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4話 勇者としての使命

「よし、こんなもんだろう」


 食べられるキノコや山菜をまとめて岩の上に置いた。

 ざっと三~四種類ずつあるだろう。

 

 ……鍋を持っていれば最高だな……


 魚とキノコと山菜で美味しい鍋ができそうだ。

 まあ、こんな森の山奥でぜいたくは言ってられないか。

 焼いてもきっと十分に美味しいだろう。

 

 それじゃあ、魚とキノコに枝を刺して。

 これで準備はできた。


「ファライアさん、出て来てもらえますか?」


 名前を呼ぶと、火の塊が目の前に現れ、小人に近い姿へと変化した。


「ウルク殿。ミューリアスをミューリと呼んでいるように、私もファイとお呼び下さい」


 ……ファライアも、愛称で呼ばれたいのか……


 ちょっと意外だった。

 精霊って皆そんな気質なのだろうか。

 会ったばかりで馴れ馴れしいような気もするが、まあ、本人がそれを望んでいるのなら。

 

「じゃあ、今後は、ファイと呼ぶよ」


「ありがとうございます」


 精霊に性別があるのかは分からないが、ファイは男性に近いように見えた。


「ファイ、魚とキノコを火であぶってもらえるかな?」


「承知しました」


 適度な火加減で魚とキノコを炙っている。

 鍋があればなんて贅沢ぜいたくなことを言ってしまったが……


 ……普通に美味しそうだな……

 だけどこれを一人で全部食べる……のか?

 

「ちなみに、精霊は食事をしなくても生きていけるの?」


「はい。私達は、自然界から直接力を得ていますので、食事をしなくとも生きていけます」


 ファイは食材を炙り続けながら、そう答えた。


「……食事をしなくても、ということは、逆に食事をすることも出来るのかな?」


「はい、精霊にも五感はありますので、食事を楽しむことが出来ます」


 ……そうなんだ……

 それなら……


「じゃあ、一緒に食事する?」


「よろしいのですか!?」


 ファイが驚いた表情でこちらを見る。

 それでも火加減を失敗している様子がないのは、さすがである。


「もちろん、一緒に食べた方が楽しいし」


「感謝いたします」


 嬉々とした表情で、ファイが深々と頭を下げる。

 ……大したこと言ったつもりはないのに、ここまで感謝されると何か気恥ずかしいな……


「ミューリも一緒にどうかな?」


 健気にも魚の焼き加減をじっと見ていたミューリに僕は声をかけた。


「……ご迷惑でなければ……」


「迷惑なんて、皆で食べた方が美味しいよ」


「ありがとうございます」


 ミューリの表情が明るくなり、笑顔を見せた。


 ……何か、謙遜けんそんする精霊が多いな……

 アリーセス直属の精霊だからかな?


 アリーセスが召喚した人間には、忠誠を誓うようにと言われているとか。


 程なくして美味しそうな魚やきのこの焼けた匂いが辺りを包んだ。


「焼きあがりました」


 ファイはそう言って火を一瞬で消した。


「ファイ、ありがとう」


 焼きたてのいい香りがする。

 匂いに刺激されて唾液だえきが溢れるように出てくる。

 ごくりと大きくその唾液を飲みこんだ。


「それじゃあ、さっそく食べようか」


「「はい」」


 まずは焼き魚を一口。


「うまい!」


 思わず声に出してしまった。


「美味!」

「おいしいです」


 ファイとミューリも食事を喜んでくれているようだ。


 そうして、しばらく精霊達との食事を楽しんだ。


   ◇ ◇ ◇ ◇


『あそこに洞穴ほらあながありますので、今日はあそこで休みませんか?』


 アリーセスが、話しかけてきた。

 食事をした後、日が沈むまで休まず歩き続けたので、確かに少し疲れてきてはいる。


『そうだね』

 

 周辺で夕食を確保し、焚き火用の木々や布団代わりの葉っぱを集める。

 この流れにもだいぶ慣れてきた。


 ファイに焚き火用の木に火をつけてもらい、昼と同じようにみんなで夕食を食べた後、葉っぱの上に横になった。


『……そういえば、アリーセスは、どうして僕を召喚したの?』


 まだ、森の中から抜け出せてはいないが、死なずにすみそうだという安心感が芽生え始めていた。

 それと同時に、何故アリーセスが自分をこの世界に召喚したのかが気になった。

 

『はい、詳しく話をすると長くなりますので、出来る限り簡潔にまとめたいと思いますが。この世界リゼラミアでは、二千年以上にわたり人間と魔族の戦いが続いています』


 ……いきなり壮大な話が出てきた……

 二千年以上の争いって……


 ……何かとんでもないことに巻き込まれた予感がするのは気のせいだろうか……


『人類は魔王軍に徐々に領土を追われ、百年前には、魔王軍の支配下にない国は一国のみとなってしまいました』


 ……かなり絶望的だな……

 言い方からすると今は違うのかな?


『その時にウルクのいる世界でとある事件が起きたのですが、その際に勇者をこの世界に四十人召喚することとなりました』


 ……一気に四十人も勇者を召喚出来たんだ……


『勇者達の活躍によって、人類は希望と領地りょうちを取り戻しつつありました。しかし、最後の勇者が寿命じょみょうにより、二十年前に亡くなりました。そして、勇者の意思を継いだ聖騎士団と魔王軍の戦いは、今も続いています』

 

『……その流れから考えると、僕が新たな勇者になって、魔王を倒すってことだよね……』


『はい、その通りです』


 アリーセスはいつも通りの声色こわいろで答えた。


 いやいや、二千年以上続いてきた戦いを、僕が終わらせるとか普通に考えて無理だよね……

 ……それどころか、今はアリーセスの力を借りないと、森すら抜けることが難しいのに……


 とてもじゃないけど任せてくれとは言えない。

 アリーセスには申し訳ないけど……


『まだ、この世界に来たばかりなので、森を抜けてから考えても大丈夫ですか?』

 

 今の僕には、こう答えるのが精一杯だった。

 

 アリーセスも、僕の気持ちを察したのか、

『はい、大変な使命ですので、じっくりと考えてもらえればと思います』

 とだけ話した。


 僕が勇者か……

 正直、自分だけの特別な使命を期待されて嬉しくないわけではない。

 

 ……せめて、勇者として何か特別なスキルでもあればなぁ……


 あ、でも、創造主のアリーセスと対話出来ることが、この世界では特別なことなのかな?

 過去に召喚された四十人の勇者達も、アリーセスと対話出来たことが大きな力となったはず。 


 ……人間に対して制限があるとはいえ、創造主であるアリーセスが味方なのは、もしかすると凄いことなのかもしれないが……

 まだ、その実感はなかった。


 アリーセスと一緒に冒険を続けて行く中で、「勇者としての使命をまっとうしたい!」と、そう思える日が来るのかもしれない。

 四十人の勇者達も最初から決意出来たわけではなく、きっと時間をかけて決意していったのだろう。


 何故かふとそう思った。

「新鮮な焼き魚美味しそう……、あ、ついよだれが……。精霊達とも仲良くなって何よりですw ……四十人の勇者達にはどれだけ感謝しても感謝しきれません……。……急に勇者なんてお願いされても、困るよね……。でも、ウルク以外に私の声が聞こえる人はいないんです……。はい、私はいつでもウルクの味方ですよ」


次回、「魔族」


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