3話 精霊
……歩いて三日はかかるという森の中にいることは最悪だったけど、アリーセスと精霊の援護があれば、何とかなりそうなのかな……
とはいえ、森を抜けるまでは油断できない。
明るい間に出来る限り進んでおきたい。
『じゃあ、アリーセス、さっそく、この森から抜ける道を教えてもらえますか?』
『はい、それでは、ご案内しますね。まずは、左にあるけもの道を進んでください。進んだ先に清流がありますので、そこをしばらく下ってください』
言われた通り、けもの道を難なく進むと、確かに清流があった。
清流の幅は五メートルほど、奥には木々が連なっており、手前は砂利道になっている。
「綺麗な水だなぁ」
水は水底が見えるくらい透き通っていた。
水面にうっすらと映っている自分の姿を見て、始めて自分の容姿を確認する。
髪は黒髪で長さはミディアムくらい、服装はカジュアルな白のワイシャツにデニムのジーパンを穿いていた。
『その水は、人が飲んでも大丈夫です』
あ、飲んでもいいんだ。
ちょうど、喉が渇いていた。
……というか、アリーセスと会話できると色々と便利だな……
「おいしい!」
たかが水で大げさかもしれないが、思わず声に出してしまった。
山の水だからなのか、不安と緊張で喉が渇いていたからなのか。
身体にすっと染み渡るような感じがして、飲んだ水は格別においしく感じた。
「もう少し歩けそうだな」
まだ、体力に余力はある。
しばらく、清流に沿って山を下って行った。
「す……、少し休憩……」
あれから早く森を抜けたくて黙々と歩き続けたが、二時間ほど歩いたところでバテてしまった。
息も絶え絶えに、道端にあった、岩の上に座り込んだ。
「お腹すいたな」
歩いている時は気がつかなかったが、休息しているとお腹が空いていたことに気づいた。
『水の精霊ミューリアスを呼んでください』
さっきの呟きを聞いていたのだろう。
アリーセスの声が聞こえた。
精霊はお願いしたら来てくれると言われたが、いざ呼ぼうと思うと、具体的にどうお願いしたらいいのか分からない。
『どうやって、呼んだらいいの?』
『精霊の名前をお呼びください』
アリーセスはシンプルにそう答えた。
本当に名前を呼ぶだけでいいのだろうか?
岩にもたれかかったまま、おそるおそる、精霊の名前を呼んでみた。
「えーと、じゃあ、ミューリアスさん、出て来てもらえますか?」
すると、初めて現れた時のように水の塊が目の前に現れ、小人に近い姿へと変化した。
やはり、身体は宙に浮いている。
「謙虚なご主人様ですね。ウルク様。私に“さん”はつけなくともよいですよ、ミューリアス、もしくは、ミューリとお呼び下さい」
意外にも、フレンドリーな口調である。
……精霊の方が人間よりも上位の存在かと思っていたんだけど、そうじゃないのか?……
対等な関係?
でも、ご主人様とも言っていたので、人間の方が上位なのか?
