34話 ミリタニア王女
「おはよう、ウルク」
「おはよう、ウル」
「……どうして二人が僕の布団の中に……」
ここはロワイアントナーガ王宮にある来客用の寝室。
エミーが第一王女と分かった後、「私の仲間と一緒なら帰ってもいいわ」と条件をつけたため、今に至っている。
ジークスと相部屋となり、昨日の夜は、それぞれ別々のベッドで休んだ。
ラミーニアとサーフィアに至っては、別の部屋で休んでいたはずなのだが……
「だって、布団で寝られるの久しぶりだったし……。一緒に寝られるチャンスだと思ったんです……」
朝、目が覚めると、ラミーニアとサーフィアが僕の布団の中に潜り込んでいた。
「……ラミーニアはまだ分かるとして、何でサーフィアまで?」
「ラミーニアがウル達の部屋に入って、ウルの布団の中に入っていくのをネニスが見ていたんです。ラミーニアはよくて、私だけダメなのはおかしくないですか?」
……闇の精霊を一体何に使っているんだか……
ネニスもサーフィアに甘過ぎないか?
「はは、モテモテだなウルク」
「……笑いごとじゃないですよ、ジークス……」
ふぅ。
心の中で嘆息する。
……やっぱり、二人にアプローチされてるってことだよね……
これだけ積極的に来られると、鈍い僕でもさすがに気づく。
二人とも大切な存在だし、正直、可愛いなぁとも思う。
……でも、今は付き合うとか出来ないんだよな………
「……というか、日替わりって話でしたよね?」
「まだ、どっちが先かは決めていません」
「あのー、そろそろいいですか?」
何の話か分からないが、二人が揉めている間に、女性が割り込んできた。
金髪の美少女で、髪を後ろで結んでいる。
「ん、君は?」
「ボクですか? ボクはミリタニア=ロワイアントナーガ、エミーラお姉様の妹です」
「あ、エミーの妹なんだ。僕の名前はウルクです」
確かに、どことなくエミーと容姿が似ている。
「……やっぱり……」
ミリタニア王女様が一人頷いている。
「え?」
「……お兄さん、本気じゃない浮気までは何とか許容しますが、本気になったらダメですよ」
ミリタニア王女様がこっそり耳打ちした。
……何のことか分からないが……
というか、何でお兄さん?
「ところで、ミリタニア王女様はどうして、ここに?」
「あ、衝撃な場面を見てしまったので、うっかり忘れるところでした……。エミーラお姉様が、挨拶のついでに朝食の伝言をしてきて欲しいとお願いされたんです」
「あ、じゃあ、朝食に向かったらいいのかな?」
「はい。あと、お姉様のことはエミーと呼んでいるのですから、ボクにも王女様という言葉はつけなくていいですよ」
「……分かりました……。……ですが、エミーのことも公式の場ではエミーラ王女様と呼んでいますので、その場に応じて使い分けさせていただきますね」
エミーは王女だと元々は知らなかったので、あまり抵抗はなかったが、第二王女と分かっているミリタニア王女様に、王女様と言わないことにはまだ少し抵抗がある……
まあ、本人がそうして欲しいと言っている以上、そうするしかないのだが……
「はい、それで大丈夫です」
ミリタニアはそう返事をした後、僕達を食堂へと案内してくれた。
◇ ◇ ◇ ◇
「……お父様の事情は分かっています……、ですが、どうしても婚約を解消することは出来ないのでしょうか……」
「……エミーラ……、お前には本当に申し訳ないと思っている……、だが、考え直してもらえないか? 隣国のバームラント国とは、ここ数年不仲が続いていたが、今回の婚約でようやく同盟が再開出来そうなのだ……」
「……そう、ですよね……」
……分かっている……、もう、どうしようもないのだ……
かつては多くの勇者達が滞在し、リゼラミアで一番の栄光を受けているとまで言われていたロワイアントナーガ国。
今はその見る影はなく、ロワイアントナーガ国は衰退の一途を辿っていた。
その原因は、勇者に頼り過ぎたことによる慢心。
勇者達の力を自分達の力と勘違いし、国力の強化を怠っていた。
現国王になってからそのことにようやく気がついたが、時すでに遅く。
魔王軍と対抗するには、隣国の力を借りなければ立ち行かないほど国力は低下していた。
そのため、バームラント国との交流の時に、たまたま皇太子の目に留まってしまったのが運の尽き。
同盟の条件として、皇太子との婚約を条件にされてしまったのだ。
「……すまない……、私にもっと力があれば、エミーラにこんな辛い思いをさせずに済んだものを……」
「……分かりました、お父様……。わがままを言って申し訳ありませんでした……」
涙を流し、そう懇願する父に、私はそう返事をするしかなかった。
「エミーラ王女、お久しぶりです」
「……お久しぶりです、タナスト皇太子……」
父との対話の後、タナスト皇太子から声をかけられた。
皇太子という言葉に相応しい高貴な出で立ちをしている。
「しばらく行方不明になっていたとお聞きしていましたので、心配しておりました……」
私が行方不明と聞きつけ、わざわざロワイアントナーガまで足を運んだらしい。
「……そうですか……」
「てっきり、私との婚約が嫌で行方をくらましていたと思っていたのですが、戻って来られたということは婚約を受け入れてくださったということでしょうか?」
「……何を仰ります。……私は一度も婚約に反対などしたことはございません……」
「そうでしたか、そう言っていただけると安心いたしました」
タナスト皇太子が私に対しては好意的で、よく振舞おうとしてくれているのは分かっている。
ただ、民からの信頼は全くと言っていいほどなかった。
貴族と平民の分離を徹底し、平民を常に見下しているその姿勢には、同じ貴族圏に属する私であったとしても、全く共感が出来なかった。
「噂では、仲の良い平民がいるとの話を聞いておりましたので、エミーラ王女は気でも触れてしまったのかと思いましたが、平民ごときに杞憂でしたね」
カチーン!
ふざけないで! ウルクはあなたなんかより、数百倍いい人よ!
笑顔は崩さずに、私は心の中で叫んだ。
「……ただの噂ですので、どうかお気になさらないでください……」
「ハハ、そう言っていただけると思っておりました。何でも噂になっている男は、街で自警団の団長をしているとか? 例え一組織の団長をしているからといって、王族の我々とは身分が違い過ぎる。さすが、エミーラ王女、そのことがよく分かっていらっしゃる」
「………………」
……それって、ジークス様のこと……だよね……
……私、どうして、ウルクのことと勘違いしたの?!
顔が真っ赤になっていくのを感じた。
いやいやいや、私の憧れはジークス様であって、ウルクはただの仲間……
………ただの仲間のはずなのに………
「……ウルクもラミーニアちゃんとサーフィアの想いに気づいていたんですね……。……でも、付き合えない事情って何なんだろう? ……エミーラの立場は、本当に辛い立場ですね……。どうにか、婚約を解消出来るとよいのですが……。恥ずかしがっているエミーラ、可愛いですねw」
次回、「ミリタニアの作戦」
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