33話 エミーラ王女
「……私には、みんなに打ち明けないといけないことがある……」
でも、取り敢えず、今は温泉を満喫しよう!
先日の戦いの功労者として、今日は女性用の浴場を三人で一時間貸切にさせてもらっている。
「ラミーニャちゃん、背中洗わせてー!」
「あ、はい、お願いします」
「では、私はエミーの背中を洗いますね」
三人で背中の洗い合いをした。
「ラミーニャちゃんの背中って気持ちいいよね」
そう言って、私はラミーニャちゃんのモフモフした背中の毛皮に頬をスリスリする。
「ひゃうっ! エミーラさん、最初と性格変わっていませんか!?」
あまりのスキンシップの近さに、少し警戒されてしまったようだ。
「アハハ!」
「もう、本当に困りますよ、フフ」
ラミーニャちゃんは呆れながらも、笑ってくれた。
……こんな楽しい時間も、もう少しで終わるんだなぁ……
楽しい気持ちと同時に、寂しさも込み上げてくる。
「気持ちいいーー!」
露天風呂に入ると、私は思わず大きな声を出した。
いつもはもっと遠慮がちに入るのだが、今日は私達しかいないので、どうせなら普段とは違う気分で入浴したい。
「確かに気持ちいいですね」
「気持ちいい……」
二人も同じように温泉で癒されているようだ。
正直、ただ広いだけのお風呂は、ここに来る前に毎日入っていたが、外で開放的に入る温泉は格別だった。
「ところで、二人はいつからウルクが好きになったの?」
「「え?! どうして、それを……」」
「ぷっ」
示し合わせたかのように、二人とも同じセリフだったので、口元を手で抑えながら、少し笑ってしまった。
「……あ、ごめんなさい。でも、見ていれば普通に分かるから……」
「そんなに分かりやすかったですか……」
「もしかして、ウルにもバレてる?……」
サーフィアは、いつの間にかウルクのことをウルと呼ぶようになっていた。
二人ともあたふたしていて可愛い……
「ううん、ウルクは気づいてないと思うよ……」
二人がほっと胸を撫で下ろしている。
……たぶん……
最近、二人がウルクのことでなんだかギクシャクしてるから、私がいなくなる前に何とかしておかないとね。
「ラミーニャちゃんは、いつからウルクのことが好きなの?」
「……具体的にいつからなのかは分かりませんが……、両親を失って闇商人の奴隷として扱われていた獣人族の私を、ウルクは普通に接してくれて、服や住む場所、生きる意味を与えてくれたんです……。それからずっと一緒に過ごす中で、私はいつの間にかウルクを好きになっていました……」
「うんうん、ウルってそういうところあるよね」
サーフィアが頷いている。
……ラミーニャちゃん、今は明るい女の子にしか見えないのに、そんな過去があったなんて……
ウルクとの出逢いで元気を取り戻したんだね……
「それで、サーフィアは、いつから好きになったの?」
今度はサーフィアに聞いてみる。
「……私は精神世界でウルクに身も心も全て覗かれてしまってからですかね……」
「「身も心も!!」」
ビックリして、思わずラミーニャちゃんと一緒に大声を出してしまった。
精神世界を覗かれたことなんてないけど、どういう感覚なのだろうか……
「冗談です」
冗談かい!
失礼、はしたなく突っ込んでしまいました。
「でも、心は丸裸にされてしまいましたね」
そう言いながら、サーフィアが微笑する。
「あっ……」
闇の精霊使いとしてサーフィアが受けてきた仕打ちは想像出来る。
サーフィアのほほえんだ表情から、その重荷をウルクが解いてくれたのだと感じた。
……それは好きになっちゃうよね……
でも、
「二人がウルクのことを好きなのは分かったけど、喧嘩はダメだよ。二人が喧嘩をしている原因を知ったら、その大好きなウルクが悲しむでしょ」
言うべきことは言っておかないとね。
「「……確かに、そうですね……」」
二人はこくんと頷いた。
よかった、分かってくれたみたい。
「では、ウルクにアプローチするのは日替わりにしましょう」
「あ、それはいいですね」
サーフィアの提案に、ラミーニアも同意する。
……本当に分かってくれたのだろうか……
まあ、日替わりなら喧嘩はしなくなるのかな?
