38話 王の死
「きゃあああああああ!!」
泣き続けているエミーの頭を撫でていると、急にメイドの叫び声が王宮に鳴り響いた。
「何だ!?」
「何!?」
二人で驚きの声を上げる。
エミーが直ぐに涙を拭った。
『王の部屋です! 王とタナストが会っていたのですが、急に魔の霧が現れました!』
『分かった!』
アリーセスが状況を簡潔に教えてくれた。
「エミーも行ける?」
「はい、行けます」
エミーの返事を確認して、僕達は王の部屋へと急いだ。
「………そ、そんな………」
叫び声が聞こえて来た王の部屋に入ると、エミーが両膝をついて崩れ落ちた。
タナスト皇太子の剣で刺された王が、多量の血を流しながら地面に倒れ込んでいる。
先ほど叫び声を上げたと思われる王のメイドは、部屋の傍らで怯えていた。
王の護衛をしていた二名の近衛兵は剣で切られ殺されている。
「エミー! 回復魔法を!」
「は、はい」
僕の言葉でエミーが我に返った。
「光の精霊魔法、生命の息吹!」
エミーが精霊魔法を唱え、魔法の光が王を包み込んだ。
「お父様、死んではいけません!」
エミーが必死に呼びかける。
「……すまない、私が間違っていた……。……エミーラ……、ミリタニアと一緒にどうか幸せになっ……」
王が力を振り絞ってエミーに語りかけるが、最後まで言い切ることは出来なかった。
「お父様! お父様!!」
エミーが泣きながら、王に声をかけ続けている。
『……アリーセス……』
『……申し訳ありません……。私の力でも、もう……』
……アリーセスの力が及ばないのであれば、もう出来ることは何もない……
「あああああああ! お父様ーーーー!」
「……エミー……」
泣きじゃくるエミーを見つめながら、言い知れぬ怒りが込み上げて来る。
「くっ、タナスト皇太子! どうしてこんなことを!」
「……王がいけないんですよ……。エミーラ王女との婚約を解消するなんて言い出すから……」
タナスト皇太子は天井を仰ぎ、遠い目をしている。
「ハハハ、そうだ、私は悪くない、悪くない、王が全て悪いのだ……」
そう言いながら、タナスト皇太子が魔人の姿へと変貌していく。
「火の精霊魔法ファライア!」
既に怒りは頂点に達している。
タナスト皇太子が完全に魔人化するのを、悠長に待つ気はなかった。
ドーーーーーン!
魔人になる前に、タナスト皇太子を精霊魔法でなぎ倒した。
そして、そのままアリーセスの力を借りて浄化を始めた。
「……大きな爆音が聞こえたが、何があったんだ?」
タナスト皇太子の浄化を終える前に、ジークスが辿り着いた。
「……タナスト皇太子が王を刺しました……。魔人化が始まってしまいましたので、精霊魔法で倒して今は浄化をしています……」
「……まさか、王が……、それで回復魔法の効果は?……」
僕は首を横に振った。
「……そうか………」
エミーは今も回復魔法を使いながら、王に呼びかけ続けている。
「……お兄さん、これはどういうことですか………」
「……ミリー……」
いつの間にか、ミリーもここに来ていた。
「……どうして、お父様が血を流して倒れて………」
目の前の光景が信じられないといった表情でミリーが呟く。
「……タナスト皇太子が、王を刺したんだ………、どうやら、王が婚約解消についての話をしていたらしい……」
「くっ! お前が!」
「ミリーー!」
ガシッ!
ミリーが短剣で、タナスト皇太子を刺そうとしたが、ジークスが止めた。
「どうして止める! こいつがお父様を! お父様を!」
「……殺したい気持ちは分かります……。ですが、タナスト皇太子を殺してしまうと、事の真相が分からなくなってしまいます……」
「事の真相? ふざけるな! こいつは、ただ、婚約を解消された逆恨みでお父様を刺したんだよ! それだけだ!」
……ミリーの気持ちを考えると、確かにタナスト皇太子を刺し殺しても足りないくらいだろう……
だけど、ジークスの言っていることにも一理ある。
『アリーセス、もしかして、これは魔族の仕業なのか?』
『タナストの胸の辺りで魔術が発動しています。それが原因ではないでしょうか?』
『タナスト皇太子は魔術で操られていたってこと?』
『……おそらくは……、何かがきっかけで、魔術が発動するようになっていたのだと思われます』
「……ジークス、タナスト皇太子の胸の辺りを確認してもらえますか?」
「胸? 分かった……」
バッ!
ジークスがタナスト皇太子の上着をめくると、そこには魔術の印が刻まれていた。
「……これは、魔族の仕業だな……。極度の怒りに反応して精神魔術が発動するように術式が組まれている……」
「……一体誰がこんなことを……」
「……この魔術をかけた魔族は、ロワイアントナーガの中枢にいるタナスト皇太子に精神魔術を発動させた。こんな芸当が出来る魔族を俺は一人しか知らない」
「……もしかして?」
「そう、ヴァグリアだ」
「でも、ヴァグリアとは、先日戦ったばかりだけど……。……こんな短期間で準備し実行出来るものなのか?」
「おそらく、先日の戦いとは別に、以前から準備を進めていた計画だったのかと……」
「………そんな……、魔族の仕業って……、それじゃあ、今のボクの怒りは誰に向けたらいいんだよ……、誰に…………」
ミリーが僕の服にしがみついて崩れ落ちた。
「「あぁぁぁぁぁぁ!」」
エミーとミリーの泣き声が王宮にこだまする。
『………アリーセス………、僕がヴァグリアを倒して、この国に平和を取り戻すよ……』
二人の泣き声を聞きながら、僕は天井を見上げてアリーセスに誓った。
「……まさか、王が殺されるなんて……。婚約を解消して、娘達との関係を取り戻そうとした矢先にこんなことになってしまって……。……私はエミーラとミリタニアを直接慰めることが出来ないけど、ウルクを通して少しでも心が慰められますように……。はい、ロワイアントナーガ国に平和を取り戻しましょう!」
次回、「秘密の共有」
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