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27話 闇の精霊ルビナフ

「どうして気がつかなかったんだ!」


 全力でサーフィアの元へ走りながら、自分で自分を責める。


 確かに違和感はあった。

 しかし、答えまで辿り着けなかった。


 魔王軍の本陣で敵に見つかったにも関わらず、すんなりと撤退できたこと。

 サーフィアの左腕の違和感。


 もっと早く気づいてアリーセスに相談していれば……


「でも」


 後悔している時間はない。

 少しでも早くサーフィアがいる所に行ってシムナ団長が辿り着くまでの時間を稼がないと……



「サーフィア! エミー!」


 二人がいる場所に辿り着くと、サーフィアは魔人が魔術で作り出している黒い靄に包まれ、エミーはその魔人の傍で倒れていた。


「ウ、ウルク……、……サーフィアが……」


 エミーが僕に気づき、弱々しい声で喋る。


「……エミー……」


 エミーに近寄り抱き抱える。

 魔人はサーフィアに魔術をかけるのに夢中でこちらの存在など気にもしていなかった。


「あの魔人は魔王十二将ヴァグリアです……」


「……あれが魔王十二将ヴァグリア……」


 話には聞いていたが、とてつもない魔力を保有している。

 直接対峙している訳でもないのに、全身に悪寒が走る。


「……ごめんなさい、サーフィアが精神魔法を掛けられているので、何とかしようと光の精霊魔法で対抗したのですが……」


 エミーは心身共にダメージを受けている様子で、喋るだけでも辛そうだ。


「エミー、それ以上喋らないで……。ミューリ、エミーを回復してあげて欲しい」


「了解しました」


 ミューリが以前僕にも使ってくれた「癒しの水」の魔法を唱えてエミーを治療し始める。


「問題は、こっちだけど……」


 ヴァグリアとの力の差は歴然。

 精神魔術を発動中であったとしても、エミーの中位精霊魔法では、全く歯が立たなかったと予測出来る。


 それは同時に、同じ中位精霊魔法を使う僕も同じ結果になる可能性が高いことを意味していた。


 もうここは、

『アリーセス、何か手はないかな?』

 創造主様に頼るしかないな。


 困った時の神頼みとはこういうことを言うのだろう。


『……あるにはあるのですが……』


 アリーセスが珍しく言葉をにごしている。


『あるなら、早く教えて欲しい』


 サーフィアの精神は刻一刻とむしばまれているはず。


『……分かりました。その方法とは、闇の精霊をウルクに授けて、サーフィアの精神世界に入り込むという方法です』


『……闇の精霊……』


 アリーセスが言葉を濁した理由が何となく分かった。

 闇の精霊使いがどのような扱いを受けてきたか、サーフィアからも聞いている。

 

『じゃあ、その闇の精霊を授けさせてくれ』


 だからと言って、躊躇ちゅうちょしている時間的余裕はない。


『……本当にいいんですね……』


『ああ』


『では、闇の精霊ルビナフ、ここへ』


 アリーセスがそう言うと、黒い粒子が集まり黒髪美少女の姿となった。


「お呼びでしょうか、創造主様」


『今日から、ここにいるウルクがあなたの主人となります』


「了解しました」


 ルビナフが僕の方を向いて地面に片膝をついて、

「ウルク様、私は闇の精霊ルビナフです。今後は、ウルク様を主として仕えさせていただきます」

 と言った。


「そんなにかしこまらなくてもいいよ。今後もよろしくね。それで早速で悪いんだけど、直ぐにひと働きしてもらいたいんだ……」


 ゆっくりと挨拶を交わしたいが今は時間がない。


「なんなりと」


「あそこにいるサーフィアという女の子の精神世界に入りたい」


「分かりました。それではウルク様、手をお借りします」


 そう言うとルビナフが左手で僕の右手を握り、サーフィアに向かって黒い光を放った。

 ルビナフとサーフィアが黒の光で結ばれる。


「準備はいいですか?」


「いつでも行けます!」


「では! 闇の精霊魔法、精神連結!」


 ルビナフの掛け声と共に僕達はサーフィアの精神世界へと入り込んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「……もうすぐ開戦だな……」

