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28話 サーフィアの精神世界

「……ここがサーフィアの精神世界……」


 精神世界に入る時は、空間の歪みがあり、移動後は少し頭がクラクラした。


 サーフィアの今の精神世界はとにかく暗く、一本道だけが唯一視界で確認出来た。

 ルビナフと僕は手を繋ぎながら、その道を走っている。

 

 精神世界だからなのか、全力で走っているが身体の疲れはない。

 ただ、闇に覆われているため、息苦しさは感じる。


「ヴァグリアに精神を支配されかけているので、精神世界で迷子になる可能性があります。ウルク様、私の手を離さないで下さいね」


「了解」


 道の先には今にも消えそうな光が見えている。

おそらくあそこにサーフィアがいるのだろう。


「サーフィアがいる所に辿り着いたら、どうしたらいいんだ?」


 勢いでサーフィアの精神世界に入ったが、よく考えたら無策だった。


「本来、人間が精霊と一緒に精神世界に入ったとしても出来ることはほとんどありません」


「え、そうなの?」


 じゃあ、ルビナフに任せておけばよかったのかな?


「ただ、ウルク様は、創造主様の能力をこの世界と連結させることが出来るという稀有けうな才能を持っております。その能力を使うため、サーフィア様の元に辿り着きましたら、何らかの形でサーフィア様に接触していただきたいと思います」


 なるほど、それで僕も一緒に来たのか……


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ……もう、疲れた……何も考えたくない……


 ただひたすら虚無感が押し寄せてくる。


 ……でも、このまま流されて、ヴァグリアに支配されたら、お父さん悲しむんだろうな……


 唯一その想いだけが、ヴァグリアの精神支配に対して抗っていた。

 しかし、そんな想いすらも、徐々に負の思い出が埋め尽くしていく。


 正気を保てるのはあとわずか。

 そんな実感があった。

 

 ……ごめんね、お父さん……、……私、限界みたい………


『どうして私の娘が闇の精霊使いなの!』


 小さい頃のお母さんとのわずかな思い出。


『あなたなんて生まなければよかった!』


 ……私って何のために生まれてきたんだろう……


 ……私は生まれてきて何がしたかったんだろう……


「ふふふふふ、あと少し、あと少しでこの娘の身も心も私のものになる……。ん?」


「そうはさせない!」


 突如、闇に覆われた世界に明るい声が響き渡る。


 ……誰かの声……、この声は……ウルク?……


「精霊使いか? よくここまで来れたものだ……」


 ヴァグリアが少し驚いた表情をしている。


「サーフィアを離せ!」


「面白い、ただの中位精霊使い風情ふぜいが、このヴァグリアに盾突くか!」


 ヴァグリアがそう叫ぶと、黒い光線をウルクと精霊に向かって放たれた。


「ウルク様、ここは私が時間を稼ぎます! サーフィア様の元へ」


「ルビナス、すまない」


 ウルクはそう言いながら、私のところまで駆け寄って来た。


「サーフィア、大丈夫か……」


 ウルクが私の手を握ってそう言った。

 握った手の周りに小さな光が灯る。


「……大丈夫ではないです……」


「……だよね……ごめん……」


 あれ? 

 ……そんなこと言うつもりなかったのに……、何だろう私、ウルクの前だと我慢が……


「……私、もう嫌なんです! 辛いんです! お父さんとの想い出以外いい思い出なんてないんです! ……みんな、私のことをこれ以上嫌いにならないで………」


 ……ああ、私は本当はこんなに弱い人間だったんだ…… 

 今まで必死に抑えて来たのに……

 

 言葉と涙が溢れ出して止まらない。


「…………ごめん……、サーフィアがどれだけ辛い思いをしてきたのか、僕にはたぶん想像がつかないと思う……」


 ウルクが申し訳なさそうな顔をしている。

 そんな顔をさせたくなかった。

 だから、感情をぶつけるつもりなんてなかった……

 

 ……ウルク、ごめんなさい……


「……でもさ、僕はサーフィアのこと好きだよ」


「え?」


 一瞬、思考が停止する。

 え? え? 私のことが好き?!

 急に全身が熱くなるのを感じた。


「そ、そんなでまかせ言わないで下さい。まだ数日前に会ったばかりじゃないですか……」


「……確かに、まだ数日間しか一緒に過ごしてないかもしれないけどさ……、サーフィアのお父さん思いなところとか、辛い過去があったにも関わらず今出来ることを必死に頑張ってる姿とか、少なくとも僕はサーフィアのことを尊敬してる」


 こ、今度は尊敬って?!


 ……ウルクは何を言っているんだろう……

 こんな私を好きだとか、尊敬してるとか。


 そんなことあるはずないのに……


「私、闇の精霊使いなんですよ! みんなから嫌われているんです! そんな私といたらウルクだって……」


 ウルクは知らないから……

 私がどれだけみんなから嫌われているのか……

  

「あ、それなんだけどさ……、ついさっき、僕も闇の精霊使いになっちゃたんだよね……」


「え?」


 そういえば、どうしてウルクはここにいるんだろう?

 どうやって、私の精神世界に入って来られたの?


 ウルクがどうして急に闇の精霊を授かったのかは分からないけど、ウルクも闇の精霊使いになった?!


「だから、今日からは闇の精霊使い仲間ということで……」


「バ、バカですか!! 私、言いましたよね! 闇の精霊使いはみんなから嫌われてるって!」


 気がつくと過去一番の大声で私は怒っていた。

 こんなに感情を爆発させたのは初めてかもしれない……


「い、いや、聞いてたけど……、サーフィアを助けたいと思って必死だったから……」


 ……この人は本物のバカだ……、………本当に尊敬できるバカだ………


「フフッ」


 思わず微笑する。


「……やっぱり、サーフィアは笑った顔の方が可愛いね」


 じっと私の顔を見ながら、ウルクがそう言った。


 か、可愛い……

 ……ううん、もう驚かない。

  

 ウルクは本当にそう思ってくれているんだ。

 私はウルクの言葉を信じたい。


「そう、僕はバカなんだと思う……、だからさ、サーフィアも僕と一緒に考えてくれないか? 闇の精霊使いがどうやったら、世の中から嫌われない存在になれるかってさ」


 ウルクがそう言って、私の頭を撫でた。 

 

「……し、仕方がないですね。ウルクがそういうのなら、協力してあげます」


 照れ隠しでそう言うのが精一杯だった。


「ありがとう」


 真っすぐな目でウルクが私の目を見ている。


「……バカ……」


 闇に覆われていたはずの私の心は、いつの間にかウルクによって解放されていた。



「バ、バカな、私の精神魔法が解かれるだと!?」


 ヴァグリアが驚愕きょうがくしている。


「……間に合いましたね……、ウルク様……」


 そう言った、ルビナフの姿は全身ボロボロだった。


「ルビナフ!」


 僕はそう叫んで、ヴァグリアとルビナフの間に割って入る。


「貴様、よくも私の計画を台無しにしてくれたな!」


 ヴァグリアが怒り狂った表情を向けてきた。


 ……これはまずいな……

 正面からぶつかって勝てる自信はない。


「サーフィア様も正気を取り戻しましたので、一旦、精神世界から出ましょう!」


 ルビナフがそう言ったので、

「頼む」

 と即答する。


 この場で対峙たいじするよりは少しは時間稼ぎになるだろう。

「……サーフィア、お母さんにまで嫌わられて……。……でも、ウルクのお陰で、精神を支配される前に、何とか間に合いましたね……。それにしても、ウルクは罪な男です……。精神世界はヴァグリアが得意とする世界!早く戻って来て……」


次回、「戦え!!」


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