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47話 いつの間にか異世界の勇者になってしまっていたのだが

 玉座の間をおおっていた光が消えると、そこに魔獣ヴァグリアの姿はなかった。


 ……魔王十二将ヴァグリアとして行ってきたことが、なかったことにはならないとは思う……


 でも、アリーセスがリゼラミアに存在している全ての人の幸せを願っていると僕だけが知っている。

 だから。


 ……グリアの魂にも救いがありますように……


 アリーセスの代わりに、僕はそう祈った。


「や、やったー! やったね、ウルク!!」

「さすがです。ウル……」

「……何とか倒せたみたいですね。お兄さん」


「うわっ!」


 ラミーニアが飛びついて来たので、思わず声を上げる。

 その反対側から、サーフィアが僕の背中に抱きついた。

 ミリーは疲れ果てた様子で、ジト目で僕を見ている。


「……ようやく終わったよ……、ミーシャ」


 ジークスが神位精霊となったミーシャにささやいた。


「……長い戦い、お疲れ様でした……」


 ミーシャは微笑ほほえみながら、ジークスを言葉で慰労いろうする。


 ……元婚約者というよりは、完全に夫婦だな……

 って、精霊とはいえ、もしエミーにこんなところ見られたらまずいんじゃ……


『……詳しくは言えませんが、大丈夫ですよ』


『え? そうなの?』


 ……元婚約者が持ち精霊としていつも一緒にいるとか……、どう考えてもエミーは複雑だと思うんだけど……

 アリーセスがそう言うのであれば、大丈夫なのだろうと思うことにした。


「……それにしても、お兄さんが、まさか勇者だったとは思いませんでしたよ……。どうして言ってくれなかったんですか?」


「え?」


「……それって、どういう反応ですか? お兄さんは勇者なんですよね?」


 ……確かにアリーセスのために戦うとは決意したけど……、それって勇者になったってことなのか?


「……たぶん……」


「たぶんって……、まあ、お兄さんらしいと言えばお兄さんらしい回答ですが」


 そう言って、ミリーが笑っている。


「そうは言っても、創造主と会話が出来て、“聖戦の誓い”を発動して、ミーシャを神位精霊に昇位しょういさせて、勇者だけが使える起源オリジンまで使っていたら、それはもう勇者だろう」


 ジークスが会話に加わる。


「……そう言われるとそうなんだけど……、正直、自覚があまりないというか、何というか……」


 正直、それはアリーセスの力であって、自分の力ではない。

 勇者と言われるのには、やはり少し抵抗がある。


「それなら、勇者の見習みならいというのはどうですか?」


 僕がスッキリしない様子でいると、ミリーがそう提案した。


「勇者の見習い?」


「もちろん、私はお兄さんが勇者だと思っているのですが、お兄さん自身がそう思えていないのでしたら、今は勇者の見習いで、これから少しずつ勇者として自覚していくというのはどうかと思ったのですが……」


 ガシッ!


「……ミリー……」


「お、お兄さん?!」


 僕は思わず、ミリーの両手を掴んでいた。


「そう、勇者の見習い!」


 アリーセスのために、いつか勇者と呼ばれるくらいの偉業いぎょうを成しげたいとは思っているが……

 まだ勇者と言われるほどの実績を立てていないし、何よりも僕自身が勇者と言われていることに納得が出来ていない。


 とはいえ、アリーセスの力を借りて、勇者しか使えないという魔法を使えているのも事実。

 ちょうど、そう思っていたところだったので、“勇者の見習い”という言葉は、魔法の言葉のようにも聞こえた。


「ありがとう、ミリー! モヤモヤしていたことが、今スッキリしたよ!」


「……あ、いえ、喜んでもらえて良かったです……」


「………………」


 バッ!


 ミリーが目を丸くしているのを見て、僕はとっさに手を離した。


「……あ、ごめん、つい……」


「……いえ、大丈夫です……」


 ミリーが恥ずかしそうにうつむいている。


 ジーーーー!!


 気がつくと、ラミーニアとサーフィアが至近しきん距離でミリーと僕をジーっと見ていた。


「「うわっ!!」」


「……なに二人で楽しそうに話をしているんですか?」

「……もしかして、ミリタニアもウルのこと……」


「違う、違うよ! お兄さんのことは、全然、全く何とも思っていないから!!」


 二人に疑われて、ミリーが慌てて否定する。


 ……いや、勘違かんちがいをきたい気持ちは分かるけど……

 そこまで露骨ろこつに嫌がらなくても……


「……本当ですか?」 


 サーフィアが念を押して聞いてきた。

 

「本当だよ。二人の恋路こいじを邪魔するつもりなんてないから安心して……」


「「恋っ?!」」


 ミリーにそう言われて、ラミーニアとサーフィアは顔を真っ赤にしている。


「……お兄さんも罪な人ですね……。こんなに可愛い子達に二股ふたまたしてるなんて……」


「……いやいや、二股なんてしていないから、そもそも告白だってしていないし……って……」


「「え?」」


 ラミーニアとサーフィアがそう言って固まってしまった。


「……ということは、お兄さん、どちらかに本命ほんめいがいるということですか?」


 ミリーがニヤニヤしながら聞いてくる。


 ……あ、これは、言い間違えたの分かってて、聞いてきてるな……


「あ、違うよ、言い間違えただけで……」


 そう言って言い訳をしようとするが、肝心かんじんのラミーニアとサーフィアは呆然ぼうぜんとしていて、声が届いていない様子だった。


「見苦しいですよ。お兄さん」


 ……楽しそうだな、ミリー……

 そう胸中きょうちゅうで呟きながら、僕は溜息ためいきをついた。

  

『……それにしても、アリーセスの思惑おもわく通り、いつの間にか勇者になってしまっている気がするんだけど……』


『……え、何のことでしょうか?』


 アリーセスがわざとらしく知らないふりをしたので、クスっと笑ってしまった。

 

 ……姿は見えないのに、いつの間にかアリーセスの声だけで雰囲気が分かってしまうようになったな……

 それだけ、アリーセスとの関係が深まってきているということなのだろう。

  

『……まあいいや……、まずは勇者の見習いとして頑張るけど、いいかな?』


『もちろんです』


 アリーセスは迷いなくそう答えた。


『それじゃあ、これからもよろしく、アリーセス』


『はい、こちらこそ、よろしくお願いします、ウルク』


 アリーセスに身体はないが、優しく抱きしめられたような、そんな感覚に包まれる。


 ……記憶もない中で、ここまで何とかやってきたけど、アリーセスや仲間達と一緒に頑張れば、この先も何とかなっていくに違いない……

 そんな風にも思えた。 


 楽しそうに勝利を祝っている仲間達の姿を見ながら、僕は微笑びしょうして感慨かんがいにふけっていた。

「……罪はつぐなわなければなりません……。だからといって、幸せを願っていないわけではありません……。罪の償いが終わるまで、いつまでも私はグリアを助け続けます……。……相変わらず、モテているみたいですが、ウルクの本命は誰なんですかね……。はい、これからもよろしくお願いします、ウルク」


次回、「ラミーニアとデート」


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