 

 魔王軍の先頭集団が、城塞の目前まで迫っている。

 が、俺達は森の中に潜み、魔王軍の本陣を待ち構えていた。


 いつもの戦いであれば籠城ろうじょうが基本的な戦い方なのだが、今回の戦いは両陣営のトップが最前線にいないという異例の戦い。


 ラミーニアからの報告を受け、二つ立てた作戦の内の一つ、一点突破によりヴァグリアの腹心デグルトを短時間で倒すという計画を実行することとなった。


「ジークスは流石に場慣れしてるな……」


 ロイドが言った。

 いつもはシムナ団長の補佐がメインと聞いていたので、今回の大役は気が重いのだろう。


「いや、正直、もう二度と見たくない光景だったよ……」


 何度も自己嫌悪に陥った戦場。

 もう二度と戻って来ることはないと思っていたんだけどな……


「……ミーシャ、行って来るよ……」


 だが、ミーシャの死を無駄にしないためにも、ヴァグリアは倒しておかなければならない。

 俺はそんな使命を感じていた。


「しかし、よくこの作戦を思いついたな? ヴァグリアが何らかの形で単独で城塞内に侵入してくる可能性があるなんて、発想すら出来なかったんだが……」


「……それは、ミーシャが教えてくれたんだ」


「ジークスの婚約者だった、あのミーシャが?」


 ロイドが不思議そうな顔をしている。

 ミーシャが既に亡くなっていることは周知の事実。


 そのミーシャがどうやって俺に今回の敵の作戦について教えることが出来たのか疑問なのだろう。

 

「夢で教えてくれたのさ」


 そう言いながら、俺は苦笑した。


 夢と現実を混同するなんて馬鹿げている。

 しかし、俺にはあの夢がただの夢だとは思えなかった。


 だから、方法は分からなかったとしても、ヴァグリアが同じような手を使ってこちらに潜入してくるという可能性を残しておき、念のため、その時の作戦も考えておいたのだが……

 

「まさか、本当にそのわずかな可能性が的中するとはな……」


 それは同時に、あの夢が真実だったということを、俺に告げているようにも思えた。

 

「だが、シムナ団長一人で向かわせて大丈夫だったのか? もちろん、シムナ団長の強さは知っているが……」


「だから、俺達が早く作戦を終わらせて、シムナ団長の負担を軽減するんだろ」


 シムナ団長がいくら神位精霊を持っているからといって、魔王十二将であるヴァグリアの強さは計り知れない。


 ただ、決戦が短期で決着を迎えた場合、ヴァグリアはいつまでも城塞内に留まっていることは出来ないだろう。

 そう考えての一点突破作戦である。


「そうだな」


「頼りにしてるぞ、ロイド副団長!」


 バン!


 ロイドの背中を叩いて激励する。


 俺が戦場を離れている間も、ロイドはずっと最前線で戦っていたんだ。

 俺はロイドを本当に尊敬している。


「ああ、いい加減、腹をくくるよ」


 ロイドがそう言い終えると、ちょうど、魔王軍の本陣が見えて来た。


「……魔王軍の本陣が見えてきたな……。ロイド、掛け声を頼む」


「了解。狙いはヴァグリアの腹心デグルト! 総員、突撃開始ーーー!!」


 ダダダダダダダ!


 ロイドが聖騎士団の精鋭部隊に激を飛ばし、俺達は魔王軍の本陣へと突撃を開始した。

「……そうすることしか、サーフィアを助けられないことは分かっている……、……でも……。……ウルク、どうか無事に帰って来て……。……いよいよ開戦ですね……。ジークス、ロイド、頼みましたよ」


次回、「サーフィアの精神世界」


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