6話 魔法
『そういえば、さっき、魔術って言葉が出てきたけど、この世界の魔法って、どういうものなの?』
リゼラミアの魔法が、僕の知識として知っている魔法と違う可能性があるので、アリーセスに確認をしておきたい。
『はい、この世界には、まず魔法と魔術が存在しています。魔法には、昨日ウルクが実際に行った精霊魔法、自然界に潜む神力を借りて使う魔法、身体の中にある神力を使う三つのタイプの魔法があります』
マナという言葉は何かの本に書いてあった覚えがある。
『そして、魔術ですが、“知恵の勇者”が発見した理論によると、一つは、悪魔の力を借りて使う魔法のようなものです。また、“魔の霧”から魔力を借りて使う魔術、身体の中にある“悪の種”から魔力を引き出して使う魔術があります』
うーん、詳しく説明するとそういう説明になるんだろうけど……
要は、
『簡単に魔法と魔術の違いをまとめると、アリーセス側の力と魔の勢力側の力の違いってことかな?』
と確認した。
今は単純に理解しておけば十分だろう。
『はい、その解釈で間違ってはいません』
知識としては、なんとなく分かったけど。
魔法と魔術がどのようなものかは、実際に見てみないと分からなさそうだ。
『いつ魔獣が出るか分かりませんので、一度、戦闘時の精霊魔法も体験しておいた方がよいかもしれませんね』
……また、心を読まれたようだ。
『ぜひ、お願いします』
戦闘というのは気がすすまないが、やるしかないだろう。
僕は意を決した。
『では、二人の精霊を呼んで下さい』
「わかりました。ファイ、ミューリ出て来てもらえる?」
二人の精霊がすぐに姿を現した。
「「お呼びでしょうか?」」
「戦闘時の精霊魔法を、実際に使ってみるってことで、呼んだんだけど」
「そうでしたか、それでは、まず、火の精霊魔法をお見せいたします」
ファイはそう言うと、自分の右手の指先に火を集め、火の玉をつくった。
その火の玉を、十メートルほど離れた位置にあった大木へと放つ。
ドーーーン!
火の玉が大木にぶつかると、大きく爆音を響かせて、大木が燃え上がった。
「おお、凄い威力!」
精霊魔法の威力に、素直に驚く。
「いえいえ、私は下位精霊ですので、中位・上位精霊の精霊魔法は、もっと威力があります」
「え……、これで下位精霊なの?」
「私も下位精霊ですよ」
ミューリが水の精霊魔法で、大木の火を消化しながらそう言った。
「そうなんだ。どうすれば、中位や上位になれるのかな?」
「精霊使いの神力が上昇すると、一緒にいる精霊も自然と昇位していきます」
ミューリが続けて解説してくれた。
「ということは、僕次第ってことか……」
僕自身が強くならなければいけない。
……中位や上位にまで精霊を昇位させるには時間がかかりそうだ……
無意識に苦悩の表情を浮かべていると、
「ふふ、頑張って下さいね、ウルク様」
と言って、ミューリが大きな目を細めてほほえんだ。
……可愛い。
小人になっているということもあり、小動物を見ているような感じで癒される。
特にミューリには大きな目といい、屈託な話し方といい、小動物の要素が強い。
「じゃあ、ミューリのためにも、頑張って強くなるよ」
僕は純粋に思ったままのことを言った。
「あ、ありがとうございます……。……そう言っていただけて嬉しいです……」
何故か、ミューリが恥ずかしそうにそう言った。
「でも、水で戦うってイメージがあまりないんだけど、例えばどんな風に攻撃出来るのかな?」
ファイの火の玉は分かりやすかったが、ミューリの水の精霊魔法はどんなものなのか。
「そうですね、例えば、こんなことも出来ますよ」
ミューリの周囲に無数の水が集まり、その水が尖った氷へと変化した。
「はっ!」
先ほどの可愛い表情からは想像出来ないほどの気合を込めたようなミューリの声に合わせて、周囲に集まった無数の氷が放たれる。
ズドドドドド!
