのは辛い。


 見慣れた森の景色が終わり、今度は草原が広がっていた。 

 少し先には、城らしき高い建物、それを取り囲むように街も見える。


 まだ、日は暮れていないが、今から歩いてあの街に着く頃には一度日が沈むだろう。


『ウルク、お疲れさまでした。あと少しですね』


『アリーセス、ここまで、案内ありがとう』


『お役に立ててよかったです』


 アリーセスがいなかったら、完全に遭難していただろう。

 ……もっとも、森の中に召喚したのもアリーセスなのだが……


 僕は苦笑する。


 ◇ ◇ ◇ ◇


『日も沈んでいるのに、まだ、こんなに人が出歩いているんだ』


 森を出てしばらく歩いた後、無事に目指していた城下町に到着した。

 日は沈んでいるため、街灯がともり、街の様子が照らし出されている。


 行き交う人々。

 ……いや、人だけじゃなくて、獣人もいる?


『リゼラミアには、獣人もいるんだね?』


 ほぼ人間の姿と同じだが、獣耳が頭から生えている獣人も歩いていた。

 耳の形は猫のような形からウサギのような形の耳まで多種多様だった。 


『あ、それには事情がありまして……』


『事情?』


『獣人は私が創造したのではなく、魔族によって作られた、人間と獣の嵌合体キメラなんです』


『……嵌合体キメラ?』


『人間と戦わせるために嵌合体キメラとして獣人が作られたのですが、過去の勇者達によって多くの獣人が解放されました。今は人間とも共存しています』


 ………共存………

 そう簡単にいくのだろうか?


『元々が敵だったってことは……。やっぱり、人間からは嫌われているんじゃない?』


『……はい……。特に、魔王軍に家族を殺された人々は、獣人達を嫌っている傾向があります……』


 ……意図せず生まれてしまった獣人を、アリーセスはどう思っているんだろう……


『……そうですね……、……最初は獣人化させられた人間と動物のことを悲しく思いましたが、生まれてしまった以上は、私が創造した存在として大切にしたいと思いました……」


『………………』


 ……言いよどんだということは、受け入れるのに相当な葛藤があったのだろう……


『えーと、お金がないと宿にも泊まれないし、まずは憲兵に宝石を届けないとね』


 これ以上話を続けても、重い雰囲気が続きそうだったので話を切り替えた。


『はい、では、一番近くの憲兵隊支部に案内します』


 ◇ ◇ ◇ ◇


『ここが憲兵隊支部です』


 アリーセスに案内されて、ロワイアントナーガの憲兵隊支部に到着した。


『そういえば、盗難品を届けるということは書類を書くこともあるんじゃないかな? 僕はリゼラミアの文字が書けないんだけど……』


 ……一から学ぶのは、相当大変だ……


『それは大丈夫です。リゼラミアの元々の文字もありますが、勇者の大半が日本人だったため、日本語も公用語になっています』


『……そうなんだ……』


 ほっと胸を撫で下ろす。

 よく考えたら、精霊との会話も普通に日本語でしていた。


 ……というか、過去に来た勇者たちは日本人が大半だったのか……


 コンコン!


 頑丈そうな扉をノックした。


 ガチャ!


「どうされましたか? 取り敢えず、こちらへどうぞ」


 事務の制服を着た女性が扉を開けてくれて、カウンターへと案内してくれた。


「どういったご用件でしょうか?」


「実は、森の中で、盗賊が集めたと思われる宝石を見つけましたので、届けに来ました」


「あ、そうでしたか。それは、どのような宝石でしょうか?」


「はい、これらなんですが」


 魔法の袋に手を入れて、全ての宝石を出した。


「ああ、魔法の袋ですね」


 受付の女性は袋の大きさより、多い量の宝石が出て来たことに一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに魔法の袋だと理解した様子。


「盗品を持って来ていただき、ありがとうございます。謝礼をお渡ししたいと思いますが、量が多いため、鑑定に少し時間がかかりそうです。一時間後に、またこちらに来ていただけますでしょうか?」


「分かりました」


「では、こちらの書類にお名前をお願いします」


 渡された書類には、広く空いたスペースがあり、ここに名前を書かないといけないようだ。

 それもフルネームでって、苗字?


『そういえば、苗字を聞いてなかったんだけど……』


『……苗字ですか……何がいいですかね……』


 アリーセスが創造主らしからぬたじろいだ反応を見せた。


『え、知らないの? ……というか、今、決めようとしてない?』


 ……まさか、ウルクって名前も本名じゃないのか?……


『申し訳ありません。実は、ウルクという名前も、私が思いつきで付けました……この世界に来た時に記憶喪失になっているとは思いませんでしたので……』


『……そうだったのか……』


 ……まあ、元々いた世界の記憶もない以上、とりあえずはウルクでいいけど……


『どうして、最初にあたかも名前を知っているかのように振舞っていたの?』


『……申し訳ありません、そこは、創造主としての威厳いげんを保ちたかったといいますか……』


 思わず、笑ってしまう。

 

 ……リゼラミアの創造主なんて言うから距離を感じていたが、意外にも人間っぽいところもあるんだな……

 名前も思いつきとは言っていたけれど、もしかすると思い入れのある名前なのかもしれない。


「どうかされましたか?」


 受付の女性が、怪訝けげんな表情をしている。

 ……一人で突然笑い出した危ない人に見えたに違いない……


「あ、すみません、すぐに書きます」


 “危うく不審者”、危ない、危ない。

 

 結局すぐに苗字が思いつかなかったため、“ウルク=アリーセス”と書いた。


「ウルク=アリーセスさんですね。ありがとうございます」


『私の名前にしたんですね』


『……考える時間がなさ過ぎて、アリーセスの名前しか出てこなかったよ……』


 どうせ、自分以外は知らない名前だ。


「では一時間後に、再度来ていただけますでしょうか?」


「分かりました」


「今回、承ったのは、ラムネシア=シーレンです。ありがとうございました」


 よく見ると、彼女の上着の胸元に名札があり、名前が書かれている。

 ラムネシアさんがお辞儀をしたので、僕もお辞儀を返してから退出した。


「よし、これで、お金が入ったら宿を探して、美味しい物でも食べに行きたいな」


『はい、ウルクのいた世界にはない、リゼラミア特有の美味しい食べ物もありますので、楽しみにしていてください』


 確かに、経緯はどうあれ、滅多なことでは体験できない異世界生活。


 ……アリーセスに、後でお勧めの飲食店でも教えてもらって、しばらくは異世界生活を満喫したいな……

 

 ようやく森から出ることが出来たのだ。

 元居た世界では味わえないような物を食べてみたりと、異世界リゼラミアならではの楽しいことをこの街では見つけていきたい。


 お金が入った後にしたいこと色々とを考えていたからか、僕の足取りは自然と軽やかになっていた。

「無事にラムラグの森から出られてよかったですね、ウルク。ようやくロワイアントナーガ国に辿り着きました。もちろん、獣人族も愛していますよ。……名前は……、見栄を張って、すみません……。私が創ったリゼラミアには楽しいものもたくさんありますよ。みんなに喜んでもらいたいと思って創った世界なので、ウルクもぜひ色々と体験してみてくださいねw」


次回、「魔人と大剣使い」


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