それとも、アリーセスの命で、僕に対しては主人という位置づけなのか……
いずれにしても、これからは行動を共にするのだから、あまりかしこまった関係にはしたくない。
「じゃあ、今度からは、ミューリと呼ばせてもらうよ」
「はい、それでお願いします」
ミューリが屈託のない笑顔で答える。
よかった、仲良くなれそうだ。
さっきは精霊の存在自体に驚いていたため、よく見てはいなかったが、ミューリの性別は女性に見えた。
アリーセスには性別がないみたいだったけど、精霊には性別があるのかもしれない。
「どのようなご用件で、私をお呼びに?」
ミューリが笑顔のまま僕にそう尋ねた。
「……アリーセスに言われるがまま、呼んでみたんだけど……」
何のために呼んだのかは、まだ聞いていない。
「創造主様が?」
ミューリがきょとんとした顔で尋ねる。
『ミューリアスに、水の中にいる魚を捕って欲しいとお願いしてみてください』
すかさずアリーセスが教えてくれた。
『あ、そういうこと』
「ミューリ、水の中の魚を捕ってもらえるかな?」
「了解しました」
ミューリがそう答えると、清流の中からニジマスに似た魚が、こちらに向かって連続で三匹飛び出て来た。
魚達は、地面の上で元気に跳ねている。
「三匹で足りますでしょうか?」
ミューリは嬉々とした表情で振り返りそう尋ねる。
「十分です」
上出来だろう。
……水の精霊って便利だな……
食材は確保できたけど……いくら新鮮な魚とはいえ、さすがに生でそのまま食べる気にはなれない。
魚をさばく道具はないため、丸焼きにするのが一番よさそうだ。
『アリーセス、もしかして、火の精霊のファライアにもお願いをすれば、魚を焼いてもらえるのかな?』
『はい、可能です』
予想通り、出来るらしい。
原始的ではあるものの、火と水の精霊がいれば、生きていくうえで、かなり助かるな。
それらも考えて、アリーセスは火と水の精霊を授けてくれたのか。
今となってはっきりと理解した。
……そういえば、さっきのやりとりで、ひとつ気になっていたことが……
魚をとる時といい、精霊を呼び出す時といい、アリーセスから直接精霊に命令すれば済むことも、先ほどから何故か僕がすべて代弁している。
『少し確認したいことがあるんだけど、ひょっとして、アリーセスは精霊に直接命令をすることはできないのかな?』
『はい、ウルクが予想した通りです。精霊は人間のパートナーとして創造しました。私も精霊達と会話はできますが、その力は人間のみが使用出来るようにしました』
……なるほど、そういう法則になっているのか……
けど、創造主であるアリーセスにとっては、不利な法則になっていないか?
『私は、人間を人形にしたかったわけではありません。私と同じように創造性を発揮できる存在としての人間と関係を結びたかったので、そのための環境と法則を創りました』
僕が喋る間もなく、アリーセスは話を続けた。
……また心を読まれたようだ……
要は創造主であるアリーセスが人間に過干渉出来ない法則を創ったことで、アリーセスの人形としての人間ではなく、創造性と自由を持った存在としての人間になれたということか……
まあ、人間にとっては、その方がありがたいんだろうけど……
もし逆に、アリーセスが人間に創造性や自由を与えることを望まなかったら、リゼラミアの人々は、今頃アリーセスの人形として存在していたに違いない。
ぐうう!
凄まじい音でお腹が鳴った。
考え事をしていたら、更にお腹が空いてきた。
まだまだ気になることはあるけど、それはそれとして、まずは腹ごしらえをしないとな。
「ミューリ、せっかく捕ってもらったんだけど。この魚達、しばらく水の中に入れておいてもらってもいいかな?」
火を使って焼いて食べるなら、魚を刺す枝でも探さないとな。
「了解しました」
僕は石で囲んで魚が出られないようにした。
後は、使えそうな枝を数本拾ってと。
枝は周囲に落ちており、意外とすぐに集まった。
ただ、魚だけでは味気ない。
『アリーセス、食べられるキノコや山菜を教えてもらうことって出来る?』
『はい、可能です』
アリーセスに確認をしながら、食べられるキノコや山菜も収集した。
……創造主と会話出来れば辞典もいらないな……
アリーセスと一緒にいれば、辞典がなくても、食べられる物かそうでない物かをすぐに知ることが出来る。
『あ、でも……、創造主であるアリーセスを辞書扱いなんかしてもいいのかな?』
『もちろん、構いませんよ』
……アリーセス自身がそう言うのであれば、いいのだろう……
何にしてもアリーセスとミューリのお陰で食べ物は簡単に手に入れられることが出来た。
食べ物を食べたい時に食べられる。
これほどの安堵感はなかった。
「何とか森の中でも生きていけているみたいで、ひと安心。え、どうして、創造主なのに、人間に対してそんな制限を課してしまったのかって? ……だって、一緒に喜びたいのに、操り人形みたいな人生を見ていても楽しくないよね……。……今まで会話出来る人がいませんでしたので……。辞典扱いでも何でも、会話出来る人がいるということが本当に嬉しいんですよ、ウルクw」
次回、「勇者としての使命」
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