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25話 闇の精霊使い

「……見つからない……」


 サーフィアがそう呟いた。


 エミーとラミーニア、サーフィアと僕の二手に分かれて、半日ほどスパイを探しているがまだ見つかっていない。


 サーフィアは情報を得てきた本人でもあるため、もし見つからなかったらとあせっている様にも見えた。


「でも、今日中には一通ひととおり確認できそうだね」 


 少しでも安心してもらえるようにサーフィアに話しかける。


 魔王軍の進行具合から、戦いが始まるのはおそらく二日後と予想されていた。

 変に焦る必要はない。


「……そうですね……」


 そう言いながら、サーフィアが深呼吸を始めた。


「ふぅ、私、焦っていましたね……」


 少し落ち着いたようだ。


「そういえば、潜入任務せんにゅうにんむって、サーフィアからもうし出たんだよね」


 ふと、気になった。


「はい。私、お父さんに安心してもらいたく……。あ、お父さんというのは、シムナ聖騎士団長のことなんですけど……」


「あ、シムナ団長がお父さんなんだね」


 アリーセスから聞いて知っていたが、サーフィアからは初めて聞く話のため、知らなかったていで話を聞く。


「闇の精霊使いということで、私、昔からよくいじめられていたんです」


「え、闇の精霊使いというだけで、いじめられの?」


 僕が疑問をいだいていると、サーフィアが驚いた表情をして、

「……そんな人もいるんですね……。でも今まで出会った人達は違いました。学校で友達になった同級生も私が闇の精霊使いだと知ると離れていきました……」

 と寂しそうに言った。


「そんなことが……」


 ……リゼラミアでは闇の精霊使いに対するイメージがそんなに悪いのか……

 サーフィアを見てて、そんな悪いイメージはないけどな……


「…………そんなにまじまじと見ないで下さい……恥ずかしいです……」


「あ、ごめん。期間は短いけど、サーフィアと一緒にいて嫌なことなんて、まったくなかったけどなぁと思って」


「え?」


「え?」


 僕が言ったことに疑問を抱くってことは、そう思ってもらえることに疑問を持ってしまうくらい嫌われてきたってことだよね……


 ……サーフィアは想像以上にひどい扱いを受けてきたのかもしれない……


「……ありがとうございます……」


 そう言ったサーフィアの顔は心なしか嬉しそうに見えた。 


「そういえば、腕の傷はもう大丈夫なの?」

 

「はい、傷も閉じてます」


 あれ、なら無意識に押さえていたのかな?

 デグルトに傷を負わされた箇所を手で押さえていたような気がしたんだけど……


「ウルクは心配性ですね」


「そうなのかなぁ」


 サーフィアが微笑びしょうする。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「申し訳ありません、スパイは見つけられませんでした……」


 決戦前夜、サーフィアがシムナ団長に報告する。

 本来であれば、任務を請け負った僕が報告するべきなのだが、サーフィアがどうしても私が報告しますと言ってゆずらなかった。

 

 結局、二日間かけて探し続けたが、スパイを見つけることは出来なかった。

 傭兵団がいるところは、エミー達と探す場所を入れ替えて二重にじゅうチェックしたが、それらしき人物はいなかった。

 

「いや、くまなく探していなかったのであれば、おそらくスパイはいないのであろう。もしかすると、魔王軍への潜入が見つかった時に、計画がバレたと思い逃げた可能性もあるしな」


 シムナ団長はそう言ってくれたが、サーフィアは悔しそうにしている。


「念のため、明日もギリギリまで探します」


「……そうか、では、スパイに限らず怪しい人物がいれば、報告してくれ」


 シムナ団長がサーフィアの気持ちをさっしてそう言った。


「了解しました」


 それにしてもどういうことなんだ?

 闇の精霊魔法で得た情報は、魔人達の会話を聞いただけ情報ではなく、魔人の精神にも入り込んで得た情報。


 仮に意図的いとてきに嘘をついていたとしても、その会話が嘘であれば見抜くことが出来る。

 ……シムナ団長が言っていたように、スパイはいたが逃げ出してしまったのか?


「ロイド副団長」


「はい」


「明日の戦いの指揮しきは、ロイド副団長が行ってくれ」


「私がですか!?」


 ロイド副団長が突然の大役に驚いている。


「まだスパイが紛れ込んでいる可能性を否定しきれない。私はどのようにでも対処出来る位置で待機したい」


「分かりました。そういうことでしたら、つとめさせていただきます」


 そう言いながらも、ロイド副団長が少し不安そうにしていたため、

「その代わり、ジークスにも補佐ほさについてもらう」

 と、付け加えた。


「本当ですか! あ、いえ、そうしてもらえるとありがたいです」


 ロイド副団長がほっと胸をで下ろしている。


「……ありがとうございます……」


 サーフィアが感謝の言葉をべる。


「いや、お前のためじゃない、総合的に考えてそう判断した」


 いやいや、どう考えてもサーフィアのためでしょ。

 思わず心の中でツッコミを入れた。


 サーフィアが娘だということは、指揮系統が混乱しないようにロイド副団長にも言っていないらしいが。

 

「でしたら、僕もスパイ捜査の任務を継続したいと思います。もしかすると何か見落としていることがあるかもしれませんので……」


「そうか、ではウルクも引き続き任務を続行してくれ」


「了解しました」


 ◇ ◇ ◇ ◇


『……明日から聖騎士団と魔族の戦いが始まるんだな……』


『……そうですね……』


 テントの中で、アリーセスに話しかけた。


 ……明日の戦いでは初めて魔人を殺さないといけないかもしれない……


 自警団の任務でも魔人と戦ったことはあるが、戦力的に有利な状況であれば殺す必要はなく、倒して浄化じょうかすることが出来た。


 しかし、明日の戦いではそんな余裕はない。

 戦場では敵を殺すくらい必死に戦わないと、自分が殺されてしまうだろう。


 ……魔人も元は人間という事実は、意識的に考えないようにしないとな……

 

『……もしウルクが魔人を殺すようなことがあったとしても、ウルクがその罪を背負う必要はありません。私がお願いしたことなのですから……』


 アリーセスが心の声を聞いてなぐさめてくれた。

 創造主であるアリーセスがそう言ってくれるのであれば、少しは気も楽になる。


 とはいえ、言われたままに行動しているわけではなく、自分でも選択して決めたことだ。

 全責任をアリーセスになすりつけることはしたくない。


 ……それに、今まで人間と魔族が戦う度、創造主であるアリーセスがどういう思いをしてきたのか……

 ……アリーセスこそ慰められべきじゃないのか?

 

 自分のことばかり考えて悩んでいる場合ではない。

 明日への決意を込めて僕はこぶしを強く握りしめた。

「……サーフィアも辛い経験をしてきたんですよね……。ウルクによって、少しでも心の傷が癒されることを願っています……。……ウルク……、最終的な責任は私にありますから、あまり背負い過ぎないで下さいね……。……私を慰めるだなんて、……ありがとう、ウルク……」


次回、「ヴァグリアの精神支配」


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