ゴメンね、ウルク。
私に出来るのはここまでみたい。
◇ ◇ ◇ ◇
……結局、言いそびれてしまった……
「でも、あの雰囲気の中で、私、実はロワイアントナーガ国の第一王女なんです。なんて言えないよね……」
温泉から出た後、私は独り言を呟いていた。
「王女がどうかしたの?」
ビクッ!
「あれ? 私なにか言ってました?」
……ウルクに聞かれた?……
あ、でも、元々話すつもりだったから、別に聞かれてもよかったのか……
「いや、ほとんど聞こえなかったけど、王女という単語だけ聞こえたんだよね」
「……そうなんだ……」
この際、ついでに言ってしまおう。
「実はね、私………」
「実は?」
「私………」
あれ、言葉が出てこない。
どうして?
「あ、いいよ、無理に言わなくても、言いづらいことなんだよね」
「………………」
ウルクが優しくそう言ってくれたが、私自身戸惑っていて、思わず沈黙してしまった。
「……でも、エミーと一緒にいられるのも、あと少しなのかな……」
「え?」
「以前に婚約者がいるって言っていたから、どこかの令嬢なのかなって思ったんだけど……」
そっか、そうだよね。
「ロワイアントナーガに戻ったら、きっと気軽に会えるような関係じゃなくなるんだよね……」
だから、私。
「……そんなことありません。もしそうだったとしても、私から会いに行きます!」
「え、ほんと? よかったー。せっかく仲良くなれたのに、このままお別れになるのも寂しいなぁと思ってたんだ」
ウルクが嬉しそうに話している。
……ウルクは本当に真っすぐで、イヤになりますね……
一緒にいたのはわずか数日なのに。
この関係を壊したくないとまで思わせて……
……私が王女だと分かっても、ウルクは今までと同じように接してくれますか?
気がつくと、私はウルクに抱きついていた。
「エミー?」
その答えを私は知っている。
だって、ついさっき二人から………
バッ!
我に返って、私は思わずウルクを突き飛ばしてしまった。
ドスッ!
とっさのことで、ウルクが尻もちをついている。
「……あ、ゴメンなさい……」
自分でも顔が青ざめるのが分かった。
急に抱きつかれたと思っていたら、今度は突き飛ばされて、ウルクからしたら災難である。
「……ちょっとビックリはしたけど、大丈夫です。それよりも、エミーの顔色の方が悪い気がするけど、大丈夫? 温泉でのぼせたとか?」
「……はい、大丈夫です……」
……全然、大丈夫じゃない……
というか、さっきの場面、二人には見られてないよね……
偉そうにあんなこと言っておいて、私が更に複雑にさせてどうするのよ。
……これ以上ウルクに優しくされるのはまずい気がする。
早く王女だと伝えて、この場を終わらせないと……
そう思っていた刹那。
「エミーラ王女様! ようやく見つけました!」
近衛兵が私の名前を呼んだ。
「あっ」
待って、もう少しだけ、せめて私から伝えるまで……
「こんな危険な所にまで来られては困ります、エミーラ王女様。あなた様は、ロワイアントナーガ国の王位継承第一位の第一王女なのですから」
「エミーラ王女?」
ウルクが不思議そうな顔をしている。
……やめて……
「ん、誰だお前は? まさかお前がエミーラ王女様をたぶらかして……」
「やめなさい!!」
「お、王女様……」
私の怒気に近衛兵が恐れおののく。
「この方は私の大切な友人です。無礼な真似をするようでしたら、私が許しません!」
「はっ!」
近衛兵が片膝をついて敬意を示す。
「……エミー?」
「……ウルク、ゴメンね。実は私、王女だったんだ……」
私は精一杯の笑顔を作って、ウルクにそう伝えた。
「ラミーニアちゃんとサーフィアがいつからウルクのことを好きになったのかが分かりましたw エミーラは二人のお姉さんみたいですねw あれ、もしかしてエミーラもウルクのこと……」
次回、「ミリタニア王女」
第二章で、ようやくウルクの活躍の場を書くことが出来ました!
第三章のロワイアントナーガ国編では、エミーラの妹、ミリタニア王女も登場します。
更に成長して活躍していくウルクにも乞うご期待!!
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