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30話 君のために

「ウルク!」


「ハッ!」


 エミーが僕の名前を呼んだ声で意識を取り戻した。


「……良かった、みんな心配してたんですよ……」


 気がつくと、エミーに膝枕されながら回復魔法をかけられていた。

 エミーがここにいるということは、ミューリの回復魔法は終わったらしい。


「ありがとう……、でも、それより、みんなは無事なのか? ヴァグリアは?」


 シムナ団長とラミーニアが駆けつけてくれたところまでは覚えているのだが……

 あれからどれくらい時間が経っているんだ?

 

「みんなは無事です。本当はウルクの傍にいたかったみたいですが、今は傭兵達の救援に動いています。それと、戦いはまだ終わっていません。シムナ団長がヴァグリアと戦い続けてくれています……」


 ズダーーーーン!

 

 空に爆音が鳴り響く。

 おそらく二人が激突しているのだろうが。

 

 ……動きが早過ぎる……


「……加勢したいとは思っているのですが、二人の戦いが異次元過ぎて、我々は傍観ぼうかんせざるを得ない状態になっています……」


 エミーが悔しそうに言った。


「ですが、精神支配を逃れ、ウルク達が戦ったことは無意味ではなかったようです」


「え?」


 ドーーーーン! 


 近くにシムナ団長とヴァグリアが着地する。


「どうした? いつもより調子が悪そうだな、ヴァグリア」


「おのれー! 精神支配にさえ失敗していなければ、お前なんぞに!」


 大した消耗はしていないように見えていたのだが……

 シムナ団長クラスの戦いになるとその差が大きな差となるのかもしれない。


「神位風精霊魔法、三重の竜巻トリプルトルネード!」


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 三つの巨大な竜巻によって、ヴァグリアの身体が切り刻まれていく。


「悪魔魔術、黒の暴風ブラックストーム!」


 ヴァグリアが竜巻を魔術で弾き飛ばす。


「そんな魔法で我を倒せるとおも………」


 言葉の途中でヴァグリアが何かに驚いた表情を見せた。


「………そうか、デグルトがやられたか……。ならばいつまでもここにいる理由はない……」


「逃がさん!」


 退却しようとしているヴァグリアに対し、シムナ団長が叫んだ。

 優位に立っているこの好機を逃がしたくないのだろう。


「悪魔魔術、黒煙ブラックスモーク!」


 ブワッ!


 ヴァグリアが魔術を唱えると、辺り一面が黒煙に包まれた。


「今回は勝ちを譲ってやる。だが、これで終わると思わると思うなよ」

 ヴァグリアの姿が闇の中へと消えて行く。


「くっ、逃げられたか……。まあいい、元々、ヴァグリアを倒すことが今回の戦いの作戦ではなかったからな」


 一瞬、シムナ団長は悔しそうな表情をしたが、すぐに冷静な表情に戻して言った。


「何にしても、今回の戦いはこれで終わりだ。しばらくは、魔王軍も身動きが取れないだろう」

 

 こうして、ヴァグリア率いる魔王軍との戦いに、第七聖騎士団が勝利し、一時的な平和を取り戻した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「デグルトはジークスが倒したんだね」


「ああ、強敵だったがな……」


 言葉の含みから、神位精霊を使っていた時のような力が出ないことへの複雑な思いを感じた。

 昨日は回復魔法で身体を治癒した後も、しばらくは動けなかったが、今日は一番の激戦だった場所へと足を運んでいる。


 目的は戦闘不能になっている魔族の浄化がメインだが、魔族との戦争がどういうものなのか、その惨状を僕は知っておかなければならない。

 そんな気もしていた。

 

「……着いたな……」


「………………」


「そうか、ウルクは戦場は初めてだったな……」


 僕が絶句していると、ジークスがそう言った。

 見渡す限り、死体の山が広がっている。


 奇襲に成功したことを考えると、ほとんどが魔人なのだろうが、死んだ後の魔人は人間の姿に戻るため、装備以外では敵味方の区別もつかなかった。


「………はい………」


「……出来れば全員浄化して人間に戻してやりたい。だが、そう出来ないのが戦争だ」


「そうですよね………」


 理屈は分かる。

 分かるんだけど、何故だか……

 胸が詰まる。


「ウルク?」


 ジークスが不思議そうな面持ちでこちらを見ている。


「あれ、何でだろう、涙が……」


 気がつくと、右目から涙が溢れ出していた。

 何度拭っても溢れ出す。


 ……自分の涙ではない?

 そう感じた。


『……アリーセス、君の涙なのか?』


『………また、多くの人が死にました……、……私は何も出来ませんでした………』


 アリーセスの感情が流れ込み、更に涙が溢れ出す。


『……いや、アリーセスがいなかったら、もっと被害が出ていただろ……』


 実際、アリーセスがいなかったらどうなっていたか……


『………ですが………』


 慰めようとするが、アリーセスの涙が止まる様子はない。


 あー、もう、何だろうな。

 ずっと、こんな風に生きてきたのか?

 ずっと、創造主として涙を流し続けてきたのか?


 ………二千年以上……… 

 僕は歯を食いしばった。


 こんなの……

『あーー、分かったよ、僕が勇者になって、少しでもアリーセスの悲しみを解いてあげるから、だから、これ以上泣くな!』

 そう決意するしかないじゃないか。


『……ウルク?……』


『……僕に何が出来るのか、正直まだ分からない……、けど、アリーセス、君は一人じゃないんだ……』

 

『……ありがとうございます……』


 アリーセスがそう言った後も涙は続いたが、その涙は悲しみだけの涙ではない。

 そんな風にも感じた。

 リゼラミアの平和のためにとか、そんなのはまだよく分からない……

 

 ……でも、アリーセス、僕は君のために戦うよ……

「ゴメンね、ウルク。たぶん、私の涙があなたの身体と共鳴しました……。え? ウルクが私のために勇者を決意してくれた!? ……ありがとう、ウルク……」


次回、「祝勝会」


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