36話 エミーラの恋心
「……今日はジークス様とデート……」
以前の私ならジークス様とデートが出来るなんて、飛んで喜んでいたはずなのに……
……どうして……、こんなに心がモヤモヤしているんだろう……
「ん?」
ウルクとミリーが物陰からこっそりと私を見ている。
「クスッ」
思わず微笑してしまった。
「ふふ、二人とも隠れるのが下手だね」
「エミーラ王女様、お待たせしました。申し訳ございません、こんなに早く来られているとは思いませんでしたので……」
「いえ、ミリーにデートは待っている時間も含めてデートだからと、早い時間から押し出されただけですので」
ジークス様も十分前に来てくれたのだが、私は三十分前から待ち合わせ場所で待っていた。
「そうでしたか……、それにしても、ミリタニア王女様とウルクは隠れるのが苦手なのかな?」
ジークス様が苦笑している。
「みたいですね」
私もジークス様に合わせて苦笑した。
「今回のデートはミリタニア王女様が、行き先を決めているんですよね?」
「はい、なるべく人目につく所でデートをした方がよいとのことで、お買い物デートでお願いしますと言われました」
自分のことではないのに、ミリーの私への情熱はどこから出てくるのだろうか?
……本当、姉思いの妹だよね……
そんなミリーを、私も愛おしく思っている。
「分かりました。それでは、さっそく買い物に行きましょうか?」
「はい」
◇ ◇ ◇ ◇
「なにあの美男美女のカップル!」
「絵になるな」
「フフフ、当然です。お姉様は最高ですから」
街の人達が、ざわついている。
そして、その反応にミリタニアはその都度反応していた。
「……でもさ……、ミリタニアは何でそんなにエミーのことが好きなの?」
「え? そんな風に見えますか?」
もしかして、気がついていなかったのか?
「……確かに僕もエミーは美人だと思うよ……。でも、ミリタニアの場合、だいぶ色眼鏡で見ている気がするんだけど……」
「……ま、まあ、身内びいきはあると思いますので、そういう風に言われても否定は出来ませんが……。でも、いいんです。ボクがそう思っているのは本当のことなので」
……それはそうだ……
誰を好きであろうが、そんなのは個人の自由だ。
「ところで、お姉様のことは、エミーと呼んでいるのですから、ボクのこともミリーと呼んで下さいませんか?」
「いや、さすがにそれは……」
ミリタニアに王女様とつけないだけでも抵抗があるのに、さすがにそこまでフレンドリーに呼べないだろう……
「む、ダメです。そう呼んで下さい」
が、ミリタニアが少しムキになってそう言った。
「……分かりました……」
そこまで強く言われたら、断ることは出来ない。
押し切られた形でだが納得した。
「ありがとう、お兄さん」
ミリーが笑顔でそう言った。
まあ、本人がその方が喜んでいるのであれば、それでいいのかな。
そう思うことにした。
「でも、あの女性って、もしかしてエミーラ王女様じゃないのか?」
「そう言われると、男性の方も自警団団長をしているジークスだよね?」
「あ、いい感じに噂が広まっているみたいですね」
どうやら、ミリーの作戦通りに進んでいるようだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「今日は、本当にありがとうございました」
間もなく夕日が沈もうとしている。
デートの任務を無事に終え、私はジークス様にお礼のお辞儀をした。
「いえ、何だかんだ、私も楽しませていただきましたので……。こちらこそ、ありがとうございました」
そう言って、ジークス様もお辞儀を返してくれた。
「それに、ミリーの作戦もうまくいったみたいです」
出来るだけ多くの人に見てもらえるようなデートコースだったからか、私達でも分かるくらい周囲がざわつき始めていた。
これなら、明日から一気に噂が広まって行くはず……
「さすが、ミリタニア王女様です」
「ですね」
ミリーの勝ち誇った顔が目に浮かぶ。
「ところで、前から気になっていたのですが、どうして私の名前に“様”をつけて下さっているのですか?」
「あ、それは……、尊敬の念も込めてということなのですが……、実は、昔に一度だけジークス様にお会いしたことがあって……」
「……本当ですか? 王女様にお会いしたとなれば、さすがに私も覚えているはずなのですが……」
ジークス様が、いつそんな失態を犯したのだろうという表情をしていた。
「確かに、王女としてお会いしたことはありません。非公式でお出かけをしていたところ、魔獣に襲われてしまったのですが、その時に助けていただきました……」
「……そうだったんですね……」
さすがに覚えていないようだ。
聖騎士団長として戦い続けていたジークス様は、覚え切れないほどの人を助けているのだろう。
「はい、その時から、私にも強さが必要だと思い、本格的に精霊使いとしての訓練を始めました」
「……そうでしたか……、立派な王女となられたエミーラ様のそのきっかけとなっていたのであれば幸いです」
「……ですから、ジークス様は私の憧れの人であり、今日のデートも本当に楽しみにしていたはずなのですが……」
……そう、楽しかったはずのジークス様とのデート……、それなのに……
「……はずなのに、ウルクのことが気になって仕方がない……、……という感じですか?」
ジークス様が微笑しながら言った。
「え?」
「はは、さすがに気づきますよ。今日一日、ずっとウルク達のことを気にしていましたからね」
……思い返してみれば今日一日、ちらちらとウルク達の方を見ていた気がする……
「……そんなに気にしていましたか?」
「そうですね、私が気づくくらいには」
「……すみません、大変失礼なことをしてしまいました……」
私は心から謝った。
「あ、いえ、私は気にしていませんよ。今回の作戦に参加させてもらったのは、先日の戦いのお礼がしたかったからで、エミーラ王女様と恋人になるなんて、私も本当は出来ませんので……」
ジークス様が哀愁を漂わせる。
「……やはり、今でも婚約者のミーシャ様のことを……」
「はい、今でも愛しています」
ジークス様は、はっきりと言い切った。
「ふふ、ジークス様も悪い人ですね」
思わず微笑する。
「まあ、そういうことで、今回はお互い様ですよ、エミーラ王女様」
「どうやらそのようですね」
二人で一緒に笑った。
………今回のデートで、逆に私はウルクのことが好きだと気づいてしまった………
でも、だからこそ……
「……ジークス様……、もう一つだけお願いしたいことがあります……」
……私は決意しないといけない……
「姉妹仲良しで、微笑ましいですねw ……エミーラが何を決意したのか……。気になります……」
次回、「結婚の真相」
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