ファイが燃やした大木の奥にある木々に、無数の氷が突き刺さった。
……痛そうだな……
もし、あの氷が自分に刺さったら……と、想像してしまった。
よし、ミューリは怒らせないようにしよう。
『というか、これで下位精霊って、万が一僕が勇者を決意したとしてもすぐにやられちゃう気がするんだけど……』
アリーセスに、思ったことをそのままぶつける。
『それに関しては心配いりません。精霊を召喚している間は、精霊を通して自然界の神力が、ウルクを護ってくれますので。例えば、先ほどと同等の攻撃をウルクが受けたとしても、ほとんどウルクにはダメージがありません」
『さっきの攻撃を受けても、ほとんどダメージにならないの!?』
……致命傷レベルの攻撃だったが……
『はい。更に申し上げますと、自身が使っている精霊の属性と同じ魔法に関しては、ウルクに届く前に中和されていきますので、ダメージは更に軽減されます』
……こればかりはアリーセスの言葉とはいえ、疑ってしまうな……
さっきのような攻撃を受けたら、普通は大ダメージ。
……一度、確認しておかないと……
『それでしたら、一度、体験してみますか?』
またしても心を読まれたようだが、だんだん気にならなくなってきていた。
アリーセスとの会話は、そもそも心でしているのだから、心を読まれたとしても大した違いはない。
『……はい、お願いします……』
僕は気になることがあると、確認しておかないと気が済まない性格だ。
どうなるか分からない恐怖感はあるが、しっかりと確認しておきたい。
「ミューリ、さっきの氷を尖らせずに、勢いを弱めて、僕の左手を狙って欲しいんだけど」
僕は右利きだ。
万が一中和されなかったとしても、これから森を出るのに、それほど支障のない箇所を指定した。
しかし、ミューリはやや当惑したような表情で言った。
「……構いませんが、まさかウルク様に、そのような指向があるとは……」
「え?」
「あ、いえ、何でもありません」
……何か、誤解されたような気もするが……
まあ、いいか……
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
「では、いきます」
ミューリによって作られた氷の塊が、勢いよく、僕の左手に向かって飛んで来た。
左手にぶつかって――
「いたっ、……くない……!?」
視覚的には氷の塊が僕にぶつかったように見えたが、まったく痛みはなかった。
無事に中和されたのだろう。
「……これは、凄いな」
攻撃が中和されない場合の強さは、どれくらいなのか。
また、違う属性の攻撃は、どれくらい防ぐことが出来るのか。
まだまだ検証は必要だが、間違いなく、この異世界リゼラミアで生き抜いて行くのに必要な能力だ。
「ミューリ、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
『そういえば、精霊を呼び出している間、何か身体に負荷はかかったりするの?』
アリーセスに話を戻した。
『いえ、特に負荷はありません』
あっさりとアリーセスは答えた。
『え、そうなの?』
さっきから話に出ている、神力を消費するのかと思ったけど、違うのか?
『精霊は自然界の長として、元々自然界に存在しています。そのため、精霊を呼び出していることで身体に負荷がかかることはほとんどありません』
『なるほど』
精霊は僕が生み出した存在ではないし、神力を使って召喚するわけでもないので、僕自身の神力は消費しないということか。
『ただし、精霊が魔法を使う時は、精霊自身の神力を消費します。また、精霊自身を魔法に変えて、攻撃をする場合は、その精霊使いが神力を消費します』
精霊自身にも神力があるんだな。
『因みに、常に精霊を出しておいた方がよいのではと思われるかもしれませんが、精霊使いは魔族からすると天敵のため、ウルクが狙われやすくなる恐れがあります。そのため、日常的に精霊を呼び出しておくことはお勧めしません』
アリーセスが忠告する
攻撃から身を護ることは出来るが、敵の的にもなりやすいということか……
戦闘直前に呼び出す方がよさそうだ。
……これで、この世界の魔法に関して、大まかには理解出来たのかな……
特に精霊を呼び出している間、神力によって護られるという話は目から鱗だった。
生身の肉体では魔族どころか、お腹を空かせた肉食動物に遭遇しただけでも、命の危機に関わる。
実戦でどれくらいの有効性があるのかは、まだ分からないが、自身を護る手段が増えたことは確かだ。
……しかし、この世界で、精霊の力は本当に絶大だな……
そんな精霊を二人も授かっていることに、僕は優位性を感じていた。
「ふふ、初めての魔法体験に、ウルク、いっぱい驚いたみたいw ……それにしても、“知恵の勇者”には頭が上がらない……。私が探れなかったことを、危険を冒しながら、たくさん探ってきてくれた……。……本当にありがとう……。はい、ファライアとミューリアスの存在は、きっとウルクにとって大きな助けとなりますよw」
次回、「魔獣」
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